青春の記憶
戸松秋茄子
本編
高校時代の一番の思い出は、十六歳の誕生日のことです。
昼休みのことでした。教室のドアを開けるなり、クラッカーが鳴り響いたのです。呆気にとられていると、たちまち同級生たちがバースデイソングを歌いはじめるではないですか。そして、ショートケーキ。さすがにキャンドルこそ立っていなかったものの、それがいわゆるバースデイケーキであることは明らかでした。
家族にだってそんな祝い方をされたことはありません。誕生日を知ってるような友達もいませんでしたし、家に帰ったところできっと何もない、いつも通り本を読んでラジオを聞きアニメを見て寝るだけだろう。そう思っていたのです。
ですから、それはまったくの不意討ちでした。驚きのあまり、パンを口に運ぶ手が止まりました。それと同時に考えたのは、確率の問題です。たしか人が二三人集まれば、同じ誕生日のペアが生まれる確率は五〇パーセントを超えるのだとか……
わたしはたまらず席を立ち、教室を後にしました。祝福される同級生はとても幸せそうな顔をしていたことをいまでもよく覚えています。
青春の記憶 戸松秋茄子 @Tomatsu_A_Tick
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