187・エルフ族は仲良く出来ない
――クルルシェンド・貿易都市トーレス――
これまた久しぶりに訪れたトーレスは微妙にギスギスしているような雰囲気をその都市全体に纏っていた。
なんというか……以前訪れた時はまだここまでじゃなかったはずなんだけど……。
「皆、ピリピリしてる」
「そうね。まさかここまでとは思わなかったけど」
確かに以前は魔人族と狐人族ばかり目立ったような気がする。
現在は多種多様な種族が行き来している。ドワーフ族に紛れてリザードマン族や……なぜか竜人族も見かける。
が、やはりフォイルの言う通りエルフ族がちらほらと目に入る。
そしてそのエルフ族に対して邪魔そうな顔をしている人たちが目立っている。
その逆もしかりというか……侮蔑を込めているような気もする。
「……ちっ、こっちを見ないでくれるかなぁ! 汚らしい上に土臭い。汗まみれの上に酒臭い野蛮人が」
「な、なん……だとぉ! てめ、よくもそこまで言ってくれたな!」
あー、早速目の前で言い争いをしてる二人が……。
最初から見ていた私からしても、どう見てもエルフ族の男性の方が悪い。
というか……なまじドワーフ族の男性の方が背が高いから、エルフ族の方がまるで子ども。
下から睨めあげるように見上げているところなんか三下臭がするほどだ。
逆にドワーフ族の方は相変わらずガタイが良く、壁のような印象を与えてくれる。
さてどうしたものか……ここであまりでしゃばりすぎるのもよろしくないな、と考えていると、警備隊の人たちがやってきてこれで一安心――と思いきや。
「ふんっ、君たち風情がこの僕を捕まえるだと? 笑わせないでくれないかな!
僕はね、栄えあるエルフなのだよ? この僕になにかしたら、国が黙ってないからな?」
なんて言いながら威圧して暴れまわってる始末。取り押さえようとしても、なまじ立派な服を着込んで身綺麗にしているせいか、どこかの国の重鎮とでも思ってしまったのか、どうにも気圧されてしまったようだ。
「ティファリス様、どうされますか?」
「あの人、すごい迷惑」
ルチェイルは全く表情が読めず、フラフは不快感をあらわにしている。
全く、仕方のないことだ……。
「早くその男を捕らえなさい。いつまでも野晒しにしないで」
うんざりした様子で歩み寄る私に全員が怪訝そうにこっちを見ていた。
いやまあそうだろう。ここはトーレス。フォイル管轄のクルルシェンドの貿易都市なのだ。
私の顔を知ってるほうが不思議でもあるくらいだ。
「なんだお前は。たかだか魔人族の分際で……僕は崇高なるエルフの一族だぞ!」
「黙れ」
私が『今すぐ殺してやろうか?』と言うかのように殺気をその男に向けると、若干怯えながらも、自分の種族に対してそこまで誇りを持ってるのか? と思うほどの不服そうな目で睨んでいる。
「あの、貴女は……?」
「ティファリス・リーティアス……と言ってもわからなさそうね。フォイル王の知り合いみたいなものよ」
その瞬間、『ざわ……ざわ……』と警備隊の人たちとドワーフ族の男性がざわついているのがはっきりとわかった。
逆にエルフ族の男性は全くわかっていないようで、その目はより一層不満そうに釣り上がっている。
「この国の魔王の知り合い、だと? たかだかその程度の分際で――」
「馬鹿かお前!? ティファリスと言ったらこの南西地域の上位魔王! てめぇの存在なんか一瞬で吹き飛ばせるくらいの力の持ち主だぞ!?」
上位魔王という単語を聞いた瞬間、サァーっと血の気が引いて顔を青くするエルフ族の男。
他の地域からきているのだから、少しは勉強したほうが良いのでは……? とも思ったけど、今はそれどころじゃない。
しばらく呆然としていたエルフ族はようやく意識を取り戻したのか改めて私の方を睨み――ってよく私の正体を知ってそんな風に振る舞えるな。
「ふ……ふふふっ、良いんですか? 僕を捕らえるなんて、正気の沙汰では――」
「ああ、御託はいいからさっさと連れて行ってちょうだい。時間の無駄ね」
「な、なにを……! お前、僕を誰だとごほぉっ……!?」
話し合ってる時間が惜しかったから、さっさと黙らせるべく、速やかに腹を殴って黙らせてしまった。
その結局、そのまま彼は引きずられるように警備隊に連行されていった。警備隊のほうはビシッと敬礼したり、ドワーフ族の男性は私に感謝しながらあやかりたいと握手を求められたりと色々とあったが、こういう風に感謝されるのは悪い気分ではない。
警備隊の人たちにはなにか問題がおこったら全部私に棚上げしていいとだけ伝えて、彼らを見送る。
「手を上げてよかったのか?」
「ああいう手合はね、さっさと黙らせないとずっと文句を言ってるもんなのよ」
ルチェイルの心配もわかるが、あれやこれやとしている間につけあがらせてしまうのがオチだ。
人の話を聞かない輩に対し、私達が懇切丁寧にしてやる義理はない。さっさとぶっ飛ばして連行してやった方が手っ取り早いのだ。
……ちょっと暴力的思考に染まってきている気もするけど、気にしたら負けだろう。
「ティファリス様、かっこいい……」
「ふふっ、ありがとう」
きらきらとした視線を私に向けてくるフラフの頭をナデナデしながら、私は他にエルフ族が迷惑かけてないかどうか見回ることにした。
その結果――は流石に自重しているエルフ族も多く、そこまでひどい状態にはなっていなかった。
ただ、誰もが他の種族を見下していたり、自分勝手な主義主張を振りまいたりしているのは変わらないようだけど。
どうやらトラブルが多かったのは最初の頃らしく、今はなんというか……エルフ族はこういうものだと割り切り初めた者が増えてきたらしい。
それでもさっきのドワーフ族のようにイラッと来るものいるらしく、それが揉め事の原因なのだとか。
「エルフ族、嫌なの」
「そうね。私もあの子以外のエルフ族は初めてみたけど……こんな風に横柄な連中だとは思わなかったわ」
あの子――私が幼い頃初めて出会ったエルフ族の子。
すごく寂しそうな目をしていて、きらびやかな衣装に身を包んでいながらその目には生気が宿っていなかった。
なにもかも諦めたようなそんな様子だったから私が遊びに誘ったのだ。
あの時のあの子の顔、今でもよく覚えてる。一人きりの世界で、初めて他人に出会ったかのようなそんな驚きと喜びに包まれた表情をしていた。
……涙を湛えながら笑顔で私に抱きついてくるその姿は本当に綺麗で、あれ以降は毎日私と会う度に嬉しそうにしていたのを思い出す。
エルフ族を見る度にその子のことを思い出すのだけれど……あの子は今何処で何をしているのだろう?
『夜会』の時のフェリベルがもし本当にあの子なんだったとしたら――。
「見つけた……! ティファちゃん!」
なんて思い出していたりしていたら、ふと目の前の女の子に声をかけられる。
エルフ族の……あれ、この子とはどこかで――!?
「フェ、フェリベル王……!?」
身構えたルチェイルとフラフは、警戒するようにまっすぐその子を見ていたけど、フェリベルは私のことを『ティファちゃん』などとは呼ばない。
ましてや今の私のを知る者でその呼び方をする者はいないだろう。
――そう、私にその呼び方で笑顔を向けてくる子と言えばただ一人。
「ベリルちゃん?」
「うんっ! 久しぶり!」
やはり、私が幼い頃一緒に遊んだ、エルフ族の少女――ベリルちゃんだった。
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