迷いと決断

ふじうり

迷いと決断

「進路、どうしよう……」

 屋上の一番上に寝ころび、呟いた。

 僕にはなりたいものがあった。

 小説家。

 進路を聞かれて小説の専門学校と答えれば、誰もが無理だという。『お前にはそんな才能なんてない』『いい加減現実に向き合ったら?』

 そんなことを言われていくうちに僕のメンタルは崩壊していった。毎日努力をしていた小説を書くことをやめるようになった。

 そして今に至るのだが、書くことをやめた割にはまだ心残りはある。だから進路を決めることをためらっている。

「少年何をしている?」

「あっ。すいません」

 過去の思い出に浸っていると二十代後半の担任がきた。

「別にどかなくてもいい。落ちないように意識してればいいだけだ」

 この場所に複数人も来ると屋上を囲うフェンスよりも高いので、落ちて死んでしまう場合もあるのでその場を退こうとすると止められた。

「はぁ」

「少年はなんで放課後という青春を謳歌できる時間にこんなところにいるんだ?」

「……今日提出のものをまだ出してないので、帰れないんですよ」

「進路か」

「そうですよ」

 担任は結局僕の隣に座り、理由を聞いてきた。

「なんで迷ってるんだ?お前には小説家という夢があったんじゃないのか?」

「まあそうなんですけど……先生なら書かなくなった理由くらい知ってるんじゃないんですか」

 なんで知っているのかを問い詰めたかったけど、この担任ならクラスの過去を色々調べてそうだからやめた。普通の人はしないけど、夢見がちな性格上してるに違いない。なんせドラマを見て、やりたかったから先生になったやつなんだから。

「そうなんだけどな。でも夢ってのは、そんな簡単に諦めていいものなのか?」

「かっこいいこと言いますね。けど、これが現実です。夢じゃなかったんですよ」

 担任は僕の言葉を聞くと楽しそうににやけた。

「そうか。じゃあ答えは出てるじゃないか」

「……」

「矛盾してるな。でもそれはいいことだ。学生の本分は勉強だとか言われてるけどな、それはあくまで一般的な意見だ。俺としては向き合うことだと思う」

 担任は自分の意見を騙って来た。今頃担任は先生らしいことをしていると嬉しがっているんだろうな……。でも真に受けてしまう僕も騙るには格好の的だな。

「逃げてばかりじゃなくて自分と向き合え。俺はお前の小説のことなんてわからないこらなんとも言えない。でもお前自身がいいかダメなのかは知っている。だから向き合え。その結果に納得いくまで」

「なんかどっかで聞いたことあるセリフですね。でも家で一回考えて来て来ます。明日に必ず出しますね」

 僕はこんな使い古されたセリフは響かないと思っていた。でもそれは直接言われてなかったからなんだろうと思う。

 真剣なのかは知らないが楽しそうに騙っている担任の言葉に僕は動かされてしまった。

「おう。行ってこい若人よ」

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迷いと決断 ふじうり @huziuri214

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