211・アールヴの真髄
――ベリル視点――
「……すごい」
思わずわたしは、自分の中に湧き上がる力にその身を委ねそうになって……ぐっとそれを堪える。
まるで自分の身体が自分のものじゃないような……そんな風に思ってしまうほど、圧倒的な力の奔流を感じた。
『極光の一閃』から巨大な光が放たれてすぐに、この凄まじい力がわたしの中に流れ込んできた。
――ああ、まずい。
この力は本当にまずい。だって、すごくあったかいんだもの。
優しくて、心地よくて――いつまでも浸っていたい気分にさせてくれる。
今ならなんでも出来る! そんな風に強く想える程で、酔いしれそうになってきた。
「あは、あははは、あはあぁ……」
あまりの気持ちよさに思わず惚けてしまい、蕩けるように声が出てしまう。
それはカヅキちゃん、アシュルちゃんも同じようで、自身の中に入り込んでる力の素晴らしさを感じているようだった。
そう、それはこの軍の内部に徐々に広がっていって、今では大半の兵士たちに行き届いているよう。
いきなり未知の力が自分の中に入ってくれば、まず感じるのは恐怖。
次に困惑や不安なんかを感じるだろう。
でも、この力ははっきりと教えてくれている。
ディトリアに向けて放たれた『極光の一閃』。
それを防ぐために解き放ったティファちゃんの力。
その一端が私達の中に勢いよく流れ込んで……体中を駆け巡り爆発しそうになっているのだって。
「カヅキさん、これは……」
「はい、ティファリス様の合図でしょう。
私達も攻撃を開始します! 全軍、進め!」
カヅキちゃんも意識して身体の内から湧き上がる力を無理やり従えているようにも見える。
なにはともあれ、カヅキちゃんの号令で、軍全体が一気に前進しはじめ……小竜の状態だったフレイアールちゃんは成竜状態になって空を駆けていく。
「ベリルさん、私達も行きますよ」
「……うん 行こう!」
アシュルちゃんに促されるまま、わたしも戦場に駆け出していく。
――さあ、お兄様、覚悟してもらいましょうか。
――
わたしはパーラスタを抜け出る時に持ってきた分厚い片刃の鉈を二つ、その手に持って一気に駆け出していく。
この鉈は宝物庫に刃を合わせるような形で鎮座していた。
無骨な作りだけど、使ってる金属がオリハルコン……って書いていたっけか。
わざわざ金属名を表記しているってことはかなり貴重な金属のはず。
そんな貴重なものを無意味に鉈にしているところとか、更に気に入った。
ずっしりとした感触が手に伝わって、確かな存在感を与えてくれて、『誰かを殺す』という残酷な行為を明確にこの手に教えてくれる……ある意味人殺しの武器であるこれはきっとわたしにお似合いの武器に違いない。
「さってと……」
わたしは正直、誰かを傷つけることも殺すことも全く抵抗はない。
むしろ好きかもしれないって思うくらいだ。
ああ、でも、ティファちゃんがそういうのが嫌いっていうならわたしも嫌い。その程度かな。
だって、ティファちゃんは私に生きる意味をくれた。とても愛おしい、大好きな魔人族の女の子。
そんな子の言うことを否定出来るほど、わたしは自分の意志を尊重できないし、したくない。
ある程度走っていると、応戦してきたパーラスタ軍の兵士たちと鉢合わせ、彼らは若干戸惑ってるようにも見えた。
「フェ、フェリベル王……?」
「馬鹿! あれはフェリベル王の偽……」
――ザンッ!
戦いの最中に余計な考えを巡らせてる頭に、これ以上必要ない、無意味な思考を止めてあげる。
お礼と言うかのように斬れ味を確かめるかのように一閃。
哀れ彼らの首から勢いよく血が噴き出して、まるで花を咲かせているかのよう。
「なっ……」
「ほらほら、戦いなんでしょ? 戦う以外に神経を向けてる余裕、ないんじゃないかな?」
わたしのその言葉に冷静になったのか、はっきりと敵意をこっちに向けて、攻撃を仕掛けてくる兵士たち。
一人はわたしの真正面から鋭い突き。
かたや右の二人は、一人が私の足元をすくい取り、転ばせた状態で追撃を行うというパターンだ。
まあ、そのどれもが無意味なんだけどね。
首を狩って身体を切り裂く。たったそれだけなんだけど、向こうの動きが遅いおかげもあってか全然問題ないんだもの。
「怯むな! 複数で攻めろ! 相手は一人、必ず隙を突くことが出来る!」
指揮を取っているであろう一人のエルフが希望的観測に望みを託すように部下たちを鼓舞するんだけど、そんなのは気休めにしか過ぎないってことがわからないのかな?
無意味にわたしに向かってくることを指示された彼らは、恐怖に怯えながらも突撃してきて、まるで一瞬のうちに咲いては散る花を演出しているかのような儚さを見せてくれる。
振り下ろされた鉈は安っぽい剣を叩き折りながら身体を斬り裂き、貧弱な鎧程度では防ぐことは叶わない。
ああ、でもちょっと鬱陶しい。
こんなにいっぱい来られたら、いつまで経ってもお兄様のところに辿り着けないんだもの。
「いくよ、『風のフーガ』」
わたしが魔法を唱えたと同時に、複数の大きな風の刃がまっすぐ疾走って……直線上にいる兵士たちをバラバラに引き裂いていく。
最初に現れた風刃達の半分がまっすぐ飛んでいった頃、わたしはちょっと自分の体を右に傾ける。
それだけで最初と同じように現れた刃達がまた……わたしが向いている方に一直線に飛んでいく。
最初のと今のと……今度は大きく左を向いてもう一回。
合わせて三回繰り出された風の刃達は、兵士たちがいた場所を根こそぎ薙ぎ払ってしまった。
本来『風のフーガ』は最初の風の刃から数拍くらい遅れて二度、同じ刃が飛んでいくって魔法なのだ。
なぜかわたし以外使えなくて……それだけが不思議なんだけどね。
「『炎のトゥッティ』」
今度は大きく丸く、円状に空中に炎の杭のようなものが一斉に出現して、それが全く同時に刺さったかと思うと、描き出された円の中から火柱が出現する。
触れるだけでも炭になってしまいそうなほど熱い炎。
絶叫も嘆きも……痛みも苦しみも全く無い。
だって、その炎の柱の中に入った人は、寸分違わず、意識する前に燃え尽きてしまうから。
「な……ば、ばかな……」
なまじわたしが同じエルフ族のせいか、誰も劣等種だとか、馬鹿にするエルフはいなくて……そこに見えるのはただただ怖い、恐ろしいといった感情だけ。
そんな感情で見られることすら、わたしはたまらなく嬉しい。
だって、いない扱いをされてた……存在しない『ベリル』が、今みんなに認められている。
おまえはここにいるんだって教えてくれている。
それはティファちゃんのように『愛』や『優しさ』っていう暖かい気持ちじゃない。
もっと暗くて……冷たい感情。
だけど、それすらわたしには心地よい。
あったかーいお風呂にゆっくりとその身を沈めて、全身でその気持ちのいいひとときを味わってる気分にすらさせてくれる。
だって……だって、こんなにもみんながわたしのことを見ているんだもの。
心の大部分が無関心だったエチェルジやお兄様とは違う。
今彼らは、ただただわたしにだけ視線を向けてくれている。
「……んー、お兄様には悪いけど」
こんなに見られたら、その想いに応えるのもやぶさかではない。
最終目標である『お兄様を殺す』という事を少し忘れて、わたしはしばらくの間彼らの期待を裏切らないよう、頑張るのであった。
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