第2話


いつも見る雲が疎らに散った青い空がこんなにも恋しいと思った事はあるだろうか。


眠たい時に寝て、柵に囚われて恥ずかしさを受けながら生を謳歌する事があんなにも素晴らしく見えてくる

当たり前のように見えてそれが平和な光景だと気付いたのはつい今朝だ


朝日が昇り柔い光が背中越しに広がっていく、

そんな当たり前がそこにあるのに、鉄格子がかかる小さな小窓がそれを邪魔する

次第に陽の匂いと共に眩しい光が届いても早川雪地にとってそれがダメージになって行く


なぜなら小さなランプから発せられる煌々たる光が当てられて寒い時期だと言うのにその光だけで汗が滲んできているからだ


「だから見ただけなんですって!!」


早川は額やな汗を滲ませて目の前にいる大人二人に対して同じ答弁を繰り返す。

時刻、状況、判断、見たこと全ての記憶をぶち撒いて信憑性の真実だけを示していく

何度も何度も矛盾もなく慈悲もなく。

この世は目撃者に優しくないのかと嘆く程


早川雪地は今現在取り調べを受けている


「だから何度も言うように公園の防犯カメラにはあんたしか写っていないんだわ」


公園には数台の防犯カメラが設置されており、市の管理する警備会社がそれを管理しているはずだと考えては目の前には理解を凌駕するものがある


それはパソコンから写し出されているのは早川が目撃した光景とは遥か遠く

早川自身が被害者の男性をナイフで刺している決定的な物だった

しかも立ちの悪く

近くのホームセンターに早川雪地らしき人がナイフを買ったのだという従業員の証言があった


「だから僕はやってないんですって!」



ナイフ自体は現場に無く、防犯カメラ内の早川が次に取った行動は範囲外の死角となっているため救急車を呼ぶ僅かな時間に川に捨てたのだと警察は結論付ていた。


「だから俺は...っ」


声が枯れる、これ以上は出ないようで

もう随分と飲み物を飲んでいないので体、全身が乾いて水を欲する


「それにあんたホームレスなんだろ?」


見定めるように身なりをチラチラと観察される、確かに早川雪地は綺麗ではない

全ては金がないから、髪の毛は水でしか洗えなくギシギシになっては穴の空いた服獣の異臭を放っている


「ホームレスが嫌になって、金欲しさに手っ取り早く殺したんだろ?」


そう、ホームレスには全ては金がないからだ

自動販売機の下にあるのは汚い埃と軽蔑の目

たまにお金があったとしてもものを買う金額までには程遠い


「確かに俺はホームレスだ、お金だってなんだって欲しい、人並みの生活もしたい。けどな俺がこうなってるのは俺のせいだ、だから犯罪を犯す真似はしない。」


誰から見てもその言葉に信憑性もなく証拠が目の前にあるのだから

並べられた言葉はこの場所ではとても力無き物だった


殺人事件について早川雪地は否定したが断固たる証拠があれば起訴は出来る

唯一無二がそこにあるからだ




「早川雪地」

その名前がニュースに流れる頃には鉄格子剥き出しの牢屋の中で囚人服を纏い膝を抱えていた

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人工知能と夜明けの街で ロゼマカヌラ @alcria

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