出ていけ! 異世界人どもめ

暁 一徹

プロローグ

 それは七年前にある夜の出来事だ。


 一人の異世界人により、俺の住んでいた厩舎という名を持った豪邸は一瞬火の海になり、何もかも消し炭に化けた。


 隣人であった馬たちは散り散りに逃げ惑い、あんな暴れた馬に踏まれないようにおやじは必死に俺と幼い妹を床に押し倒して自分の体を盾にする。


「プリンス……プリンセス……」


 恐怖心に支配された俺を慰めるよう、おやじは俺らの名前を優しく呼んだ。


「ああっ! おう〜 馬に踏まれるのはこんなに気持ちいいことなんて、初めて知ったわ〜いいぞ、いいぞおおう」


「え?」


 これから何分くらい経っただろう、おやじの気持ち悪い呻吟は馬なんかよりずっと恐ろしかった。っていうか、おやじの体すげえ臭いんだけど、馬のうんこより臭い。誰かこの汗まみれのデブおやじをなんとかして?


 まあ、とにかくおやじのおかげで兄妹とも無事だった。声だけはまだあんまり出せないけど。


「おやじ、お母ちゃんは?」


「大丈夫だ。お母ちゃんは俺が取り戻す」 


 それだけを言い残して、おやじは立ち上がった。その向こうに騒動の張本人が姿を現す。


 光がない故アイツの顔立ちは全然見えない。ただ一つだけは知っている。火を背景にした彼はおやじより背が高く、案外イケメンである可能性もなくはない。そういうオーラが溢れてくる。


「貴様が犯人か。さっさと子どもたちの母ちゃん返せ! はあ、めんどくせー。なぜ俺がこんな厄介なことしなくちゃいけないんだ? 本当はとうでもいいんだけど」


「返せって。お前の妻が勝手に僕についてきたんじゃないか?」


「そっか? そういうことだったか? そりゃもう無理だよな。俺やめとくわ」


 なんで? 諦めるなよ? お前の妻なんだろ? と叫びたいところだったか、異世界人は話を続けた。


「なら話が早いんじゃん。ちょうどいい。だってほら、このゴミ厩舎を燃やせってまで言ってた女なんだな。そうだろ、ダーリング♡ ん~チュっ」


「はい、そうの通りです。 私、もうこの人間に相応しくない場所に住みたくないです。それに、ニキタ様を好きすぎで私もう心も身もニキタ様の形になったんです。過去のこと全部燃やしてもいいくらい。チュウ♡」


 それはお母ちゃんの声だ。けど、お母ちゃんらしくない。うまく言えないけど、例えにすればちょっとお漏らししちゃうときの声に似ているかな。それに、あの「チュウ」はキスの音だよな。まさか、お母ちゃんがおやじ以外の男とキスなんて……


 信じかたい。しかし、後ろからおやじの震えた体を見るとそれは本当だったかもしれない。


「それを見て俺はわがったよ。はい、その女は許してやる」


 は!? 許すって? ちょっと待て。あの震えはもかして怒りじゃなくて婚姻から解脱された笑いっていうわけ?


 ダメだ。こうなったらお母ちゃんから絞リ出すミルクを飲めなくなるんじゃん。しっかりしろ、おやじ。


「これで俺はついにあのブス女から逃げられるわけだ。神様一体何のつもりでこの俺にこの素晴らしき贈り物を賜るんだ? ラッキーだぜ。貴様はまさに俺の恩人だな。もし家だけは見逃してくれたらさらに良かったんだけど」


「は? ブスだって? よく言ってくれたんじゃない。このデブ禿げ」


「デブ禿げって言うな! このメス豚!」


「ち、近づくなよ! この汚れだらけの豚肉め!」


「貴様なんかに触る気全然ねえし。貴様こそどけよ! この精液搾り女!」


「早漏男、ドM、禿げ」


「ビッチ、欲求不満、肉便器。で、禿げは余計だろ」


 えー、おやじとお母ちゃん一体何を言ってんだろう。語調からすれば、やっばり喧嘩だけど、息切れても罵り続ける必要あるの? というか、豚と禿げ以外の言葉全然意味分からん。


