第13話 昔のお話(自動人形)

 研究団体から宣戦布告を受けたところで、私が何か対策を取るということは恐らく無意味になるだろう。

 研究団体とは昔からの付き合いだが、メイドが何かしたというだけで殺されるような暇な奴らではない。恐らく殺す理由が欲しかったのだろう。

 元々研究団体との仲は冷え切っていた。私が自動人形になることでお互いもう口を出さないと取り決めを行ったが、それでもやはり研究団体としては私を抹消した方がいい。その地位が揺らぐ大きな原因をひとつ減らせるのだから。

 私は数年前、研究団体の職員と共に洞窟を調査していた。


 ぽつううん、ぽつううんと水が落ちる音が反響する。十と五つ目の洞窟探索は当たりを引き当てたようだった。所々に淡い光を放つ欠片が落ち、所々人工的に壁の形を整えた跡がある。

 私たちがある島に籠もってからひとつきほど、ひたすら地面という地面に調査機を押し当て、埋まってしまった空洞を見つけては入り口を作るために爆破し、中を調べた。大昔にあった地震のせいで、穴という穴は瓦礫に埋もれてしまったからだ。力尽くで開けるしかなかった。島の地盤が揺るがない程度の爆破なのである程度自然に配慮しているという口述は出来る。当時の成果主義の私はそのようなやり方について、特に疑問を思わなかった。爆破に驚いて駆け回る動物たちを、何も思わず眺めていた。・・・・・・いや、眼中にもなかったかもしれない。

「ありました!」

 安全確認の為に先に奥に入っていた下級の職員は声を飛ばした。その合図で私たち上級の職員は足を速め、さらに深部へと向かった。


 深部に近くなるほど、壁に私たちの求めている、ある「模様」が見受けられるようになった。

 円と棒と正方形からなる、象形文字の一種。構成は非常に簡単な記号だが、それらが複雑に絡み合い、一つ一つの文字を形作っている。多くの象形文字は、一文字だけで一つの文章くらいの意味を持っている。まだ解明できていない文字も、いくつか壁に彫ってあったり、文字が刻まれている皮が留めてあったりした。


 奥に進んだ私たちは、呼吸をするのを忘れた。自動追尾させていた電灯を切り、さらに近くまで恐る恐る足を運ぶ。

 地面に敷き詰められるように生える青い葉、宙に浮かぶいくつもの小さな赤い結晶。天井部分からは優しい太陽光にも似た光と青空が降ってくるようだった。

 自然と調和する構造、これらが太古に作られたものとは思えないほど、精密に自然を人工していた。

 頭のいい人が研究を代々続けることで見出された新しい知識は、頭のいい人が長年かけて考えたからであって、人類が進歩したわけではない。選ばれし者が、相当の時間をかけて編み出しただけのことで、人類の頭が変わったわけではない。

 そうわかりきっているからこそ、この知識の集合体とも言うべき小部屋の価値が、わかる。

 人工と自然の融合。研究団体が目指してこなかった、もう一つの知識の形だった。

 洞窟の行き止まりに唐突に現れた楽園に、私たちはしばらくその光景を目に焼き付けていた。私は指揮官として、青空を見上げようと小部屋の中心へ歩き、他の研究員に今の状況を録画していることを確認した。

 温かな太陽の光を受け、中心まで来ると、地面に例の象形文字が書いてあるのに気がついた。頭の引き出しを開けながら、その意味を探し、そして思わず、天を仰いだ。

 目に入る有害な光線を含んでいるであろう人工太陽の光。

 次の瞬間、私の体は太陽と一体になった。

 自らの体が熱源となり、服が焦げ臭いにおいと共に消え去っていく。

 焼却して貰おうと研究員のところに駆け寄ろりたいが、痛みと熱さと驚きと、そして少ししてから納得が全身を支配し、諦めた。

 そのまま私は永遠に燃え続ける体から離れることとなったのだ。

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