Scene 08:Laboratory ―研究所―

Episode 53:ドリウスのトラウマ再び

 城の方へ歩みを進める。テステ・ペルテのお堀の上にかかる石橋を渡り、少し急な坂を上り、休憩しつつ少しずつだが確実に城へと向かっていく。坂を上れば城にたどり着くと思ったが案外そうでもなかったようだ。今度は下り坂になり、道はまだまだ奥の方へと続いていた。


 暫く進んで行くとドリウスがふと歩みを止めた。ルフェルも男の子も歩みを止める。遠くの方に見えていた城が見えなくなってしまったのだ。


 何てことはない。ただ地形のせいで一時的に城が見えなくなっただけだ。だが、問題はそこではない。彼らの目前には背の高い草が生い茂っていたのだ。ドリウスの頭から数センチ低いくらいで男の子よりもかなり高いくらい。そんな草むらが行く手を阻んでいたのだ。


 ドリウスは頭を掻きながら周りを見渡した。そこら中が草、草、草。道などどこにもなかった。


「道間違えたんじゃないのかぁ?」


 ルフェルが呆れたように言うとドリウスは隠れてしまった城を探しながら頭を掻いた。


「いや、こっちの方に城が見えてたんだ。だから合ってるはずなんだが……」


 言いかけて自身がなくなっている。ドリウスはフリーの騎士とはいえ城の場所を知らなかった。彼の管轄は遥か離れた場所だったからだ。


「ルフェルは、知らないのか?」


「何でアタシが知ってるのさ」


 ドリウスが尋ねるとルフェルは『知らなくて当然だろう』とでも言うように顔をしかめて返答する。彼女もまた城の場所を知らなかった。正式な騎士ではあるが、テステ・ペルテとアラマ・マアマの丁度中間に位置する基地に勤務していたからだ。入隊式もそこで行われた。


「王に会うのだっていつもモニタ越しさ。実際に会ったことはないんだ」


 ルフェルは腰に手を当てて吐き捨てるように言った。ドリウスは頭を掻いて草を掻き分け進もうとした。そのとき、アッと声をあげる。何かを発見したようだ。指を差してその先を見るように催促する。ルフェルが腕組みをしてその先を見た。


「やるじゃないか。ホラ、行くよ」


 ルフェルが意地悪そうに言った。その先には道が続いていた。草でカモフラージュされていたようだ。その道は城をスッポリと隠している山へと繋がっている。


 ドリウスが先頭でルフェルが後ろ。男の子を守るように一列になってその道に足をかけた。道は一本だ。分岐路はない。ドリウスはズンズン進む。ドリウスが大股で三歩ほど進んだとき、後ろから声をかけられた。


 聞き覚えのある声に振り返り構えるドリウスとルフェル。男の子はルフェルの後ろに隠れた。目線の先には金色の鎧で身を包んだ化物がいた。騎士団総長だ。


「ガハハハ。そろそろここへ来る頃かと思っていたぞ。かかれ、奴らを殺せ!」


 騎士団総長の声に黒いものがカサカサと音を立てながら四方八方からやってきた。黒いがこれはデドロではない。小さな雫状の形の身体から十本の足が生えた蜘蛛だった。


「ひぃぃぃぇぇえっ!」


 ドリウスは情けない声をあげた。蜘蛛を完全に攻略したわけではなかったのだ。蜘蛛はピョンピョン飛び跳ねながらドリウスたちに近づいていく。


 ルフェルは飛びかかってきた蜘蛛を短刀で切り追い払おうとしていた。だが、数が多すぎる。斬っても斬ってもまた次が飛びかかってくる。来た道は全て蜘蛛で埋め尽くされており後戻りはできない状態だった。


「くそ、先に進むよ!」


 ルフェルがそう叫ぶと男の子の手を引いて道の先へ進み出した。もう引き返すことができない。進むしかない。言うが早いかドリウスは先頭を走って真先に逃げ出していた。


「何だいアイツ! 情けないねぇ! ほら、アタシたちも急ぐよ!」


 先に行ってしまったドリウスのことをぼやきながら男の子の手をグイグイ引っ張って逃げるルフェル。男の子は付いていくのに必死だった。


「フン、バカ共が。くたばるのも時間の問題だな。ガハハハ」


 騎士団総長は笑っていた。その横に黒いものが立つ。騎士団総長はそちらを向くと更にガハハと笑った。黒いものが口を開く。


「これでよかったでありんすか?」


「あの先には恐怖しかない。奴らが生きて戻ることなどできまい。ガキは後ででも十分間に合う。完全勝利と言えよう。ガハハハハ!」


 騎士団総長は高らかに笑った。黒いものは手を口に当ててクスクスと笑い、後を追うようにゆっくりと道を進んでいった。残された騎士団総長はにやりと笑い、来た道を引き返して去っていった。

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