274・英猫、最後の鬼神に出会う

 最初の方はかなり順調だったけど、やっぱりそう一筋縄ではいかないみたいだにゃ。

 なにしろ、首を斬っても頭を貫いても全く死なないんだからにゃ。


 おまけに回復魔法の効きが異常で、腕が吹き飛んでも、足がちぎれても、瞬く間に元通りになってしまうんだからにゃ。

 まるで死を克服したかのような恐ろしさを感じるけど、ぼくの軍勢にそれほど影響を与えてないのは、多分ぼくが最初に攻撃をしたおかげだにゃ。


 あれがなかったら被害はもっと大きく、こっちの士気もずっと低下していたはずにゃ。

 ……とは言っても、決して楽観視出来るような状況じゃないのは変わってないのにゃ。


 状況はどう見てもぼくたちの方が不利で、一歩間違えればそのまま立て直すことも出来ずに押し切られてしまうにゃ。


 だからこそ、ぼくの方も火力が抑えめな魔法だけを使って彼らユーラディス兵の弱点を探ってる最中ってわけだにゃ。


 確かに彼らの回復力は異常にゃ。

 いつまでも戦い続けられる身体。

 すぐに傷は癒え、戦えるようになるほどの優れものだにゃ。


 だけど、決して死なないわけじゃないにゃ。

 それはぼくの『フラムソレーユ』と『サテリットネール』の二つで実証済みにゃ。


 頭も駄目、首も駄目……だったら、残った急所はもう一つ。

 左胸の心臓だにゃ!


「いくにゃ! 『ドンナーデル』【フラムランチェ】!」


 ぼくは敵兵に向かって雷の針を飛ばし、相手の行動を制限した後、狙いを澄まして炎の槍をそいつの左胸にぶち当てたにゃ。


 すると、今までとは違って倒れた敵兵はそのまま動かなくなってしまったにゃ。

 左胸が焼け焦げていて、ぴくりともしなくなったにゃ。


 やっぱり……と考えが当ったことを内心喜んでいたけど、それでも気を抜くことは出来ないにゃ。


 注意深く観察を続けながら、一切動きを見せなくなった彼らに一応回復の魔法を使って見たけど全く様子に変化は見られなかったにゃ。


「なるほど……みんな! こいつらの左胸を狙うにゃ! 他は全部致命傷にはなりえないけど、ここだけは例外だにゃ!!」

「はいですにゃ!」

「わかりましたみゃ!」


 ぼくは兵士たちになるべく聞こえるように大きな声で叫びながら敵兵の弱点を教え続けたにゃ。

 それを疎ましく思った彼らはぼくの方に襲いかかってくるけど……相手をよく見てから考えた方がいいにゃ。


 今までは敵の弱点を知るために戦ってきたけど、もうこれ以上、遠慮する必要はないにゃ。

 ユーラディス兵を倒すのに必要なのは左胸を貫くか、跡形もなく消しさるか……そのどちらかだろうにゃ。


 なら……!


「『ガンズレイ・トルネ』【ガンズレイ・ブレイズ】!」


 ぼくの周囲には雷と炎の球が揺らめいて……やがてその力を完全に解き放ったにゃ。

 一撃で上半身。二撃目で下半身を撃ち抜いて、存在そのものを消し飛ばしてしまったにゃ。


 ……なんだか、以前よりもずっと威力が上がってるような気がするにゃ。

 それもこれも、全部ぼくが成長した証なんだろうにゃ。


 今はこれほどありがたいことはないにゃ。

 なにせ、ぼくならこの回復力の高い兵士たちを一掃することが出来るからにゃ。


「な、なんて奴だ……」

「化け物がぁぁぁ!」

「ぼくは魔王にゃ。これくらいのこと、当たり前なのにゃ」


 元々魔王なんてものは化け物じみた力を持ってるものにゃ。

 それを今更……なにを言ってるのかにゃ?


