273・英猫、大戦を進む
セツキ・カヅキがそれぞれの地域で戦い始めた頃、南西地域の方にもまた、戦いの幕が開けようとしていた――。
――フェーシャ視点――
「……いよいよだにゃ」
ぼくは柄にもなく緊張していたにゃ。
今頃北地域も南東地域も戦場になってる頃だろうにゃ。
もしかしたら……もうかなり戦況は進んでるかも知れないにゃ。
ティファリス様の要請でぼくとケルトシルの兵士たちは、クルルシェンドに向かって侵略するヒューリ王って上位魔王の軍を右翼で迎え撃つことになったにゃ。
後、ティファリス様の契約スライムであるアシュルの率いる部隊もぼくたち側のついてくれるけど、それでもちょっと不安なのにゃ。
左翼はレイクラドって竜人族の魔王とフラフって銀狐族の魔王の二人が軍を引き連れていて……中央はティファリス様が務めることになっていますにゃ。
……本当にティファリス様お一人で戦って大丈夫なのですかにゃ?
指揮官は他に任せるとは言ってましたけど……どうにも不安だにゃ……。
「フェーシャ様」
「な、なんにゃ?」
「落ち着いてニャ」
ぼくの不安そうな顔を見てくれてか、ノワルがそっと手を握ってくれたにゃ。
それだけでぼくの心はすごく安心して……落ち着いて勇気が湧いてくるにゃ。
自分のことながら結構現金な奴だにゃ……なんて思ったりもしたけど、やっぱり大好きな女の子に励まされて元気にならない男の子なんていないってことにゃ。
「フェーシャ様、やっぱりわたしも戦いますニャ」
「いや、それをしたらケルトシルの軍を指揮する者がいなくなってしまうにゃ。
大丈夫にゃ。ぼくだって、やるときはやるのにゃ」
ドン、と胸を叩いてちょっと得意げにそういう。
本当はノワルの言うことを大人しく聞き入れて、二人で戦いに行きたい。
でも万が一ぼくたちが抜かれたら……その先にあるのは総指揮官の存在の欠いた状態での防衛戦。
ケルトシルで指揮官が務まるのは
もちろん、部隊単位なら他の兵士たちでも十分に勤め上げることは可能だけれど、総指揮官ともなると限られてしまうのにゃ。
レディクアやミアにはケルトシルに残ってもらってるし、今この場でケルトシルの全軍を指揮できる存在は、ぼくとノワルの二人しかいないのにゃ。
「ノワル。いざとなったらぼくの代わりは絶対に必要になるにゃ。だから、ちゃんと軍を預かって欲しいのにゃ」
「フェーシャ様……わかりましたニャ。でも……いざとなったら、なんて嫌ですニャ。
ちゃんと、その……わ、わたしのところに帰ってきてほしいですニャ」
てれてれした感じでノワルが言ってくれてるけど、面と向かって言われるとすごく来るものがあるにゃ。
「あったりまえにゃあ! ぼくは必ず君の元に帰ってくるにゃ。
だから……ちゃんとぼくの帰るところ、守ってほしいにゃ」
「……はいですニャ!」
そうにゃ。ぼくは、必ずケルトシルに帰るにゃ。
カッフェーの分も……国を守り、民たちを導いてみせるのにゃ。
だってぼくは、魔王様だからにゃ。
――
ノワルと別れてしばらくの間ゆっくりと心を落ち着かせていると、向こうの……ユーラディスの軍が遠くから見えてくるのが確認できましたにゃ。
その後はじーっとそこに止まっているみたいだから……恐らく向こうの魔王とティファリス様が舌戦でもしてるんだろうにゃ。
ユーラディスの軍勢がしばらくの間そこで動かないままでいたかと思うと、大きな爆発が空に打ち上げ……一回、二回と立て続けに魔法を空中に放って……爆発が起きたかと思うと、進軍する速度を上げてきましたにゃ。
……なるほど、これが彼ら流の戦いの合図、というわけかにゃ。
それを見届けると、今度はこちら側の中央から同じように魔法が空中に飛んでいって……大きな爆発が響いてきましたにゃ。
これが……開戦の合図になったのにゃ。
「みんな、ぼくたちの地域を……国を守るにゃ! 全軍、突撃にゃああああああ!!」
「「「にゃあああああああ!!!」」」
左翼、中央が突撃していくのを確認したぼくたちも、次いで進軍を開始したのにゃ。
すぐさまぼくは魔法……いや、ケットシー経由で教わったティファリス様の魔導を発動させるにゃ。
――イメージするのは我が同胞へ与える祝福。我らが兵士たちを鼓舞し、精神・心身ともに強固な守りを授けるにゃ!
