212・青スライム、対峙する
――アシュル視点――
ベリルさんと別れるように兵士たちの群れに突撃した私は、急激な力の上昇に驚きを禁じえませんでしたが、暖かく優しいこの力の流れがティファさまの物であるとわかった瞬間、すごく安心しました。
あの方の力に守られてる……そんな気がするほど全身に湧き上がる力の奔流。
それだけ私達の事を信頼してくださっているのだという気持ちが胸に溢れ……あの方に答えなくてはという感情が強く芽生えてきます。
「ティファさまに刃を向けるなら……誰であっても許しません!」
襲いかかってくる敵を斬り、魔導で貫き、ぐんぐんと先に進んでいきます。
『姉上様、感じておりますか? 我らが母の力を!』
大きな声で咆哮するフレイアールの声は少しうるさいですが、その高揚している気持ち、わからないでもないです。
だって、こんなにも力が漲ってきて……止められないんですから!
「当たり前ですよ! そんなことより、もう少し離れてください!
貴方の攻撃は危なかっしいんです!」
そう、フレイアールってばティファさまから力を貰っているのがわかっているせいか、すごく張り切っていて……広範囲攻撃のブレスとか、羽ばたきで風を巻き起こしたりとかして……とてもじゃないですが一緒には行動出来ないです。
むしろ気をつけなければいけない分、危なっかしくて……。
『う、うむ……わかりました。気をつけましょう』
話せる程の距離まで近づいてきたものですから、思わず声を張り上げていた私に対し、申し訳無さそうな声音で微妙に頭を下げたフレイアールは、そのまま距離を取るように私とは反対側に行きました。
といいますか、これ、かなり過剰戦力なんじゃないでしょうか……?
いくらエルフ族と言っても、聖黒族スライムである私にエルフ族の上位魔王の片割れであるベリルさん。
鬼神族スライムのカヅキさんに、明らかにワイバーンなんかよりずっと強いフレイアール。
それにティファさまの軍隊と……これだけの力を持つ者達が勢揃いしている以上、まさに敵なしと言った感じです。
「この……劣等種の分際でぇぇぇ……戦いの最中に何をよそ見している!」
そんな事を言いながら剣を構えて突撃を仕掛けてくるエルフ族が複数やってきましたが、何を言っているのやら……。
私は戦争が始まってすぐに召喚していた『クアズリーベ』を強く握りしめ、彼らの動向をよく観察し、行動に移ります。
「劣等種と侮っている内は私には勝てませんよ。
それよりも……もっと実力の差を見つめ直したらどうですか!」
「ふざけるなぁぁぁ!」
剣を振りかざしてきた一人にはすぐさま横に斬り払い、そのまま続いてやってくる二人目に対し、『フリージングランス』をぶつけて氷漬けに。
そのまま三人目辺りからは『フリーズレイン』を使って全体に攻撃しました。
全く、事ここまで来たら劣等種だとかなんだとか馬鹿らしいとは思わないのですかね……。
なんでエルフ族の方々はこんなにも他種族の事を悪く思っているのでしょう?
まるで目の敵にでもしているかのような勢いです。
そんな事を考えていると、右斜めくらいから魔力を感知しました。
幸い、私の移動速度を考えたら今のまま進んでも全く問題なかったのですが、一応注意して様子を伺いました。
そのまますごい勢いで風の刃……みたいなのがそれなりに離れた前方を通り過ぎて、エルフ兵の方々を斬り裂いていきました。
「あれはすごいですね……」
思わず発生源の方を見てみますと、あれは……ベリルさんですね。
あんな魔法、見たこともないのですが……エルフ族が使える固有の魔法かなにかですね?
