第3話氷雪の女帝



「それは完全にゲームオーバーだね。僕にはどうしようもない」



相手の名前を聞いたタネハルはそう言うと本を開き完全無関心モードに入ってしまう。そんな彼女にハルナは食い下がる。



「いいや! タネハルなら出来る!! タネハルは私の見込んだ男だからきっと出来る!!」



「いや、僕は女だし。大体ね、…………」



しつこいハルナにタネハルは大きく溜息をつく。そして表情から見るに相当不機嫌なようでそれを察したマササダとヤスサトは距離を置く。だが、その様子に全く気づかないハルナだけがなおも食い下がる。この後彼女は泣かされるまで説教されるとも知らず…………。














「マササダよ、そもそもどうして『氷帝』が相手になるようなことになったんだ? 確かにオダはノース家に従順の意を示したから敵意を向けられるのは分かるが、言って悪いがオダみたいな小国を真っ先に攻撃するとも思えん」



怒りが爆発しそうなタネハルから逃げてきたヤスサトが同じく機器を察し逃げたマササダに理由を問う。



「まぁ色々とありまして………」



恐らく向こうの説教は長くハルナが開放されるまでまだまだかかるのでマササダはその間に今回領土を失った経緯をヤスサトに話すことにした。















ハルナを当主とするオダ家は何度も滅亡の危機に晒されてきたが何とか首1枚と言うより死んでもしぶとく蘇って自分たちの領土を死守していた。しかし、オダ家としてはかつての栄光を取り戻すべく領土拡大をしなくてはならない。だが、やっていることは防戦一方。そんなオダ家にチャンスが到来した。自分たちの存在を脅かしてきた宿敵の1人サタケ家の当主が病死したとの吉報を手に入れたのだ。サタケ家はオダ家と同じくバンドゥー八家に数えられる名家、ただその力はオダ家よりも協力でオダ家を取り込もうと何度も侵略された宿敵である。当然、戦国の乱れた世の中で相手の将が死に代替わりする混乱期を狙わない武将はいないだろう。その情報を聞くやいなや、ハルナは全軍をサタケの領土へ。そして比較的得意な野戦でみるみると領土を侵略して行ったのだ。責められたサタケは防戦一方、今回ばかりはオダ家の勝利かと思われた矢先、ある1人の女性によって楽勝ムードが急変させられてしまった。

それがナガオ家現当主であり、さらに朝廷からバンドゥー守護の任を任されているナガオ ヒョウカだ。

彼女の武勇は全国に知れ渡っており『エチゴの龍』や『氷雪の女帝』という通り名で恐れられていた。さらには知略にも優れ向かうとこ敵なしの不敗神話の持ち主でもある。『氷帝』は義に厚い武将とも知られバンドゥーの諍い、特に近年勢力を伸ばしたエルフ種の勢力であるノース家に攻められている関東の小勢力に援軍を送ってきた。

そこで今回の話である。

ハルナが攻め込んだタイミングでその『氷帝』がサタケ家当主の葬式、そして新当主任命の儀に来ていたのである。バンドゥーの名門の式典にお上からバンドゥーの守護を任されている者が来ていても何も不思議はないのだがハルナはそこまで頭が回らなかった。そして何より不味いのは『氷帝』はとても騎士道精神に溢れた武将であるということ。さらにオダ家は彼女たちが現在進行形で争っているノース家と手を結んでいること。

この2つがハルナの命運を決めた。

「喪が開けぬうちから何事か!」と『氷帝』の逆鱗に触れたオダ家は圧倒的な力でことごとく蹴散らされ支城はおろか、拠点であるオダ城まで奪われてしまったのだ。危うく殺されかけたハルナは家臣団の善戦もあり命からがら逃げ出し今に至るというわけなのだ。

















「なるほどなー。そりゃ災難だったな」



話を全て聞き終えたヤスサトは笑いながら言う。



「ええ、もしかしてヤスサトさんがここに来たのはその件でですか?」



「いや、俺はこれからアワ攻略だ。サタケの件は他のやつが動いてるだろ」



ヤスサトはノース家直属の武将である。彼自身はエルフでもなんでもなく普通の人間なのだがその武勇を認められ今ではノース家を代表する家臣団の1人である。そんなヤスサトなら今回の件、詳しくは知らなくても大まかには知っていたとマササダは思ったがどうやらその予想は外れたようだ。



「知ってるかどうか聞いたってことは今回の件、うちの姫さんが関わってるみたいだな」



そんな様子を察したヤスサトはニヤニヤとしながら聞いてくる。



「はい、そもそもサタケ家の当主の訃報を知らせてくれたのはノース家の人達でさらに言葉巧みに………とまでは行かないんですけど乗せられた姫さまが」



それにマササダは困り顔で答える。恐らくノース家としてはヤスサトの言うアワ攻略を前にその他のバンドゥー勢力を黙らせるために各方面に攻撃を仕掛けようと恭順させた勢力を使って隣国へ仕向けたのだろう。つまりはいいように使われたのだ。



「オダの姫さんこんなこと知ったらご立腹じゃないか?」



「それは多分大丈夫ですよ。なんせ今まさにその事でお説教されてますから」



「ああ、なるほど」



ヤスサトは納得して自分たちの逃げてきた方を見る。距離があるため何を話してるのかは聞こえないが何やらタネハルがガミガミとものをいい、ハルナは小さい背中をさらに小さくし正座させられている。



「オダの天下の道は前途多難だねぇ」









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オダハルナの野望 島草 千絵 @chie05

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