229・青スライム、鬼と共に戦う

 ――セツキ視点――


 互いに向かい合うように陣を敷いている俺様とラスキュスは、自軍から抜け出すように前に進み、互いの顔をみる。

 俺様は護衛はつけず、ラスキュスは後ろに二人のスライムを護衛としてつけているようだった。


「よう、ラスキュス、よく俺様の前に顔を出せたな」

「あらあ、私はただ、貴方たちのやりかたに従ってあげてるだけよぉ?

 せっかくこうして戦うことになったんですものぉ……そちらに合わせてあげないとね?」


 相変わらず涼しい顔でよくもいいやがる。

 こっちが『極光の一閃』でボロボロになっているのを知っていて攻め込んできやがったんだからな。


「なるほど、まあいいだろう。だが、覚悟は出来てるんだろうな?」

「ええ、貴方を討って、この南東~東の地域は全て私の手中に収める……その程度の覚悟ぐらい、しているつもりよぉ」


 くすくすとおかしそうに手の甲を口元に当てて笑っているが、なるほど、そこまで覚悟しているのだったらやってやろうじゃねぇか。

 こちとら腸煮えくり返る思いを味合わされてるんだからな、徹底的にやらせてもらうぜ。


「……もはや交わす言葉もない。完膚なきまでにぶっ飛ばしてやるよ!」

「それはこちらの台詞よぉ。全軍、鬼たちを討ち滅ぼしなさい!!」


 ラスキュスは後ろに控えていたスライムを盾にするように後ろに下がりつつ、自軍に突撃の号令を飛ばしてきた。


「……お前ら! 行くぞ、全軍突撃ぃぃぃぃ!!」


 俺様の方も負けずに号令をかける。

 ……が、こちら側はラスキュスのところに突撃を駆けず、若干後方に移動し、あの女王が下がったところとは違う位置に向けて攻撃を仕掛ける。


 さあ、アシュル、お膳立てしてやったぞ。

 後は全てお前次第だ。俺様は精々暴れさせてもらうぞ。






 ――






 ――アシュル視点――


『行くぞ、全軍突撃ぃぃぃぃ!!』


 セツキ王様の号令が響き渡って、私の方も周囲のみんなと一緒に突撃を仕掛けました。

 ラスキュス女王は多分中央からやや後方にいると思いますから……そこに向けて走ればいいでしょう。


「『人造命剣「クアズリーベ」』!」


 透き通るほどの水の剣である私の愛剣を抜き放ち、一気に切り込みを掛けます。

 前方のラスキュス軍のスライムなんですが……今見ても本当に様々な種類のスライムがいますね。


 リザードマン族、悪魔族、竜人族にオーク族……微妙になんの種族かわからないものまで、多種多様の姿形をしたスライムが大勢がこちらに向かってきています。

 あれがみんな元契約スライム……魔王がいなくなったか、その元を離れた方たち……ですか。


 彼らには悪いですが、それでもあくまで特徴を捉えている程度。

 完全に聖黒族の姿形を取っている私の敵ではありません!


「悪いですけど……そこを退いてもらいますよ!!」


 私は『クアズリーベ』を携え、人狼族を模したであろうぷにぷにした狼の出来損ないみたいなスライムを斬り裂いて、ゴツゴツしてる岩のトカゲみたいな姿をしたリザードマン族スライムの繰り出す爪攻撃を避けて、お返しとばかりに斬り捨てる。


