第185話、リュナドの危機を感じ取る錬金術師

「なーんで私を呼ばなかったのよぉ」

「・・・そんな事言われても、駄目って、言われてたし」


この前の話し合いにアスバちゃんを呼ばなかった事を、何故か彼女に責められている。

だってあの話し合いアスバちゃんは私より関係無いし、リュナドさんに注意されてたもん。

ライナにもなるべくあの場に居させない方が良い、とまで事前に言われていたのだし。


大体アスバちゃん、その話した時居たじゃない。リュナドさんから直接聞いてたのに。

というか、そもそも渋々頷いてた覚えが有るんだけど、それで何故私は責められているの。


「しかしあんた、良く伸びるわね」

『キャー♪』


そして彼女は不満をぶつける様に、近くに居た山精霊の頬をびよーんと伸ばしている。

精霊本人は楽しそうな鳴き声なので、遊んで貰ってると思っていそうだけど。


というか、何故か他の子達も綺麗に一列になって伸ばされるのを待ってる。

何がしたいの君達。自分達同士でやってる時は喧嘩になるのに。

相変わらず良く解らない精霊達を眺めていたら、彼女が視線を私に戻すのを感じた。


「こっそり呼んでくれたら良いじゃない。偶々話し合いが始まる前に、たーまたま家に居たなら、それならもう仕方ないでしょー?」

「・・・それは、偶々じゃ、ない様な」

「細かい事は良いのよ。ねー?」

『『『『『キャー』』』』』


細かいだろうか。そんな事ないと思うんだけど。精霊達は何も考えず頷いてるだけだよね。


「大体あの男、翌日来るって事黙って、後でこっそり精霊に連絡とらせたんでしょ。私が乱入してくる事思いっきり警戒しなくても良いじゃないのよ、ねえ?」

「・・・え、でも、来る気だったん、だよね?」


さっきの感じだと、いつ来るか知ってたら来る気だった、って風に聞こえたんだけど。違うの?


「当たり前じゃない。何言ってんの」


あれぇ? 私がおかしいの? さっきからすっごい真逆の事言われてる気がするんだけど。

私なのかなぁ。私なんだろうなぁ。うーん、アスバちゃんとの会話はやっぱり難しい事が多い。


「で、一応結果は多少聞いてるけど、あんな感じで本当に良いの?」

「・・・あんな感じ?」

「王子を呼ぶ件よ。あんたあいつに借りになる様な事、しない様にしてたでしょ。王子がしたいって言いださない限り、あんたからは何も言わなかったのに」


・・・態々そういう意識は、無かったけど、まあ、借りを作る気は、特に無い、かな。

そもそも借りを作らなきゃいけない様な、私から頼みたい事が思いつかない。

というかそんな事よりも早く海に行きたい。もう大分寒くなって来てるんだけど。


「今回王子を呼ぶって事は、たとえアレがあんたに恩が有る・・・正確にはあんたの母親か。確かにそれは大恩なんだろうけど、それでも相手は王侯貴族。余り頼り過ぎない方が良いわよ」

