305・魔王様、失う

 会議が終わってすぐに各魔王に使者を送った結果……みんなすぐに集まってくれることになってくれた。

 結論から言うと、全員が賛成してくれた。


 特にフォイルは……なんだか最近ロマンに似てきてるんじゃないか? と思うほど、私への忠誠心のようなものが上がっている。

 ジークロンドは『これからの時代、そろそろ若いものに任せるときが来たようだな……』なんておじいちゃんのような発言をしていたし、アストゥやビアティグは相変わらずだった。


 最近はヒューリ王との戦争や、その後の処理のせいでフェーシャとしか会ってなかったけど、久しぶりに会ったみんなは元気でやっていた。


 南西地域連合は私とアシュルの結婚式で『れき』と『年』の導入を決め、ディトリアに建てる教育施設に何人か入らせる……という結論を下した。


 というか、私の結婚式が徐々に重要な行事化していってるのはどういうことなんだろうか?

 最初は戦後処理を終えたらアシュルと一緒に綺麗なドレスを着て、結婚式をしようって話だけだったのに……セツキが話を持ちかけた辺りから、南西地域全体でそれを祝う雰囲気にすらなりつつある。


 南西地域の魔王全員とその契約スライムが出席する行事になり、この日は仕事が休めるような日を目指すとか……久しぶりに集まった魔王たちは熱を上げて話していた。


 そしてそれが終わってすぐ、結婚式の日取りを決めることを迫られ……というか1の月ガネラの1の日にするようになっていた。


 なんでも、その日を始まりにすることで国民たちによりわかりやすくする為、らしい。


 自分の結婚式なんだから日取りくらい選ばせてほしいと抗議すると……。


「ティファリス様の場合、そう言ってあっという間に時間が過ぎていくのが目に見えてるっす。

 自分自身のことに無頓着になりがちなのは治した方がいいっすよ?」


 とフェンルウに言われてしまい、押し切られてしまった。

 というか、私は周囲にそんな風に思われていたのか……と落ち込みながらカヅキに相談すると――


「そうですね。自分の想い人すらおざなりに扱うほどに無頓着なのだと拙者は思いますよ。

 当然、王の為すべき仕事をこなされる姿も素晴らしいですが何事にも限度というものがあります。

 もう少し、側に仕える者に関心を向けるべきですね」


 とトドメの言葉をもらってしまった。

 おまけにケルトシルでのお祭り以来、再びアシュルと距離ができてしまい、中々会えないことを指摘され、心が抉れるように痛くなってきた。


 わかってる……わかってるつもりなんだけど、忙しくて会いに行けないのだ。

 と、心の中で言い訳してるのだけれど、それを見透かされたかのようにベリルちゃんに――


「ティファちゃんって、本当に仕事熱心だよねー。

 一段落したらまた新しい仕事見つけてくるし……働き者だよね!」


 なんて言われてしまった。

 確かに、フェリベルというかフェイル王率いるパーラスタ軍との戦い以降、ほとんどの時間を執務や戦いに当てていた気がする。


 彼を倒せば、ここを守れば、救援が終われば……そんな風に様々な事が起こり、対処するような日々だった。


 挙げ句の果てにやっと戦争が終わったと思ったら、一番の戦勝国だと祭り上げられ、あれやこれやと仕事をこなすことに。


 それもようやく終わりが見え始めたら、今度はセツキに相談されてそれに乗り気になってしまった。


 ……なんだか、自分が厄介ごとに率先して首を突っ込み、仕事を増やしているように思えてきて、思わず頭を抱えてしまいたくなった。


 完全に負の連鎖を自ら積み上げ、抜け出せなくなっているような感覚に襲われるが、それでもなんとか執務だけはこなし続けていく。


 結局の所、眠気や疲れを感じたらすぐに『リ・バース』で身体の不調を整えて、精神的に疲れたら少しだけお茶の時間を取る……そんな風に休みながら激務の日々を送っていくしかないというわけだ。


