不在着信 19:50 魅春

 魅春とは、私と姉の共通の友達。

 幼馴染のような間柄で、たぶん普段から、私達の事を、私達以上に気遣ってくれている。しっかりとした女の子だ。

 そんな魅春からのメッセージ。


『あ、もしもし?あたし、さっきたまたま“あーちゃん”見かけたんだけど、……なんかちょっと様子が変でさ。電話してると思ったら、急に血相変えて〈雨漏り〉の方へ向かってったのよ。なんか心当たりある?そっちで何かあった?今、あーちゃんに内緒でバイトしてるのよね?〈雨漏り〉で。………。また連絡するわ』


 “あーちゃん”というのは、魅春が呼ぶ姉の渾名だ。そこは普段通り。

 しかしそれ以外は、訝しむような物言い。不審がる物言い。姉のその行動に、魅春自身も不安を覚えているような。

 こちらを慮る物言いには、そんな魅春の感情の吐露も含まれているような気がした。

                 ◇


 私は〈雨漏り〉に向かう事にした。

 来た道を引き返す事に躊躇はない。先程プレゼントを買った雑貨屋の前を、韋駄天走りで駆けていく。

 “早く家に戻れ”などという非通知のメッセージに素直に従うよりは、に相談した方が得策だろう。そういう賢明な、言い方を変えるなら、臆病な判断だった。

                 ◇

 走る最中、私は次の留守電を再生する事にした。

 事は急を要する、かもしれない。


 ────4件目。


 相手は住吉先輩だ。

 〈雨漏り〉で働くバイトの先輩であり、私たち姉妹が通う高校の先輩でもある人物。私と姉はありがたいことに、彼女にはとても可愛がってもらっている。私たち姉妹にとっては、そう、まさにお姉さんのような存在。だ。

 だから画面を押す指には、少しだけ期待がこもってしまっていた。



 住吉先輩の声───。

『すまん。さっき、大切なことを言いそびれていた』


 再生されたその音声。その前置きの意味とは──。

 大切なこととは、一体なんなのだろうか。

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