ベリルさんは私が見ていることに気づいたのか、にっこりと得意げな笑みを浮かべていました。
でもその中にどこか狂気が混じってるような気がして……正直ちょっと怖いです。
一応ちょっと頷いておいて、そのまま返事を待たずに駆け出しました。
だって、なんだか今の彼女に話しかけるのは危険な気がしましたから……。
あの調子で行けば、彼女の方は問題ないでしょう。
私の方もいい加減目の前の相手に集中しなければいけないということですね。
――
流石にフェリベル王の住まうパーラスタです。
どれだけ兵士を倒したかはわかりませんが、わらわらわらわらと前に立ちふさがってくるんですから。
私を含む、リーティアスの陣営で圧倒的な超広範囲魔導を使えるのはティファさまだけです。
いや、無理すれば私も使えるんですが……『クアズリーベ・キュムコズノス』ぐらいしか手がないんですよね……。
それでもフレイアールがブレスを吐けば、周囲の兵士たちはなんともいえない姿になって、ベリルさんの独特の魔法が放たれれば、色んな所が吹き飛んでいったりする。
カヅキさんが率いる兵士達は連携しあって必ず三対一に持っていけるような状況作って戦っているようです。
私達ほどではないですが、徐々にパーラスタ側の兵士たちを圧倒していってるのですが……どうにも妙です。
ティファさまの話では、パーラスタはセツオウカから盗んだ鬼族……正確には鬼神族の魔王の死体を操ってくる可能性があるとのことでしたが……なぜか一向に姿を現しません。
もちろん、現れないのでしたらそれに越したことはないのですが……果たしてあれだけ色々と知略を練っていたフェリベル王が、ここに来て彼らを使ってこない、なんてありうるのでしょうか?
先程からたまに放たれる『極光の一閃』の光が、恐らくディトリアに向けて放たれてるのを見る限り、フェリベル王はまだなにか手を残しているのではないかと思います。
警戒しなければ……などと考えていた時に、それは現れました。
「グゥゥゥオォォォゥゥゥ……」
地の底から響くような唸り声が聞こえて、私はふとそちらの方を向きました。
すると、そこにいたのは左目の方に傷の入ったくすんだ赤色の髪がうなじ辺りまで少しぼさっとした感じで伸びていて、虚ろなその目は濁っているように見えます。
一応両目とも開いていてはっきり見えてるようですが、微妙に肌が青く、とても生きているようには思えませんでした。
ティファさまがセツキ王から聞いた話ではこの特徴は……セツキ王から数えて四代前の魔王の……ライキ王だったはずです。
鬼族の中でも立派な体つきをしていて、持っている武器は鉤爪のような先端に、片刃の大剣。
黒と灰色に塗りつぶされたそれは、刃のない――刀身の上半分にはギザギザに見えるように鋭いトゲのようなものがついています。
相当重そうに見えるそれは、以前セツキ王が持っていた大剣よりも禍々しく、大きなものに見えました。
そんな大剣を片手で担いで、ゆっくりと余裕を感じさせる足取りでこちらに向かっているのはちょっと怖いものがありますね。
……いえ、それ以上に恐ろしいのはその威圧感と言ったほうがいいでしょう。
既に死んでいるはずなのに、そこにはまるで殺意がむき出しになっているように見えて……それが私の歩みを止めてしまいました。
彼を無視して通ることは恐らく不可能でしょう。
「グゥゥルゥゥゥ……」
エルフの兵士たちが一斉にその場から逃げ出し、一種の壁のようにも見えましたが……彼らを気にしている場合ではありません。
「哀れな姿を晒して、国を撃った者達の手で操られるのはさぞかし無念なことでしょう。
口惜しいことでしょう……私が今、そこから解き放ってあげます」
ティファさまのようにライキ王の身体を清めて救い出すことは出来ません。
私に出来るのは精々、再起不能になるまでバラバラにするか……『死霊の宝珠』を砕くか……ライキ王の中に埋め込まれてる核を砕くかの三つだけ。
どの方法をとっても死体は損傷してしまうでしょう。
ですがこのまま
その苦しみから、解放してあげること。
それだけが私がこの鬼神の魔王に出来る……唯一の弔いになるでしょう。
「……行きます!」
「グゥゥゥルゥガァァァァァ!!」
二人同時に駆け出し、その刃を合わせ……戦いの幕が開きました。
もう一度、この方を安らかな眠りにつかせてさしあげるために……。
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