習作 何卒ご贔屓に

ナオト

ささやかなエール、目に見えなくとも

 田舎の町中にひっそり佇む神社。ここの神は学問を司るため、冬の願掛けが突然増える。人の世界では受験という試練があるからだ。

 ある日、遥か天空から見下ろすと、またいつもの顔が願掛けに来ている。学生らしき少年は毎日欠かさず合格祈願の参拝をしていくのだ。

 もう一人同じような学生の少女がいる。こちらも欠かさず毎日、受験に受かるようにと、強く念じて帰る。

「あの娘また来てんのか、熱心だねえ。一生懸命なのが可愛いよな」

「こら、面白がるんじゃない」

「んだよ。交代の時間だから来たんだろうが」

 不満顔の男は――同僚なのだが――通行証をぞんざいに投げて寄越す。私達は神の見習いで、いわばアルバイトみたいなものだ。シフト制で願掛けを神に伝達している。

「人に情を移すなよ。お決めになるのは神だけだ」

 同僚は面倒臭そうに睨み付けてきた。

「……わかっているさ」

「まあ今の時代にゃ珍しいわな。お互いの合格を祈り合う、なんて」

「そうだな、本当に美しい友情だ」

「ゆうじょお~? おっまえ、本気でそう思ってんの?」

「違うのか」

「かーっ、知らねえよ馬鹿。とっとと戻れ戻れ」

 猫でも追い払うかのような仕草で、同僚から閉め出されてしまった。己が受けた願掛けを携え帰路につく。雲の中の山道でふと、立ち止まった。

(友情でないなら、まさか……いやいや、まだ子供だろう。ないない)

 認めたくない考えに蓋をして首を振る。同僚は色恋好きだからそのような考えになるのだろう。

 ただ、毎日ひたむきに祈る人間は贔屓にしたくなる。縁ある者の願いなら特に。

「曾孫の願いと言ったら、神様は聞き入れてくれるだろうか……ああ、コネなら生前沢山あったのだけどなあ」

 思わず苦笑をもらし、歩き出す。いつの時代もゼロからのスタートは厳しい。自分も頑張るからお前も頑張れと、手元の願掛けを握りしめ、念を送った。


 それから一ヶ月ほど経ったある日、今度はあの二人が一緒に参拝に来ていた。願掛けではなく報告だった。無事、お互いの志望校に受かったらしい。

(やれやれ、一安心だな)

 仲良く微笑む二人を眺めていると、いつの間にか背後から同僚が覗きこんでいる。

「どうした。声くらいかけろ」

「……おう、悪いな。あっちの野郎、実は俺の曾孫でさ。お前にはああ言ったが、こっそり神様に贔屓してもらうよう頼んだんだ」

「は?」

「そうしたら、皆そうするんだなーなんて笑われちまったよ。どこも同じだな」

「ええ……」

 どの口が言うのかと文句を言いたくなったが、やめておいた。自分はどうなのかと矛先を向けられてはたまらない。

(私も頼んださ、贔屓にしてくれと。内緒だけど)

 それよりも、新たな問題が出来てしまった。この同僚の曾孫である男の子と、自分の曾孫である女の子が、いい仲になってしまったら。

(いやいや、友達って願掛けにあったし。ないない)

 とりあえず合格は伝えても、それ以外は背後の男には黙っておこうと固く心に誓ったのだった。


 おしまい

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習作 何卒ご贔屓に ナオト @startchuuka515

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