「・・・別に、私は、特に王子を頼る気は、無いよ」

「どういう事? 王子を呼ぶ事で決定している、のよね?」

「・・・それは、うん」


リュナドさんの案で王子を呼ぶ事は、既に決定事項になっていている。

ただ私はそれによってどういう風になるのか知らないし、特に経過も聞いていない。

私が変に口を出して面倒をかけるのも嫌だし、現状は彼に任せきっている。


「・・・決めたのは、リュナドさん、だから」


なので私としては「王子に頼る」と言われても少し困る。私が頼っているのはリュナドさんだ。

そう返事をすると、彼女は一瞬キョトンとした顔になり、その後思いっきり笑い出した。


「くっ、あはははははは! なーる程ねぇ! あんたらしいと言えばあんたらしいわ」

「・・・自分でも、そう思う」


難しい事は良く解らず、でも彼女達が危険で、だけどそれを助ける術は良く解らないんだもの。

大体その危険の内容を語って貰えず、更に言えば私がそれを言及する事が出来てない。

それはここまで言われないままで、聞いて良いのかどうか少し怖いせいも有る。

聞いてまた怒られたら、なんて少し考えてしまうのが私だ。


だけどそんな状況の中、リュナドさんは解決案が有ると告げた。

なら何時も傍に居てくれる頼りになる彼に頼る。それで私の思考は終わっていた。

我ながら言われる通り、自分らしい情けなさだと思う。笑われても仕方ない。


「まあでも、それなら納得だわ。リュナドも解ってやってんでしょうね、これは。あいつも中々良い性格してるわね」

「・・・うん、彼は、良い人」

「あんたにとって『良い人』の間違いじゃないの?」

「・・・そう? そんな事、無いと思うけど」


アスバちゃんはニマニマとしながら私に問うけど、そんな事は無いと思う。

彼が今じゃ兵士としては上の人だって事は私も解ってる。だけどそれでも彼は変わらない。

私が道端で蹲ってた所を助けてくれた時と変わらず、街の人に優しい兵士さんだと思う。

余り外に出ない私の耳にも、市場で彼の良い評判を良く聞くもの。


『精霊使い様のおかげで、何時も本当に助かってます。あの方は気取らない良い人ですねぇ』

『あんな人が隣に居ると、安心でしょう?』

『街に来るまではどんな人かと思っていましたが、優しい方でほっとしました』


なんて事を商人さん達から言われる事が有るぐらい、彼の優しさが私だけじゃないのは確かだ。

ついでに何故か私と彼の仲が良好なのか、って良く聞かれるけど、あれなんなんだろう。

別に仲は悪くないと思っているから、何時も頷いて返しているけど。


まあそれは措いておくとして、彼はアスバちゃんにだけは態度が少し雑な所が有る。

彼女はそれが気に食わないのかも。今回もこの話のとき『しっしっ』ってされてたし。


「・・・別にリュナドさんは、意地悪したくて、アスバちゃんに黙ってた訳じゃ、ないと思う」

「んなもん解ってるわよ。そんな下らない事を私にする訳ないじゃない。あいつなのよ?」


あれぇ? なんでぇ? 本当にアスバちゃんの考えは解らない。難しすぎる。

リュナドさんに意地悪されたと思って、不満な様子なんだと思ったのに。


「大体ねぇ、精霊使い精霊使いっていうけど、相変わらず弱っちいままじゃないの。どいつもこいつもあんな弱い奴に頼り過ぎなのよ。私達と違って出来る事なんて限られ過ぎてるのに」


頼りすぎ・・・ああ、そういう事か。彼女の不満の対象は私なんだ。

彼にいつも頼って、今回も頼り切って、何もしないでいる私が不満だったんだ。

何て勘違いだ。恥ずかしい。勝手に彼を悪者にしているのは私じゃないか。


「・・・確かに、頼りすぎ、だね」

「本当よ。特に領主よ領主。あいつ一回シメた方が良いと思うわ」

「・・・そう、なの?」


てっきり私を叱るのかと思っていたら、意外な所に矛先が向いた。

でも領主はリュナドさんの雇い主だし、仕方ない所も有るんじゃないのかな。お仕事なのだし。


「なーにのんきな返ししてんのよ。まあ確かに? リュナドは雇われだから? まあそりゃー多少は仕方ないでしょうよ。でも私達は兵士でも役人でもないのよ。なーに勝手に私達の名前使ってくれちゃってんのかしらねぇ。知らないと思ってんのかしら」


そうなのか。アスバちゃんの名前勝手に使われるのは、確かに迷惑だろう。

あれ、それとリュナドさんに頼るのは話が違う様な。

多分またいつの間にか違う話になったのかな。これは彼女と話してる時は良くある事だ。


「リュナドの奴に言っても『いや、お前に関してはお前も悪いじゃん。文句言えると思うな』なんて抜かしてくるしさぁ。何なのよ全く! 昨日後ろから蹴り入れてやったわ! ったく、倒れても知らないわよ、あの馬鹿」


