インタールード - 静かな、静かな夜のこと
もちみかん
インタールード - 静かな、静かな夜のこと
遺されたのは、一番年下の彼だった。
彼は彼女を模したAIを作り上げた。そしてAIと共に彼女と会う為に研究を続けていた。
それは危険な試みだった。権力に目を付けられねじ伏せられる可能性もあった。
しかし彼は続けた。全ては彼女に再び出会う為に。
そうして舟は出来た。宇宙を旅するロケット。定員は彼一人。
ずっと遠くに飛んで行って、そうしたらきっと彼女に会えるはず。
そう、彼は信じた。
「ライラ、電気を消してくれないかい?僕は明日に備えてもう寝るよ」
『かしこまりました。いつも通り夜空の投影はなさいますか?』
「お願い」
大事な施設の大事な部屋から離れる訳にはいかなかった。彼は冷たい床に毛布を一枚敷き、そしてもう一枚毛布をかぶり、瞳を閉じた。
『おやすみなさい、アンカー博士』
「うん、おやすみ」
これまでと同じように、部屋の天井にまるでプラネタリウムのように夜空が投影される。
彼は明日から、この夜空に身を投ずる。
この夜空に、命を投ずる。
彼に恐れはなかった。
彼の心はもはや執着と呼ぶにはおぞましいものだったかもしれない。
それ以上に恋焦がれた彼女に会いたかった。
それ以上に彼女を追い求めていた。
彼の傍に立ち続けるAIはいつも、彼の就寝後指示された仕事が終わればスリープモードに入っていた。しかし彼女はその夜ばかりは、ただぼんやりと天井に映し出された夜空を見つめていた。
まるで彼との別れを惜しむかのように。
まるで彼の行く末を案ずるかのように。
静かな、静かな夜のことだった。
陽が昇る頃には、この地から一条の光が伸びていることだろう。
インタールード - 静かな、静かな夜のこと もちみかん @al0range
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