 まあ、確かにこの兵士たちの言うこともわかるにゃ。

 正直、この死者を蘇らせている魔法とぼくとの相性は最悪と言っていいにゃ。


 多分、ティファリス様もこれなら苦戦することないと思うにゃ。

 セツキ王のように接近戦に特化した魔王なら一人ずつ潰していかなければならなかったりするんだろうけど、ぼくのように魔法戦を得意としてて、十分に火力があるのならなんとでも出来る相手にゃ。


 ただ……それは多分彼らが兵士の域を出てきてないからだろうにゃ。

 こうやって相対してるだけでわかるにゃ。


 だからこそ、今はぼくが率先して彼らを倒していかなければならないのにゃ。

 いずれぼくの方も同等か……もしかしたらそれ以上の敵と戦わなければならないかも知れないにゃ。


 その時が訪れる前に、少しでも兵士たちの負担を軽くしておきたいのにゃ。

 ぼくだからこそやれることをやろうと、魔法で彼らを消しながらどんどん先へと進んで行ったのにゃ。






 ――







 どれだけの兵士を魔法や魔導を駆使して倒して行ったのかにゃ。

 いつの間にかぼくの周囲にはあまり兵士たちが寄り付かなくなっていって……完全に避けられたと自覚した時にゃ。


 目の前に現れたのは赤褐色のような髪と目をしたすらっとした背の男の鬼族だったにゃ。

 他の鬼族と違って小さな二本の角が印象的で、ユーラディス軍にいる鬼族たちの中でも一際異質な存在だってわかったにゃ。


 まず、すごく軽装にゃ。

 なんというか、近くの町まで行こうかにゃって感じの服装で、とてもじゃないけど戦争に出てくるような衣装じゃないにゃ。


 これが普通の……例えばフォイル王とかがそんな格好で戦場に出てたりしたら、弱そうな狐人族の兵士に見えそうなものだけど、この男にはそれがないにゃ。


 ラフな格好でありながら、強者が放つ存在感があるにゃ。

 後、背負ってる大きな槍がまた、異様にも思うのにゃ。


 穂先はまっすぐ鋭く、振っても切れそうなんだけど、穂身が左右に枝分かれしていて、それが斧のような刃の形状をしているにゃ。


「や、はじめまして」

「……は、はじめましてだにゃ」


 気軽に挨拶してくる様子に普段だったらぼくも気を抜いてしまいそうになるんだけど……眼の前にいる彼はそれを許さないかのように、機をうかがっているようにも思えたにゃ。


「……へえ、気、抜かないんだね」

「あなたは、他の兵士たちと違って、どこか違う匂いを感じ取ったからだにゃ」


 男はあくまで愉快そうに、ゆっくりとその背中の武器を構えてきたにゃ。

 それでもその雰囲気からは攻撃を仕掛けるような感じはしなくて……それでもいつ仕掛けられてもいいような状態を保っているにゃ。


「うん、本当に良い魔王だ。それじゃあ自己紹介させてもらおうか。

 俺はキーシュラ。セツオウカの元上位魔王さ」

「……ぼくはフェーシャにゃ。ケルトシルの魔王にゃ」


 愉快そうに笑うキーシュラは、くるくると槍を回して、切っ先をぼくの方に構えてきたにゃ。


 鬼族の上位魔王の遺体が盗まれた……というのはずっと前にティファリス様から伝え聞いたけど、多分この男がそうなんだろうにゃ。


「嬉しいねぇ、そんな相手と、これから戦えるっていうんだからさ」

「ぼくはあんまり嬉しくないにゃ」

「そうか。そりゃあ残念……だっ!」


 そのまま流れるように構えて、ぼくの方に攻撃を仕掛けてきたけど、それに対応出来ないようなぼくじゃないのにゃ!


「『グランドスタブ』【アースニードル】!」


 イメージして創り出した巨大な土のトゲが、地面を大きく揺さぶりながら次々と生えていって、土の針がそれを縫うかのように進むであろう敵の進行方向に向かって飛ばしていったにゃ。


「ははは、うん、上手く攻撃してくるな!

 おまけにその『二重魔法デュアルマジック』……。

 英猫族の魔王と戦うのは俺もつくづくついてるなぁ!」


 くるくると自分の目の前で槍を素早く回転させて、ぼくの『アースニードル』を簡単に撃ち落としていってるところを見ると、この程度、まだまだ余裕って感じだにゃ。


 ……流石にそう簡単にやられてくれるような相手じゃないみたいだけにゃ。

 これはより一層気を引き締めて望まないといけないにゃ……。


 改めてそう決意して……ぼくは迫ってくるキーシュラを睨みつけながら魔法での攻撃を再開したのにゃ――。

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