・・・またリュナドさんへの不満に戻った様な。あれぇ、やっぱり全然結論が解んない。

その後も内容をコロコロ変えて話し続け、精霊の列が全部なくなったら彼女は帰って行った。

何で頬をフニフニして満足そうなんだろう。まさかマッサージみたいな物だったんだろうか。


「頼りすぎ、かぁ・・・」


・・・確かに彼女の言う通り、私は頼り過ぎなのかもしれない。いや、頼り過ぎなんだろう。

倒れる心配をしていた所を見るに、彼女は私が知らない彼の苦労を知っているんだ。


「私にできる事、何、かな」


情けないけれど、彼に頼らないというのは、きっと無理だ。本当に情けないけど絶対無理だ。

だから私に出来る事は、彼が元気で在れる様にする事。多分それが正解だろう。


「・・・よし、ちょっと、明日にでも、採取に行ってこようかな」


彼の為の身体強化用の薬でも作るろう。その為には普段手に入る材料じゃちょっと足りない。

前に見つけた小型魔獣。あれをまた見つけられれば良いんだけど、見つかるかな・・・。


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「しっかし、あんたの主もほーんと曲者よねぇ」

『キャー』

「リュナドに呼ばせたから自分は関係ないとか、本当に笑うわよ。確かに関係無いわよね。セレスの頼みでは無いけれどセレスの望み。ならセレスに離れられたくなければ来るしかないもの」

『キャー』

「あの王子殿下はセレスの実力をきちんと理解しているからね。勿論私の力も。敵に回す気は起きないでしょ。最低限、来れずとも何かしらの手を間違いなく打つわ」

『キャー』


うんうんと頷きながら私の前を歩く精霊に、笑いながら語り掛ける。

とはいえその返事は全て何を言っているのか解らず、多分ただ頷いているだけだと思うけど。

こいつらに難しい事考える方が負けよね。絶対何も考えてないわよこいつら。


「とはいえ、リュナドの奴の事を、セレスが考えてない訳はない、か」

『キャー♪』


ただその呟きで精霊は初めて別の反応を見せ、嬉しそうに両手を上げて応えた。

そしてぴょんぴょんと跳ねるように踊りだし、だけど歩む速度は私と変わらない。

見えている歩幅と移動距離がおかしいわね。相変わらず常識が通用しない存在だわ。


「あんたらも大概リュナドの事好きよね」

『キャー』

「ふーん」


成程ねぇ。『主が好きな人だから』か。確かに特別扱いする理由としては納得出来る。

とはいえそれだけにしては、リュナドの考えを優先して動いている所を良く見かけるけど。


「まあ、セレスがリュナドに対して好意が無いなんて、誰も思わないでしょうけどね」

『キャー』


周りに人を置かない彼女が、唯一街の外に出る際に付いて来て欲しいと自ら頼む相手。

そんな相手に好意が有るかどうかなんて、精霊じゃなくてもすぐに解る。

とはいえあの二人の関係上、そんな色っぽい話ってのも考えにくいけど。

実際今日もちょっと探り入れてみたけど、全然そんな気配の無い返事だったし。


「あいつまーた胃腸薬のんでやがったしねぇ。ほんと何時か倒れるわよ、あの馬鹿」

『キャー・・・』

「まあ大丈夫でしょ。倒れたらセレスが何とかするわよ。薬でも何でもござれの錬金術師様なんだから」

『キャー!』


明らかに『リュナドが心配だ』という様子を見せる精霊に、慰めの言葉を告げる。

すると嬉しそうに鳴き声を上げ、また踊りながら進みだす精霊。

やっぱあんた達、セレス関係なくリュナド好きでしょ。精霊使いとはよく言ったもんだわ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー●ここから下は作者の報告です。

https://kakuyomu.jp/contests/dragon_novels_2019

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