02 ため息しか出ないメンツ【根木颯太郎】
よりによって、どうしてこの面子なんだ……。
第五セミナールームに集まったBグループの面々を見て、
「パーマカルチャーっていうのが、持続可能な自給自足をベースにしたエコロジカルライフデザインであるということはわかったけれど、アタシ達社員が自給自足を体験する必要ってほんとにあるのかしらねえ」
頬に手を当てて小首を傾げるコケティッシュな仕草をするのは、プロモーション部門のデザイナーである
万年ピッチピチのタンクトップで己の筋肉美を誰彼かまわず余すことなく見せつけるガチムチ系オネエである。
「ほんとですよねえ。セミナーの講師はその道のプロを呼ぶんですから、あたし達が農業までやる必要はないと思うんですけど。まあ、そうは言いつつも、根木サンと同じグループになったのはラッキーかなっ」
ロリ顔をあざとく綻ばせて根木に熱っぽい視線を寄越してくるのは、二つ年下の後輩、野田
彼女が昨年の入社直後から営業部のホープである自分をロックオンしていることに気づいてはいるものの、ロリ顔と爆乳のアンバランスさがあまり自分好みではなく、根木の方からアプローチするには至っていない。
もっとも、男性社員に絶大な人気を誇る彼女に好意を寄せられていること自体は悪い気がしないので、苺子からのラブ光線はいつもクールな笑みでさらりと躱す根木であった。
それよりも――――
「総務部の話では、パーマカルチャーの講師をお願いしてる一人から、我が社の社員にも農作業を通して理念を体感させてはどうかという提案があったみたい。神崎社長はそれを受け入れて今回の社内研修を計画したのよ。セミナーを企画し、売り込む立場の私たちが得るものもきっと多いはずだわ」
右手中指の腹でついっと紅縁メガネを押し上げ、凛とした口調で話をまとめるのは根木と同期の
根木は彼女が苦手だ。
いや、正直なことを言えば、比較的長身でスレンダーな彼女のプロポーションは、彼の好みのど真ん中である。
メガネ属性に特別萌えるわけではないが、デキル女を気取った紅縁オーバル形のメガネの奥にそこそこ整った
だがしかし、いかんせん性格に可愛げがないのだ。
同期入社でお互いにホープと呼ばれているせいか、彼女はどうも自分をライバル視しているらしい。
企画部と営業部の合同ミーティングの時には、自分の発言に必ずと言っていいほど突っかかってくるし、理詰めで引き下がらせようにも小賢しく反論してくる。
彼女にもう少し可愛げがあれば、同期のよしみで食事くらいは誘ってやってもいいと思っているのに……。
そんなことを思いつつ、非常に扱いづらい三人を前に、根木はもう一度ため息を吐いた。
「社員にパーマカルチャーの理念を体感させるって言うんなら、部門長やチーフクラスも農作業グループに組み込むべきだとは思うけどな。まあ、オネエ一人と女子二人でも、腰痛抱えた使えねえオッサンと組まされるよりかはなんぼかマシだけど」
「あら、オネエを馬鹿にしないでよね! 根木君のヒョロっちい腕よりチカラはあるわよ」
「根木君、今のは完全に女性蔑視の発言よ。営業職のあなたが不用意にそんな発言をしたら、当社のイメージダウンになりかねないわ」
那須田と香菜の抗議に、根木は三回目のため息を吐いてから反論する。
「女性蔑視じゃなくて、むしろフェミニストと言ってほしいな。泥臭い力仕事の大部分を俺がひとりで請け負う覚悟の上での発言なんだから」
「相変わらず屁理屈がお上手ですこと。言っとくけど、女子に農作業を任せられないなんて考えるのは、偏見以外の何ものでもないですからね。実を言うと、私、亡くなった祖母のやっていた家庭菜園を小学生の頃に手伝っていたの。少なくとも根木君よりは畑仕事に慣れてるはずよ」
メガネ越しに投げられる香菜の上から目線が面白くなくて、ふいっと逸らした根木の視線が苺子とぶつかる。
必要以上に自立心の強い香菜とは対照的に、依存心の強い苺子の方は凝ったネイルのつく指を土で汚すつもりはさらさらないらしい。
「根木サンと香菜センパイがいれば、Bグループの作業はばっちりですね! どんな野菜が食べられるのか、今から楽しみーっ」
「あら、着飾ることしか能のない若い
男性社員に無条件にチヤホヤされる苺子が気に入らないのか、那須田が鋭い棘を吐いたものの、当の本人は華麗にスルー。
この機会に根木という
どちらにしてもこの面子で野良作業など、自分のライフがガリガリ削られるだけだと、根木はもう何度目かもわからないため息を深く吐くばかりだった。
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