 これもより善き明日のために。未来のために……私が本当に休める時間をこの手にするまで執務をこなし続けるしかない。

 アシュルには申し訳なくも思うけど……もう少しだけ、待っていて欲しいとどこか自分を誤魔化しながら、私は毎日を過ごしていた。


 そんなある日――






 ――






「はぁ……ようやくまた一段落ついた」


 徹夜で机の書類を片付けた私は、一度軽く伸びをして朝の光を浴びる。

 なんだか、最近はこの光景にも慣れたような気がする。


 ケットシーの分の仕事をこなしながら、国の運営に携わってる子に『れき』について色々教えてあげたり、自分自身の執務を続ける毎日。


 とりあえず新しい仕事が積まれているだろう……と隣の方に視線を向けると……そこには何もなかった。


「……あれ?」


 ついつい執務を集中し続けていたせいか、机の上にあるものに気付かなかった。

 まさか書類が一つも無くなっていたとは思いもしなかった。


「……仕方ない」


 たかだかこの程度で全部終わるわけがないし、ちょっとフェンルウか他の子に問いただしてこようか。

 こっちはまだやらなきゃならないことがあるというのに、これじゃあ仕事が進まない。


 というわけで、私は仕事をもらいに……というのもおかしな話だけれど、部屋を出るとちょうどフェンルウがこっちに歩いてくるところだった。


「あ、ティファリスさま、おはようございますっす」

「おはよう。フェンルウ、ところで私ところに書類が届いてないのだけれど……」

「……ああ、そのことっすか」


 なにやらにっこりと微笑んでいるように見えるフェンルウの姿がどこか隠してるように見えた。

 なんでそんな風に見えたのかも不思議だけれど、とにかく彼には違和感がある。


「仕事がこれだけってことはないでしょう? なんで滞ってるのかはわからないけど……」

「ないっすよ」

「……え?」


 満面の笑みでフェンルウは私の事を見ている。

 即答された方の私は、一瞬何を言ってるのかわからないような表情をしてしまってるだろう。


「だからないっす。

 ティファリス様に回す仕事は、全くないっす」

「いや、ないわけないでしょう? 昨日まであれほど仕事がこっちに回ってきたのに……」

「ティファリス様……今自分が状況にいるかわかってるっすか?」


 心底疑問そうな顔を私に向けているフェンルウ。

 自分の状況って……仕事を回されてないこと以外よくわからないのだけれど……。


 全然わかってない様子の私に対して、フェンルウは深い溜息をついてしまった。


「ティファリス女王様、貴女様は少々働きすぎっす。

 連日連夜……寝ずに執務を続けられていれば、こちらがわでも無理をする者が出てしまうかもしれないっす。

 以前の……人材が育ってなかったころのリーティアスでは仕方ないところもあったっすけど、もうこの国もかなり大きくなったっす。

 昔のように毎日徹夜なんてされたら、困るっす」


 えー……仕事し過ぎで困るとか言われても……と思わず言葉に出そうになったけど、私の態度が全てを物語ってしまっているのだろう。


「とにかく、ティファリス様は七日は仕事なしっす! 皆にもティファリス様に仕事を与えないように厳命してるっすから、何を言っても無駄っす。

 その期間くらいであれば、貴女様がいなくてもなんとか出来るっすから。

 それと、もう一人の方にも休みを回してるっすから」


 フェンルウはやれやれと首を横に振って、きっぱりと私にそれだけ言って、さっさと言ってしまった。

 ……私は餌を与えてはいけない生き物かなにかなのだろうか?


 そんな風に思ってしまったけど、とりあえずわかっていることは唯一つ。


 私は仕事を失ってしまった。

 いや、取り上げられてしまったというのが正しいべきか。


 でも……これからどうすればいいのだろう?

 ま、まあいいか。お茶を飲みながら考えることにしよう。

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