【――イメージするのはあらゆる傷を癒やす優しき光。我が元に集い、我が
「『オールブレッシング』【リジェネサイクル】!」
ぼくじゃ全軍を覆うような魔導なんか使えないから、右翼でもぼくら猫人族の軍勢にだけこの魔導を使ったにゃ。
彼らは淡い光に包まれて、活力に溢れているようにゃ。
やっぱり英猫族になってから身についた『
「よおおおし! やれる、やれるにゃー!!」
「力がみなぎるにゃ! 高まるにゃ!!」
必要以上に元気になった兵士たちを連れて、ぼくたちはどんどん敵兵との距離を詰めていくんだけど……ここでぼくが先駆けを決めてみせるにゃ。
――イメージするのは太陽の如き炎の球。降り注ぐのは猛々しく燃える日差し。焼き払え、薙ぎ払え、全てを……
【――イメージするのは一定の軌道を取る雷星。まばゆく纏う雷線の道標。迷うことなく、戸惑うことなく、我が力の赴くままにゃ!】
「『フラムソレーユ』【サテリットネール】!」
ぼくは接敵間近になって先行して、あの時ガッファ王とその軍勢に大打撃を与えた魔導を唱えたにゃ。
その直後、敵軍の左翼上空には巨大な炎の太陽。更にその周囲をゆっくりとまわる雷の星が弱くばちばちと光りながら出現したにゃ。
「いくにゃああああ!」
ぼくの叫ぶような声とともに太陽は真っ赤に輝いて、敵兵に熱線を浴びせ……跡形もなく焼き尽くしていくにゃ。
おまけに雷の星は強く光を帯びたかと思うと、いくつも雷線を張り巡らせて、その線は星を経由しながら敵兵を次々と撃ち抜いて行くにゃ。
最初は一つずつ的確に敵兵を射抜いていったんだけど、どうやら想像以上に死ににくい身体のようで……更にぼくは魔力を込めて複数の雷線を一人の敵兵に向けて撃ち放っていくにゃ。
次々に身体が射抜かれて穴だらけになりながら倒れていく敵兵たち。
「な、なんだこの魔法は……」
「『ヒ、ヒーリング』! な……なんで傷が……!?」
ぼくの最初の一撃で完全に萎縮してしまった敵兵は、完全に恐怖に囚われているみたいだにゃ。
だけどおかしいにゃ……ぼくの『サテリットネール』は頭や首を貫かれた兵士たちの一部が息を吹き返したかのように蘇ってきてるにゃ。
もちろんそのまま動かない兵士たちもいるみたいだけど……この違いがわからないにゃ。
おまけにあの敵の
まるで回復系魔法が効いて当たり前のように考えてる気がするにゃ。
本当は確かめたいんだけど……ぼくの広範囲を殲滅する系統の魔法じゃこれ以上のことは確かめようがないにゃ。
だって、身体の複数の箇所をほぼ同時に攻撃してるんだから、どれが致命打になってるかわからないんだものにゃ。
やるなら、もっと威力を抑えた魔法を繰り出さないといけないにゃ。
ああ、でも『フラムソレーユ』だったらそれは関係ないかにゃ。
消し炭どころか、跡形もなく消してくれてるから、蘇生のしようもない……からにゃ。
それでも味方が大勢いるなかで使うような魔法じゃないから、とりあえず先制が成功したということで割り切るのが一番だろうにゃ。
「中々手強そうにゃ……」
だけどそれでこそ突破しがいがあるというものにゃ。
ぼくの攻撃魔法……魔導も含めて、たっぷりお見舞いしてやるにゃ!
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