 不味いですね……このままではラスキュス女王の元までたどり着けません。


「『フリージングランス』!」


 氷の槍を放つ度に次々と兵士たちに刺さっていくのですが……それ以上にスライム兵たちが押し寄せてきて、にっちもさっちもいかない状態です。


 それにしても……物凄い殺気といいますか……なにか尋常じゃない熱意を感じます。

 ラスキュス女王を守るんだという決意がこんなにも伝わってくるなんて……ティファさまと同じくらい、あの御方も思われてるということなのでしょう。


 そんな方がなぜ更にこんな戦禍を広げるような真似を――それが本当に不思議で仕方ありません。


「いかせませんよ! 女王の元には、絶対に!」


 立ちふさがる魔人族の人形ひとがたを模した大きなスライムが私の行く手を遮り、その手にもつ大きなハンマーを振り下ろしてきました。

 私はそれを跳躍するようにかわし、そこから魔導を解き放ちました。


「『フリーズレイン』!」


 人型スライムの頭上から氷の雨が降り注いで、彼を貫いていった。

 そのまま剣で斬り裂き、人目もくれずに走っていきます。


 急いで、急いで――ようやく彼女のところまで届きました。

 他の者に指示を出しているようで、私の方には気付いてないみたいでした。

 周囲にはスライムがいるようでしたが、一人だけ銀色の髪に耳と尻尾を生やした――銀狐族のスライムがいるようです。


「ラスキュス女王!!」

「!? 貴女は……」


 私はあえてラスキュス女王の名前を呼んで、自身の存在をアピールしました。

 不意打ちする意味もありませんでしたし、私はラスキュス女王と話をするために来たんですから。


「ようやく見つけましたよ……」

「ふふっ、奇遇ねぇ、こんなところで会うなんて」


 口にそっと手の甲を添えるように笑う彼女の姿はどこか優雅な雰囲気を醸し出していて、とてもではありませんがこの戦場には似つかわしくない印象を覚えました。


「奇遇? 本当にそう思っておられるのですか?」

「……ふふっ、ティファリスちゃん本人が来るのかも……って思ってたけど、アシュルちゃんだなんてねぇ」


 どこか寂しそうな……それでいて決意を秘めたような、そんな表情でラスキュス女王はまっすぐ私のことを見つめていました。

 一体何を考えていれば、あんな風に物憂げな表情で戦場立っているだなんて……。


「ラスキュス女王、どうしてこんな戦争の火を広げるような真似をするのですか?

 セツオウカの近くに国を構えているのですから、今あそこがどういう状況なのか大体察しがつくのではないですか?」

「くすくす、さあてねぇ……でも、だからこそ絶好の機会だと言えるんじゃないかしらぁ」

「それは……どういう意味ですか?」


 ラスキュス女王があんまりにもおかしいと言った様子で笑っているものですから、思わず眉をひそめて聞き返してしまいました。


「決まっているでしょう。私も支配欲というか……もっと領土を広げたい、そういう欲が湧いてきたのよぉ。

 そう考えたら不思議な光で国を焼かれた今こそ、セツオウカをこの手に入れる……それくらい考えても不思議じゃないと思うのだけれど?」


 私にそう告げるラスキュス女王の――そのどこか哀しい決意を帯びた視線は、彼女の言葉が全部嘘であることを教えてくれていました。

 ……なんでそんな嘘をつかなければならないのでしょうか?


「ラスキュス女王……」

「アシュルちゃん。ここは戦場よ。

 私と話をしたいのであれば……」


 戦闘態勢を取るラスキュス女王は腰に下げていた鞭の柄を掴んで、構えの体勢を取りました。

 ピシン、と地面を一つ鳴らしてうねりをあげるそれは、すごく恐ろしい獲物に思えました。


 ラスキュス女王が戦闘態勢を取ったと同時に銀狐スライムの子も杖を構えて私の方を睨んでいました。


「戦うしかない……そういうことですか」

「その通り、ね。自らの意思を通したいのなら……私を打ち負かしてみなさいな」


 二人が戦う姿勢を取ったことで、私の方も剣――『クアズリーベ』を握りしめて、彼女たちに駆け出しました。


「『ファイアランス』!」


 銀狐スライムが繰り出した炎を槍を剣で打ち払って、一直線にラスキュス女王に突撃して斬りかかろうとしたのですが――鞭の先端が私の方に迫ってきたのを見て、慌てて回避行動に移りました。


「……っと」


 そういえば鞭だなんて武器を相手にしたことなんてありませんでした。

 しなる得物が私の方に追いすがるように攻撃してきて……少しやりづらいです。


「まさか、二対一で卑怯とはいわないわよねぇ」

「……むしろ、ちょうどいいハンデですよ」


 見下ろすように話すラスキュス女王からは、魔王としての威厳を感じましたが、私も一歩も引くわけにはいきません。


 ――ティファさま、力を貸してください。


「世界よ、私の青に染まれ。『キュムコズノス』!」


『クアズリーベ』はその姿を世界に溶け込ませ、私は一度素手になりました。

 ――ええ、相手が二人でも三人でも構いません。


 たとえ一人でも、私は自分の意思を押し通してみせます。

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