第12話 銃士さんの残したもの(メイド)

 銃士さんはすぐに戻ると言って出て行ったけれど、手錠の知恵の輪が解き終わっても戻ってこないので、手錠を机の上に置いて外に出ようとした。丁度船員と見られる人がドアをノックしようとしていたらしく、お互いの顔を見つめ合ってしまった。

「あっ、すみません」

 私はとっさに謝ったが、船員はまるで気にしていないかのように口を開いた。

「先ほどは多大なご迷惑、ご心配をおかけして申し訳ございませんでした。こちらの通報を受け、国の警護船が犯人の無力化を確認したそうなので、もう部屋から出られても問題ないことをお伝えしに参りました。放送でお伝えするとご質問などにお答え出来ないかと思い、直接船内を回っております」

「無力化・・・?」

 私が助けた銃士さんは、どうなったというのか。

「船内に銃器をもつものはもうおられないということを、レーダーで確認したようです。また、犯人として取り押さえていた人物は、警護船が撃ち落としたとのことです」

「警護船は乱暴な真似をしますね」

 私は顔をしかめ、船員から目を外す。これだから警護団体は嫌いだ。銃士さんのことだから、なんとか生き残っているといいが、撃ち落としたとは・・・・・・。今は無事を信じるしかない。

「お客様の安全を守るのが最優先であり、犯人は既に確定しておりましたので、ご安心下さい」

 安心も何もできない。次に私が取るべき行動は決まっている。

「わかりました。もう船内は自由に歩いていいんですね」

「ええ、問題ございません」

「それではゆっくり巡らせていただきますね」

 船員とドアの間を無理やり押し広げるように部屋を出た。


 そして甲板。銃士さんの姿は勿論見えない。しかし、甲板に血の跡すらない。警護団がふき取ったのだろうか。

甲板には人ひとりいない。まあ、撃ち落された人の行く末を見るよりは船内で踊り明かしていたほうがずっと幸福になれるだろう。

――しかし、野次馬すらいないとは――。

あたりを見渡しながら、海の方へ歩いていると何かを蹴飛ばしたようだ。カラカラと音のする方を見て、うわ、と声が出そうになった。

そこにあったのは黒いキューブ。真っ黒な立方体。警護団体のシンボルであり、国直下に設立された研究団体のシンボルだ。

まさかこれを撃ちだして銃士さんを海に落としたわけではないだろうな、と黒い立方体を手に取る。

 黒い立方体は手のひらに収まるほどの小ささがありながら、小さなダンベルになりそうな高密度の物体で出来ている。それでいて、このように角があっても欠けることがない。弾丸で打ち出したとしても、この物体が壊れることはないだろう。

 学校で習った平凡的な知識から生み出された推測だけでも、警護団への黒い感情は高まっていくばかりだ。

 こんなもの……! こんなもの……!

 高ぶる感情が抑えきれず、黒い立方体を海の方へ投げた。

 ざばあ、と波の音が立方体の水へ落ちる音をかき消した。

 というだけではなかった。

 巨大なロボットの頭が海から覗いている。

 海の方から浮かび上がってこの甲板まで顔を出し、真っ黒い立方体を子供の積み木のように組み立てたそれと、目が合った。

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