新着 20:31 お姉ちゃん

 新着の留守電を再生する。どうやら20時31分にかかってきたものらしい。

『もしもし?ねぇ、お願い、出てよ』

 ──その時だった。

 電話の向こうでパンッと、火薬が弾けるような乾いた音が2、3発鳴った。

 それに続くのは、音割れした悲鳴。

『きゃああああぁあぁああ──』ブツッ……

 悲鳴は最後まで再生されず、途中で強制終了した。

                 ◇

 やっと自宅に着いた。

 途中、後輩ちゃんから着信があったが、それに出ている余裕はなかった。


 それと。

 走っている時、なにかの拍子にお気に入りのキーホルダーが落ちてしまったけれど、それも無視してきた。

 物はまた買い直せば良い。優先すべきは家族。

 ────だ。

 家は真っ暗だった。窓は外側の景色を反射している。未だ掴めていないこの状況に、それは酷く不気味に写った。

 中の様子は窺えない。何も見えない。そこに何があって、何が隠されていて、何の思惑があって、何が起こっているのか。

 私は家に入る前に、妹に再び電話をかけることにした。縋る様に。

 この電話に出てくれさえすれば、私は何に怯える事もないのだ。全ては杞憂。それで終わる。

 でも、

「……………」

「………………………」

「……………………………………」

「………え……なんで」

 しかし結果として、電話は繋がらなかった。

 発信履歴には【20:30 ういか】。

 たぶん、たまたまだ。タイミングが良くなかったんだ。

 文字を見つめ、そう自分に言い聞かせる。

 時間をおいてからまた掛け直そう。そう思い、しかし待ちきれず、31分になったところで私は発信ボタンを押していた。

 コール音が暫く続き、やがて留守番電話サービスの自動音声に切り替わった。発信音の後にお名前とメッセージを、という定型文が流れて、そして、

「もしもし?ねぇ、お願い、出てよ」

 懇願する。そうしながら、私の足は家の扉へと進んでいた。

 電話口の向こうのういかが答えをくれないのなら、もしも扉の先に答えがあるのなら、私はそれを確かめなければならない。

 私は姉として、真実から目を背けてはいけない。

 私は恐る恐る扉を開け、中に入った。

 瞬間、眩い閃光と共に、乾いた破裂音が何発か炸裂する。

 私の喉は思わず悲鳴をあげていた。

「きゃああああぁあぁああ──」

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