228・青スライム、鬼との問答

 ――アシュル視点――


 セツキ王様に無理を言ってラスキュス女王と戦えるようにしてもらいましたが……まさか本当に許可をいただけるとは思っても見ませんでした。何事も言ってみるものですね。


 でも、今回の事は本当にありがたいです。

 ラスキュス女王は私と同じ聖黒族のスライムです。


 私とは違ってずっと長い時を生きていて……聖黒族のことを私よりもずっと真剣に考えていたはずです。

 それなのに彼女がこんな事をするなんて、よっぽどの理由があるんじゃないかと思うんです。


 だからどうして今こんな戦争を引き起こしたのか……それが聞きたくて私は無理を承知で最前線に出してもらうことにしたんです。

 その代わり、と言ってはなんですが、他の救援に来てくれたリーティアスの兵士の方々はセツキ王様の軍勢に組み込んでもらい、万が一にでも私が戦死した場合も一切責任を問わない、という事にしてもらったんですが。


 でもそれでも良かったと思っています。

 ラスキュス女王の真意を聞いて……その上で彼女の国を打ち負かすことをしなければ、恐らく私やティファさまは心残りができるかもしれない、そう思いましたから。


「アシュル、準備はいいか?」


 声をかけてきたのはセツキ王様で、それは次はお前も戦争に参加しろ……そういう風に聞こえました。

 ヤカサカ奪還戦の時は逆に『お前の力は不要だ』と断られてしまいましたが……。


「私はいつでも準備はいいですが……参戦して、大丈夫なのですか?」

「ああ、次は恐らく大きな一戦になる。ラスキュス女王なら間違いなく出てくるはずだ」


 次は恐らくラスキュス女王との本気の戦いになると言うかのようにセツキ王様は話していますが……。

 よくそういうのがわかるものだと思います。


 個人的にはもうしばらく小さな戦いが続いた後、ラスキュス女王との戦いになると思っていました。


「なにかわかる理由でもあるのですか?」

「いくらラスキュス女王の戦力の中に、上位魔王並の力を持つスライムが何人もいたとしても、闇雲に小競り合いを繰り返して兵士を消耗するような戦いはしないだろう」

「だったらその、鬼神族のヤーシュも同じように切り札として抑えておくんじゃないの?」


 その方がもっと有効的に使えるんじゃないのでしょうか?

 そんな風な疑問が胸中に湧き上がってくるのですが、セツキ王様はそれをすぐに否定してしまいました。


「ヤーシュは『死霊の宝玉』で操られてるにしては妙に自我がはっきりしていた。

 自分自身の意思で行動していたし、強さも相当なものだった」


 その言葉を聞いて、私はカヅキさんの出会った鬼神族の魔王だったシャラ王と戦った時、自分の意志で動いているようだったと言ってましたね。


 私が出会ったライキ王はまともな言葉も喋れず、とてもではないですが知性の欠片も感じませんでしたが……。


 一体シャラ・ヤーシュ王とライキ・シュウラ王の違いは何なんでしょうか?

