第5話:攻略を終えて……

 ──ダンジョンを攻略してから数ヵ月が経った。

 春人はるとは、家の二階にある自室の窓から外を眺めている。

 すでに洞窟はなく、いつも見ている玄関前が視界には写っていた。

 あれは夢だったのか? そう思う時もあるが、それを否定するものが春人の目の前に置かれていた。


 ──牛頭人体ミノタウロスの捻れた剛角ごうかくである。


 机の上に置かれている剛角に触れると、あの時の戦いが脳裏に蘇り、体を熱くする。

 それだけで、あの日のことが夢ではなかったのだと証明してくれている気がした。


 今は日常に戻り平日は学校へ通い、週末は友達と遊び、家でごろごろする。

 あの時の非日常は、戻ってくることはないだろう──そんなことを考えていた矢先だった。


「ハルト! 手を貸してちょうだい!」

「……はい?」


 いつもと変わらず学校へ向かおうと玄関を出たところで、エミリアが腕組みをして立っていたのだ。


「この世界に新たな洞窟が確認されたの、ダンジョンが現れたのよ!」

「あー、えっと、そうですか。頑張ってくださいね。それでは学校に行ってきます」

「学校って何処なの?」

「……ここを出て右に行った先にある大きな建物だけど?」

「さすがはハルトね!」

「……へっ?」


 まさかの褒め言葉に困惑が隠せない春人。

 そして、その理由はすぐに告げられることになった。


「洞窟が現れたのは──その学校ってところなのよ!」

「…………はあ?」


 ということは、このまま学校に向かえば結局のところ洞窟に行き着いてしまうということだ。

 何かの偶然なのか、それとも誰かの悪戯なのか、はたまた運命による必然なのか。

 分からないことだらけではあるが、唯一はっきりしていることもある。


「それで、エミリアさんのパートナーは見つかったんですか?」

「……えっと、それは……ハ、ハルトよ!」

「いや、あの時は他に人もいなかったわけで、家の前で邪魔だったし。それに学校なら他にも手伝える人がいるでしょう」

「……かっ……よ」

「えっ? なんですか?」

「いなかったのよ!」


 まさかの回答に春人は頭を抱えてしまう。エミリアが言ったことを理解してしまったからだ。


「まさか、洞窟が見えている人がいなかったとか?」

「そうよ! ……私だって、ハルトに迷惑をかけてることくらい、分かってるんだから」


 最後の方は声が小さくなってしまったが、その様子が春人には可愛く写ってしまった。

 故に──答えも決まってしまった。


「……はぁ。分かりました、今回までは僕がパートナーになりますよ」

「ほ、本当!」

「だけど、今回までですからね! 次からは別の人でお願いします!」

「分かってるわよ! それじゃあ、行きましょう!」


 そう言ったエミリアは春人の手を取って走り出した。

 嫌々ながらも、エミリアに手を取られたことで頬を朱に染めている春人。

 だが、それ以上に顔を真っ赤にしているエミリアだったが、春人がそのことに気づくことはなかった。


 終わり

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見つけた洞窟の先で 渡琉兎 @toguken

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