183・魔王達の戦後処理
リーティアスに戻った私はまず各国の状況について報告するよう要請をした。
ここでも活躍したのはやはりフレイアールと彼が率いるワイバーン。
なんてたって一日で行き来出来るのだから、何日も経たずに他の国の被害状況を知ることが出来た。
……それはつまり、私の仕事量がスムーズに増えていくことを意味している。
最初なんでこんなに私にやってくる情報量が多いのだろうとか馬鹿な事を思っていたが、私がフレイアール達に指示していたからなんだよね。
一番酷いのはグルムガンド。次にケルトシル。フェアシュリーはなぜかセツキが来訪していたからなのか、全く損害がなかったそうだ。
……まあ、セツキからしてみたら、『
なんてったって彼はセツオウカの魔王。ぶっちゃけアストゥが抗議したところでごめんで済む程度の間柄だし、私の方も正当な理由があればそんなに追求しないしね。
ひとまずセツキのおかげでフェアシュリーは大した被害もなかったが、その後に救援に行ったグルムガンドは首都が完全に破壊されていて、城もかなりの損害を受けていたのだとか。
この国、いつもボロボロにされてるような気がする。前の悪魔族絡みだった可能性があるし、つくづく不幸な国柄だな……と若干だけど、哀れみを感じてしまった。
今回は幸い、首都以外に被害がなかったのがよかった。
……が、ビアティグが想像以上に卑屈になっているのは意外というかなんというか。
どうやら、過去の――獣人族を迫害していた歴史のこと。エルフ族と魔人族が関与していたと信じていたそうだが、実際はエルフ族と悪魔族が魔人族と獣人族を仲違いさせ、貶めるために画策したことだったらしい。
正直な話、何を今さらと思ったのだけど……それを口にしてしまえば、間違いなくビアティグが更に苦しむことになるだろうから何も言わなかった。
だけど……エルフ族が他種族を見下すような主義主張をしているのは周知の事実。
そんなのがなんで魔人族と組んで獣人族を迫害するのかと疑問に思うほどだ。
だけど他人の絶望が好きな性質を持つものが多い悪魔族なら十分に考えられる話だ。
特に『
これで彼らが他人の絶望を好んでいたら私が徹底的に教育していたところ……というかこっそり始末していたところだ。
とにもかくにも、私にしては些細なことだったのだが、彼にしてみたら相当深刻な悩みだったのだとか。
まあ、歴史的観点から考えたら間違ってるのは軽く考えてる私の方なんだろうけど。
しかし……これを機に彼らはより一層こちら側に対しての態度が軟化することだろう。
ビアティグの方も魔人族との仲をより一層深める為に尽力するのと言っていたし、期待は出来るだろう。
――ただ一つ気になったのはどうにも彼からしょうもないというか……こう、微妙に情けない男のオーラが出ているのが……。
それを隣で「やれやれ」と言った様子で……そう、まるでお姉さんが仕方のない弟の面倒を見るような視線をアストゥが送っているのが余計に気になった。
ま、まあ彼らは彼らなりに色々とあったのだろう。私としては今以上の関係を結べればそれでいい。
それでいい……はずだよね?
ひとまず彼らのことは後々考えることにして……今回一番成長を遂げ、それなりに被害を受けたのはやはりケルトシルだろう。
なにせ
予想はしていたけど、よく賢猫まで入り込めたものだ。魔法ペンを使うような地位は、悪魔族だと発覚する可能性は急上昇するはずだし……グルムガンドよりずっと深くに入り込んでいたことを考えると、今回の事で一掃出来たのは良かったことだと言えるだろう。
ただ……フェーシャはカッフェーを失ったことが相当辛かったようだ。
戦い終わった後はしばらく気分が高揚していたこともあってか、普通に振る舞えていたようだったらしい。
昼間はまだ明るいそうだけれど……夜になると気持ちが沈んでしまうのか、一人になることが増えたと生き残った賢猫の一人であるレディクアがフレイアールに語ってくれていたそうだ。
こういう時、フレイアールの能力は非常に便利がいいなと思う。
大きい姿で他国まで一気に飛んで、首都の近くまで行ったら小さい姿で情報収集。
まあ、敵国ではそう上手くはいかないだろうけど、少なくともケルトシルなんかの友好国に向かうにはちょうどいい。
そのおかげでケルトシルの現状を知ることができたのだから。
だけどフェーシャが猫人族の上位種である英猫族に覚醒したという話を聞いた時は驚いた。
カッフェーの死をきっかけにして目覚めたらしいけど……それが余計に彼に負い目を与えてるのかも知れない。
なんにせよ、これで南西地域に新しい覚醒魔王が誕生したことになる。
おまけに上位魔王であるガッファ王も倒したのだ。彼は恐らく、次代の上位魔王になることが出来るだろう。
……というか、よく考えたら今回の戦争で上位魔王が二人ほど欠けてしまった。
その事についてセツキに聞いてみたのだけれど、これは次の『夜会』の時まで欠けたままで行くのだとか。
次に起こる問題は……領土に関する問題だろう。
ガッファ王の国は中央寄り。イルデル王の国は北地域寄り。
正直、南西地域の国を治めてる私達からしたら、これほどいらない領土はない。
複数の国をまたいだ飛び地の領土なんてあったところで侵略されるいい口実を与えるだけだし、管理が追いつかない。
そりゃあフレイアールに乗ればあっという間につくとは言え、そこまでの労力を払ってまで管理するほどのものではないだろうというのが私とフェーシャの結論だった。
そんなこともあって、ガッファ王の国はセツキ経由でレイクラド王に。
イルデル王の国はフワロークに任せることにした。
幸いこの二人の国ならかなり近く……っていうか三つくらい小国をまたいだ先にある程度だからまだ手を出されずに済むだろうという決断だ。
その分、レイクラド王からはワイバーンを。フワロークからはそのレイクラド王から譲り受ける予定のワイバーンを使っての交流を盛んに行い、彼女の国の武具を格安で譲ってもらうことになった。
未だ私の国――というかこの南西地域は慌ただしくはあるが、悪魔族の侵略を乗り越え、イルデル王と言う脅威を排除したおかげか、かなり余裕が出来たと言えるだろう。
最近おこなった悪魔族のあぶり出しはほぼ完了し、ディトリアで『
可哀想――などとは思わない。彼らの引き起こしたことはそれだけ人々の心を酷く傷つけることばかりだったのだから。
こちらの諜報員として役立てるという案も出るには出たが、それ以上に彼らが何をしでかすかわからないというのが大きいだろう。
不安要素の芽は摘み取る。これが今までの経験で学んできたことだ。
リーティアスのでの仕事が終わったら、後はケルトシル・フェアシュリー、と近くて重要なところから悪魔族を一掃していこうと思っている。
――そうして時間はあっと言う間に過ぎ、私達はつかの間の平和を享受することになったのだった。
……いや、戦ってても戦って無くてもある意味戦場にいるのだから、私自身はあまり平和を感じる余裕はなかったのだけれどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます