第14話 銃士になる(銃士)
豪華客船に比べると揺れが激しいが、そこらの釣り船よりは大きな船のようだ。
食堂で取れたての魚を食すことにした。
中年の、いかにも食堂のおばちゃんといった雰囲気を醸し出す女性がにかっと笑う。
「はい、海鮮丼ね」
食堂のカウンターから大きめのどんぶりが、ごとり、と音を立てて現れる。
「はい、味噌汁ね」
さらになみなみと注がれた味噌汁の入った木の器が、こぼれないように、そっと置かれた。
「横にあるお盆にのせて、好きな席に座って食べてね。あ、はしとかドレッシングはあそこにあるから」
彼女はカウンターからこちら側に手を出し、少し下を指さした。なるほど、カウンターの下にあるスペースにごまやらはしやらポン酢などが並べておいてある。
「慣れているようですね」
俺は見慣れない顔と理解し、なぜここにいるのかの理由も訊かずにこの食堂の使い方を教えてくれる彼女のことが気になった。
「うちの船長はよく遭難した人を海から引き上げるのさ。それがもう既に天に召されていてもね」
気味の悪い話だ。死体が折り重なった部屋を想像し、口をきつく締めた。
「それにしても遭難者を見つけることが多すぎる気がするんだけどね」
彼女は不思議そうに頭を傾ける。俺は次の客が来る前に一つ問うた。
「この船は何の為に動いているのですか」
「さあね。あたしは船長が海に出るって言ったら付いていくだけだよ」
この米が少し固めに炊かれているのは温かで味の濃いめの味噌汁にいれてもべちゃべちゃにならないように、かもしれない。
ともかく俺は食べていた。海鮮丼といっても酢飯ではなく、上にかけるのも醤油以外・・・・・・例えばマヨネーズでも良いわけで、そうするとカルパッチョに近いアレンジも出来るのではないかと考えながら口に運ぶ。
「よお、兄さん、海水浴はどうだったんだい?」
俺の後に食事を受け取っていた男性が俺の席のすぐ横にお盆を置いて話しかけてきた。
「いいもんじゃなかったかな」
実際海水がまだ気道に残っているような痛みがある。
俺が素直に答えたことに少し眉を上げた後、くわ、と口を開いて笑顔を作った。
「そうかいそうかい、まあこの船が転覆することはないから安心しな。この船が次に着く港が、お前さんの第二の故郷になるわけさ」
「どうだか」
人と話すのは嫌いではないので、咀嚼を挟みながら応える。
「ところでお前さんは銃を使うんだね?」
他の人に見えないようにか、俺の腰にあるホルスターを人差し指でこっそり指した。
「そうだよ。今は乾かしてるけどね」
何となく、冷やかしでないのが伝わってきた。好意で話をしてくれているような。
「じゃあ俺のをやるよ」
彼はがばっとシャツをまくり腹部を晒した。
「俺、ここにずっとしまったままだと飯を食ったときに苦しくなるから」
ズボンと腹の間に、小型のリボルバーが挟まっていた。
彼はそれを取り出すとふうふうと息を吹きかけ、冷ますようなそぶりをした。
「俺の腹でしこたま温めておいたから、だははっ」
差し出されるままに受け取ると、そこまで温かくなっておらず、もしかすると俺のために自室から持ってきたのではないかとまで考えられるような話の早さだった。
ともなくして、俺はまた銃士となったのだ。
ご主人様は自動人形 宮里智 @miyasato
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