13 作付計画の決定【尾倉香菜×メガネ】
ゼアズ・ア・ファームBグループの栽培する品種が決まったところで、いよいよどの畝にどの野菜を育てていくかという作付計画を立てることになる。
先ほど皆が希望を書き込んだ野菜の品目リストを越川が脇に置き、今度は横長の長方形を縦に並べた紙を座卓にのせる。
紙に描かれた九つの長方形が、先日皆で立てた畝を表していることは一目瞭然であった。
「では、具体的にどこでどの野菜を育てるかですが、作付計画で通常まず考慮すべきなのは、連作障害を回避することです。毎年同じ場所で同じ作物を連作していると病気に侵されやすくなるというのは皆さんも聞いたことがあるかと思いますが、例えばトマトやナス、ピーマン、ジャガイモといったように、同じ科の野菜同士も避ける必要があります」
「えっ? ジャガイモってイモ科じゃないの!?」
素っ頓狂な那須田の声に、越川はにっこりと頷く。
「実はじゃがいもはナス科の野菜なんです。食材として “芋” と一括りにしてますが、サツマイモはヒルガオ科、サトイモはサトイモ科、ナガイモはヤマノイモ科ですし、芋として食べる部分も地下茎であったり根であったり、
「なるほど……。どこで何を育てるかという計画を立てることは、将来に渡り野菜を作り続けるためにも、とても大切なことなんですね」
香菜の的確なまとめの言葉で作付計画の重要さが伝わったのか、さすがの苺子もいじっていたポットの苗を置いて、座卓の上の紙を覗き込んだ。
「確かに、賢い香菜センパイはともかく、どこに何を植えていたかなんて、頭の悪いあたしはすぐに忘れちゃいそうですもん」
「あら、アンタもたまには己を冷静に分析できるのね。だからって褒めてあげる気はナッシングだけど」
「別に那須田サンに褒めて貰わなくてもいいですよぉーだ。根木サン、苺子に “いいこいいこ” してくださぁい♡」
「いや、今ので褒めるポイントはどこにもなかったように思うんだけど……」
根木の言葉にぷくっと頬を膨らませる苺子だが、皆相手にする気もないらしい。
そんな光景を微笑ましげに見ていた越川が、話をやんわりと本筋に戻す。
「先ほど僕は同じ科の野菜同士での連作も避けた方がいいと言いましたが、作付計画を立てる際には、同じ科の野菜をまとめて配置すると、その後の輪作のローテーションが組み立てやすくなりますよ」
「ということは、俺たちの場合、ナスとトマトとピーマンをナス科グループ、スイカとキュウリをウリ科グループとしてまとめればいいんですね」
ペンを取った根木が、畝を表す長方形の中心部に栽培予定品種を書き込んでいき、香菜がそれを確認する。
「オクラはスイカのコンパニオンプランツだから、ピーマンとスイカの間の畝で育てることにしましょう。あと、トマトの畝にバジル、ピーマンの畝に落花生も書き込んでくれる?」
「了解。残りのトウモロコシ、エダマメ、サツマイモはその下に書いて……と」
根木が次々と野菜の名前を書き込んでいく途中で、越川が「そう言えば」と差し挟んだ。
「言い忘れていましたが、トウモロコシとエダマメも混植がおすすめですよ。この二つの野菜の組み合わせは、お互いにつきやすい害虫を寄り付きにくくするほか、エダマメの根に共生する根粒菌が空気中の窒素を植物の使いやすい形に固定し、トウモロコシの生育を助けるという効果があるとされています。また、トウモロコシの実の揃いを良くするためにはできるだけ多くの株を植えた方がいいのですが、エダマメとの混植で二畝分を使えれば、それだけ多くのトウモロコシを植えられますしね」
「わあっ、トウモロコシもエダマメもたくさん植えたいですぅ」
「でもトウモロコシを沢山植えたら、それだけ
「はあ、仕方ないですね……」
かくして、Bグループの今期の作付計画は以下のとおりにまとまった。
┌─────────────────┐
| ナ ス |
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| トマト・バジル |
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| ピーマン・落花生 |
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| オクラ(スイカ) |
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| スイカ |
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| キュウリ |
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| トウモロコシ・エダマメ |
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| トウモロコシ・エダマメ |
└─────────────────┘
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| サツマイモ |
└─────────────────┘
「ゴールデンウィーク明けに、いよいよ種まきと植え付けを行います。収穫の喜びを皆さんで分かち合えるよう、楽しみながら頑張りましょう」
「はいっ!」
日本の昔からの農家の知恵を随所に取り入れた、循環を基調とする暮らし。
それを全ての人が無理なく持続的に取り組むためのコミュニティを作りたいという、越川流パーマカルチャーの目標。
少量多品目栽培やコンパニオンプランツのメリット。
作付計画の重要性。
今日の越川宅への訪問では、パーマカルチャーや野菜づくりについての様々な知識を得ることができ、自分自身にとっても持続可能な循環的暮らしを模索するきっかけとなった気がする。
セミナーの企画者としても、一人の人間としても、自分の取り組むべきことに一筋の光明を見出した心持ちで、越川の自宅を後にした香菜であった。
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