祓い屋と神様の怪奇恋物語
猫田りん
第1話
俺は恋をしたことがない。周りに可愛い子がいても、恋愛ドラマを見ても、興味が湧かなかった。それに、今は仕事に専念したいからと心で思っていたから、告白されても断っていた。
そんな恋に無頓着な俺が、高1の時に初めて恋に落ちた。
俺の家は代々祓い屋で、俺は妖やそういう類いが見えるからと、小学生の頃から親の手助けをしていた。だからか、友達はいなかった。みんな、俺のことを「嘘つき」とか「変人」だとか言って避けていた。でも、気にはならなかった。俺自身、仕事の関係で引っ越すことが多いから友達をつくる気がなかった。
中学生になってからは、受験勉強に専念できるようにするため、引っ越しは無くなった。依頼が来ても、どちらかが行くくらいで、家族みんなで行くってのは無くなった。でも、俺が祓う練習をできるように、妖が多い京都に住んでいた。
それからというもの、今は高い高校に入学して、そこそこ充実した日々を送っている。まあ、充実って言っても、大概は祓っているか、保健室で寝てるかぐらいだけど…
そんなある日、俺がいつものように机に突っ伏して寝ていた時、クラスメイトの女子が話しかけてきた。
「桜木君!」
俺は重い瞼を開けて前を見た。そこには、たしかうちのクラスの学級委員の愛宮 悠香がいた。俺はいかにも怠そうな返事をした。
「なに?」
「桜木君って祓い屋だよね?」
「そうだけど」
「あのね、祓って欲しいものがあるんだ」
俺は少し驚いた。学校の人から依頼を受けるなんて思わなかった。そもそも、校内で祓うものなんて見たことがあまりなかった。
俺は興味本位で依頼を受けることにした。
「…そいつ、どんなことしてるの?」
「え?祓ってくれるの!?」
「うん。」
「ありがとう!」
愛宮さんは祓ってくれるのがよっぽど嬉しいのか、ガッポーズをしていた。
「で、その祓って欲しいものはどんな奴?どこにいるの?」
「えっとね、小学生くらいの子で、髪はおかっぱ。場所は1A前の女子トイレ。」
俺は、その3つの情報から祓って欲しいものが花子さんということがわかった。
「花子さんだね」
「え、あの花子さん?高校にもいるの?」
「うん。こういう年月が経っている校舎にはそういうのが住んでるんだ。」
「へー!桜木君色々知ってるんだね!ねぇ、今度そういうの教えて!じゃ、よろしく!」
愛宮さんはそう言うと、すぐに友達のもとへ行ってしまった。俺は愛宮さんが行った後、女子トイレへと向かった。
女子トイレは女子の声で賑わっていた。でも、明らかにおかしいものがいた。愛宮さんが言っていたような少女がトイレの出入り口に立っている。当たり前だけど、周りのみんなは気づいていない。
俺はしばらく花子さんの様子を見ていた。すると、1Aから出てきた男子生徒を、花子さんがそばにあった放棄で男子を転ばせた。男子はバランスを崩して、運悪く水道のところに後頭部を打った。俺は『やばいな』と思い、すぐに男子のもとへと向かった。
「大丈夫か?」
「ヴッ…あ、あぁ」
俺はさっき会ったであろうところに手を当てる。後頭部からは血が出ていた。
「イテッ」
「あ、ごめん。」
「あははは!いったそ!あはは!」
花子さんは腹を抱えて大笑いしていた。周りの女子はオロオロしていて、誰も手助けにくる様子がなかった。『誰も手伝いにこないのかよ。それにしても、イタズラにも程があるだろ!』
俺は心の中で怒りつつ、自分のネクタイを解いて、止血するために男子の頭に巻いた。
「えっお前なにしてっ」
「止血だよ」
「でも、ネクタイ」
「そんなん後で洗えばいい。それより君の怪我の方が大事だよ。」
そして、俺は男子を支えて保健室に向かった。
保健室はがらんとしていた。
「こう言う時にいないよな…」
俺はそう呟くと、男子をそばにあった椅子に座らせた。
「見るからじっとしてて。」
「おっおう。」
そう言って、俺は、さっき縛ったネクタイを解いた。
「ちょっとの切り傷…そこまで深くなくてよかったね。」
俺は、傷を消毒してから包帯を巻いた。それから、冷凍庫から保冷剤を取り出してガーゼに巻いてから彼に渡した。
「え?」
「しばらくはこれで冷やした方がいいよ。肘も打ってたでしょ?」
「お前、すげえな…名前は?」
「俺?桜木 誠」
「誠か…俺は榛原 海斗、よろしくな!」
「…よろしく。さ、授業に戻ろう。」
「はぁ?サボろうぜ?」
「えー」
俺は花子さんのところに行きたかったから、思わぬ返答に戸惑った。
「いいじゃん!」
「あー…さぼるというか、君は寝てた方がいいかも…貧血になるかもだから…」
なんて言ってしまったが、大丈夫かな。だが、そんな心配をしなくても、榛原は納得してくれた。
「よっしゃ!じゃ寝てよ。おやすみー」
「おやすみ」
念のため3分くらいはいようと思ったが、榛原はすぐに眠りについた。俺は保健室を出て、花子さんのもとに向かうことにした。
女子トイレ前に行くと、聞こえてくるのは先生が授業をしている声と、花子さんの鼻歌だけ。俺は、気づかれないように女子トイレに入った。女子トイレでは、花子さんがこんなことを言っていた。
「あの男、結構なイケメンだったのう。次はアイツに恥をかかせよう!」
「俺に恥をかかせるだって?」
「!!!!?」
俺が話しかけると、花子さんは目を見開いた。まあ、驚くのは当たり前か。
「なんじゃっ!貴様!女子のトイレにのこのこと!はっイケメンの裏は変態か!やーい変態!花子のパンツを覗きにきたのか?見たいか?ん?見たいんだろ?変態だから!あはははは!」
「ごちゃごちゃうるさいぞガキ」
「イダッ!」
俺は花子さんのあまりの言い草に頭がきて、花子さんの頭を殴ってしまった。
「貴様!レディになんてことをするのだ!」
「あんた、気づかないの?」
「なににじゃ?お前の変態度にか?それは気づ…いてる…ぞ…?きっききき貴様!見えるのか!?」
「うん」
「まさか、さっきも!?」
「うん」
花子さんはごちゃごちゃとうるさかったが、授業が終わりそうだったから急ぎ気味でこう言った。
「今度は放課後来るよ。祓いに」
そして、俺はその場を後にした。
祓い屋と神様の怪奇恋物語 猫田りん @nekota_rin
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