「ハハハ、これはこれはいい芝居だ。さてと、残念だが、僕はそろそろ戻ろうか、この女をいかせない行かないんからな」


「待て、一つだけ教えておこう」


「フン〜一体なんの御用だ?」


 手をお母ちゃんの腰に回し、この場を立ち去ろうとした異世界人はおやじに声に振り向いた。


「貴様は一体、どんな魔法を俺の妻に仕込んでメロメロさせたんだ?」


「簡単なことだ、魔法なんてない。ズバリ男のあれ、チンコのことだ」


「フン、つまり俺のチンコより雄偉だって言いたいか」


 その一瞬、わけもなく賑やかだった空気が一気に氷点下になった。


「言うじゃん。殺す! 俺は絶対貴様を殺す!」


「お前が? 短小チンコ持ちのお前が? 笑わせるなよ!」


 マジキレたおやじはあの異世界人に正拳突きしようと勢いよく走りだす。けど、おやじのパンチは一発も当たらず全部避けられた。そして、異世界人は人差し指をおやじに指すと、まるで列風に吹かれたように、おやじはごろりと後ろに飛ばされ横になった。


「貴様! 俺のチンコが短小なんてじゃないんだ!」


「ほお~、お前に証明のチャンスを与えてやろう」


「なに?」


「僕とゲームしようぜ。お前が勝ったらこの女は返す。いい話だろ?」


「いらねえ、俺のチンコがお前より雄偉であることを認めていいんだ」


 いや、いるのよ。間違いなくいるのよ。お母ちゃんのミルクがおいしいいなんでしょ。それより、おやじのチンコこそどうでもいいのよ。


「ニキタ様~! 私はニキタ様のチンコじゃないといやなんです。勝手に私を賭けないでください!」


「そっか? じゃ、そうしよう」


「俺が負けたら?」


「大したことないさ。チンコくらい消し炭にさせてもらうっていう話だ」


 やばい。聞くだけでやばい話に聞こえる。チンコを消し炭に!? だったらどうやっておしっこするのだ? それに加えて、あのにとりとした笑顔は不吉な予感しか感じない。乗るんじゃねえよ、おやじ!


「おやじ!」


「言うな。真の男には戦わなければならない時があんだよ! それは俺の教えだ。俺だって決めるときは決める!」


 せっかく言葉を何とか言い出せたのに、おやじは俺の話しを聞いてくれなかった。彼はただ俺に微笑みを見せて自信満々に相手に立ち向かう。


「その話乗った! ただ一つだけは約束してくれ。俺の子供は関係ないんだ。アイツらを見逃してくれ」


 あの時俺は生まれてから初めて思った。デブにも禿げにもかかわらず、おやじはちゃんとすげえ格好いいところがあった、と。


「どんなゲームでもかかってこい!」


「よかろう。さあ、男の勝負とすれば、やっばりあれだ。チンコじゃんけんだ!」


「チンコじゃんけんだと!?」


「わからないのか? じゃ、ルールを言わせておこう」


 いや、チンコもじゃんけんもそれぞれの意味は分かるが、合わせたら全然分からん。俺もちゃんとルールを聞いておかないとな。一応男のブライトを賭けたゲームだし。いつか役に立ちそう。


 異世界人はべらべらとルールを言っていた。略して言うとこのゲームはつまり、お互いチンコを晒し出したまま、チンコの歌を歌ったりリズムに合わせて踊ったりしながら、じゃんけんをする。勝ったほうが自分のチンコを持ち上げ、自分の鞭として上から敗者のチンコを打つ。誰かか攻撃に耐えられなく倒れる前にゲームは続く。すなわち、チンコにフライトを賭けた勝負だ。なるほど、確かに男の勝負に相応しい。


「さあ、ルールは理解したか?」


「ああ、始めようぜ。今こそ俺のチンコの雄偉さを思い知らせてやる!」


「臨むところだ!」


 そして二人の戦いは始まった。チンコを出したまま、二人は踊る。認めたくはないが、あの異世界人結構うまいな。紳士的な手振りや動き、もしかしてダンサーだったか? 