 そう言えばまだセツキ王様にはこの話、全然していませんでしたね。


「パーラスタでもカヅキさんが同じように意識がはっきりしてるシャラ王と交戦したそうです。

 私もライキ王と戦ったのですが……彼の方は全く逆で、理性がまるでないように見えました」

「そうか……というか、そういう事はもっと早く言ってほしかったぞ。

 進軍中に言われるとはなぁ……」

「あ、も、申し訳ありません」


 ため息が漏れるかのように呆れてるセツキ王様だけど、仕方ないじゃないですか……。

 パーラスタとの戦争が終わってすぐにここに来てるんですよ? もう少しこちらの事情もわかってほしいものです。


「はぁ……すまん。お前も随分と忙しい思いをしてるだろうからな。

 こっちの都合ばかり押し付けるわけにもいくまい」


 なんてちょっと落ち込み気味になっていると、言い過ぎたというかのように微妙にバツの悪い顔をしていました。

 なんだかわざわざそういう風に言わせたような気がして少し申し訳ないですね……。


「い、いえ、こちらこそ本当に……」

「いや、もういいさ。それより、パーラスタでそのライキ王とシャラ王に相対したってことは……今リーティアスにその二人がいるってことか?」

「それが……ライキ王はティファさまに修復してもらいにリーティアスへと護送中なんですが、シャラ王の方は……」


 私が少々言い淀んでいると、セツキ王様が納得するように頷いていました。


「シャラ王は数多いる鬼族の魔王の中でも最高の武芸者と誉れ高き男だと聞く。

 俺様やヤーシュ王のように大振りな獲物を持つ魔王が多い中、『首落しゅらく丸』と呼ばれる妖刀を用いて敵の首を落とすということで有名だったと史実にも残っている。

 後の武芸者たちの憧れの的で、今の時代だとカヅキとかがまさにそれだな」


 流石セツキ王様。そこまで詳しくはカヅキさんも教えてくれませんでした。

 なんといいますか……次は絶対に負けないと強く拳を握りしめていたようでしたからね。


「そんな逸話を持っている魔王様だったんですか……」

「ま、どれだけ優れていた魔王だったとしても、俺様には敵わないけどな!」


『はっはっはっ』と思いっきり高笑いしているところは流石鬼たちを統べる鬼神族の魔王様だと思いましたけどね。

 自分に対する誇りを常に忘れない姿勢は少し見習わないととも思いました。


「だがそうだな……シャラ王が意識を保っているとなると……その腕前は寸分も劣っていないだろう。

 もし再び相まみえることになったとしても、カヅキが相手では些か荷が重いかも知れないな」

「それでも……カヅキさんは前よりずっと成長しています。

 きっと今のあの方なら、倒してくれると信じてます」


 私がはっきりと言うと、目を見開いてすごく驚いた表情で私を見た後、納得したように頷くセツキ王様。


「俺様はここにいた時のカヅキしか知らないからな。

 お前がそういうんならそうなんだろう」


 カヅキさんは私よりずっと鍛錬を積んでいましたし、あの方は今の自分に決して驕らず、常に強者との戦いを視野に入れた研鑽をしてきていました。

 そんなカヅキさんが、再びシャラ王と戦うことになったら……そのときは彼女が勝つって信じてますから。


「セツキ様!」


 私たちがカヅキさんや魔王について話していると、兵――武士の鬼がやってきました。


「おう、どうした?」

「斥候からまもなくラスキュス女王の本軍と思しき軍勢と接敵する……と」

「わかった。俺様も前面の方に出る。カザキリに指示を仰ぎながら大名連中と上手くやってくれ」

「はい!」


 そのまま他の武士やここに来ている大名の方々に伝達しに行ったのか、さっさと他の場所に駆けていってしまいました。

 報告を受けたセツキ王様は神妙な面持ちで私の方を見てきました。


「カヅキとシャラ王のこともいいが、今はお前もラスキュス女王との戦いに専念しろよ?」

「……はい。私も覚悟決まってますから」

「そうか。ならいい。

 戦う前にラスキュスと少し言葉をかわしてくるから、お前もその前に最前線側に進んで準備しておけ」


 そのままセツキ王様は前の方に出ていってしまいました。

 私の方もいよいよ戦いが始まるのだ……となぜか妙に緊張してきました。

 それはラスキュス女王とは……ティファさまと親しくされていた方とは初めて本気の命の奪い合いをするからかもしれません。


「ラスキュス女王……同じ聖黒族として、貴女を止めてみせます」


 なぜ周囲の国々も巻き込んでこんな大きな騒動を引き起こしたのかはわかりませんけど、私が必ず止めてみせます。

 例え……それが数少ない聖黒族の同胞を手に掛ける事になったとしても――。

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