第2話引きこもり軍師と鬼武者








「また君たち? その様子だとまた城を奪われたの?」



大きくため息を着いたボサボサの腰まで伸びた黒髪はこちらをダルそうに振り向き尋ねる。不潔感ありそうな後ろ姿とは裏腹にその顔は透き通るような肌をした少年とも少女ともとれる顔立ち。だるそうな目を除けば美人と言っても過言ではないだろう。



「すみません、タネハルさん。というわけで行く当てなくて」



「なによ、分かってるなら話は早い。そんなわけだから協力しなさい!」



図々しいも家に上がり込んできたハルナは散らかった部屋に自分の座るスペースを無理やり開け座り、申し訳なさそうな顔で謝るマササダも言葉とは裏腹に机の上の荷物を床に下ろし、勝手に茶を入れ始める。



「そして君たちは家主の許可無く上がり込んだと思ったら勝手にお茶入れ始めてくつろぎ始めたけど………ん、うまい」



自分の家をまるで我が家のように占領し始める2人に文句を言おうとしたタネハルだが、マササダが間髪入れず差し出したお茶を飲み、その言葉が引っ込んでしまう。

彼女はシライ タネハル、オダ家と同じバンドゥー八家に数えられたチバ家の軍師である。彼女の卓越した知略はかなりのもので彼女が指揮を執った戦は負け無しであった。2人は取られた城を取り戻すべく、彼女に力を借りに来たわけである。








「ん! 上手いじゃないか! かわいた喉によく染みる」



ハルナもマササダからお茶を受け取りそれをグイッと飲む。



「そりゃうちの御館様が日頃の礼だってくれた宇治の茶だからね。いや、そうじゃなくて。悪いけど面倒ごとはごめんだよ」



「またまたー! いつもだったら鍵閉めてる表の扉空いてたじゃない! お得意の魔術でこれも予想できてたんでしょ?」



これが頼みに来た人間の態度かと問い詰めたくなるような態度のハルナ。とはいえ彼女とて古豪、オダ家の当主である。この世界で生き抜く為にも、そして名家しての意地プライドがある。そう易々と頭を下げるというのはないのだ。



「君たちが来ることくらい魔術なんて使わなくても分かるよ。そうじゃなくて今日はヤスサトが来るから」



「ヤスサトさんが来るんですか!?」



「なに!? あやつまで来るとは! くっくっく、天は私を見捨ててはなかった!!!」



その名を聞いた2人は身を乗り出して反応する。

彼女らが興奮するのも無理はない。タネハルの言うヤスサトとはバンドゥーにおいて知らぬものはいない猛将である。





「何だかこの屋敷が珍しく騒がしいと思ってたらオダのとこの姫さまが来てたのか」



3人の居る部屋に入ってきた目立つ赤髪の大柄の男。彼が3人が話していた猛将、マツダ ヤスサトその人である。












マツダ ヤスサトという名を出せバンドゥーの誰もが『マツダの赤鬼』という異名を頭にうかべることだろう。特徴的な赤髪とさらにそれより深い甲冑、具足を身につけ戦場を駆ける様はまさに戦鬼の如し。多くの武将から雑兵に至るまで畏怖される存在であった。そんな彼が何故こんな所にいるのかと言うと彼はノース家というバンドゥーの南一体を支配するエルフの家に使える武将であり、現在ノース家はアワのサトミを攻略中のためその道すがら寄ったということらしい。



「久しぶりにここによったと思ったらまた城奪われたのか? 相変わらずポンコツだなぁ! それよりもマササダも甘やかしすぎだぞ?」



むくれるハルナをよそに大声で笑うヤスサト。



「返す言葉がないです……」



「んまぁそれは終わったことだから気にしても仕方ない。タネハルと協力して城また取り戻すんだろ?」



しょぼくれるマササダの背中を力強く叩き励ます。こんなことを言っているヤスサトだが、2人については何かと気にかけておりマササダに師事もしたことがある。もちろんそれはタネハルも同じである。



「しれっと僕が協力することになってるの辞めてくれないかな」



ジト目でヤスサトを見るがこれは見事に無視される。



「そうよ! 過去なんて気にしても仕方ないの!! 今は前だけ見るのよ!!」



「いや、君は少しは気にした方がいいと思うんだけど」



もちろんこれも無視される。

知略に長けたタネハルはここで何を言っても手伝わされるということを悟る。



「おう! その意気だ!! ちなみに今回は誰が相手だったんだ? ユウキか? タガヤか? サタケか? それともウツノミヤか?」



笑いながら出されたお茶を飲むヤスサト。しかし、今回のハルナの相手は予想外の相手だった。



「ウエスギ」



ヤスサトは含んだ茶を見事に吹き出した。




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