 

 それに比べて、おやじは何してんの? ただ手を揺らしたり、足を蹴り上げたり……って、もうへばっているじゃん!?


「「じゃんけんぽん、あいこでしょ、しょっ!」」


 じゃんけんはおやじの勝ち。つもり先攻のチャンスをもらったか!?


「やったぜ。この一撃で貴様を打ち倒す!」


「ちょっと待った。僕言ってなかったか? 一局目は負けの方が攻撃するルールなんだけど」


「そっか? すまん、すっかり忘れてた」


 ちげえよ! 全然言ってないだろ。おい、おやじ! そう簡単に騙されるな!


「さあ、僕の一撃を食らえ!!」


「おおおうう!!」


 かなり致命的な一撃だった。おやじは床に膝をつき、苦しげにうめく。


「よく耐えてくれたな。もっと僕を楽しませてくれ!」


「くっそ! 今度こそ貴様に勝つ!」


 そして、二局目。今度はおやじの負けだ。ついにおやじも攻撃のチャンスが来たな。


「さあ、行くぞ」


「もう、ちょっと待ったよ。二局目は勝った方が攻撃なんだろ」


「まさか?」


 いや、ショックしないでよ! 明らかに嘘なんだろ! この禿げバカ!


「さあ、お前はこの一撃を受け止められるかな?」


「おおおおうううううううう!!!!!!」


 まさか、さっきのより強かったとは? おやじは両手で自分のチンコを覆いかぶったまま地面に伏せた。


「さあ、そろそろゲームを追わせてもらうか」


「まだだ、俺のチンコはこのくらいで負けたりはしない!」


 だから、お前のチンコはどうでもいいって。ともあれ、おやじは何とか再び立ち上がった。


 そして、三回戦。始める前におやじは異世界人に言った。


「今回はどっちが打つんだ? 勝ったほう? 負けのほう?」


「そうだな。今回は勝ったほうにする」


「「じゃんけんぽん、あいこでしょ、しょっ!」」


 三局目はおやじは勝った。ついに反撃の手を捕まった。


「よくみってろ! 俺様のチンコを! 全部を食いつけてやる!」


「かかってこい! 防御能力もチンコには大事だ!」


 おやじは勢いよく空を飛べ、両手に握られたチンコで相手を切る。すると、二人とも黙ったまま佇んでいた。


 もう決めたか?


「ごめん、俺はチンコのフライドを守れなかった」


 と、おやじは倒れて、その後一度も立ち上がらなかった。


 勝った異世界人はお母ちゃんとともに俺の方に近づき、俺を見下ろした。俺も終わりを迎えるのかな。


「ごめんね、プリンス。母ちゃんは幸せのためにいっちゃうの。これからニキタ様のチンコでいっぱいいっちゃうの」


 母ちゃん、なんで俺から離れるんだ? おやじはバカとはいえ、俺と妹は悪くないでしょ? 


「うん、僕は見抜けた。貴様もおやじのように、小さいチンコを持つことを」


 そして、異世界人は俺に背を向けた。


「僕の名は根鳥二北ネトリニキタ。あらゆる人妻をメロメロさせて寝取りするというユニックスキルをもらっている。そのなはNTRだ。もしお前は小さいチンコでなければ、いつでも僕にリベンジしに来い!」

 

 それだけを言い残して、彼は俺の視線から消えた。その場に、「チンコチンコ」しか言えない幼い妹と小さいチンコの持ち主である俺が残されていた。


 これはすべてのきっかけだ。そこまで「小さいチンコ小さいチンコ」ってなめられたら、我慢できる男はいない。たまるものか、この屈辱!


 異世界人よ、お前たちのやったことを後悔させてやろう!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

出ていけ! 異世界人どもめ 暁 一徹 @yukilemon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