182・魔王様、威圧する
イルデルとの戦いが終わった私達は、ひとまず生き残りを探すことを先決とした。
……と言ってももはやほとんどの兵士達が幽世に旅立っていて、あれだけいた兵士たちは半分……よりもずっと少なくなってしまった。
唯一良かったのは、ワイバーン達はフレイアールに気圧されて、一切攻撃的行動を取らなかったと言って所か。
ワイバーン達は『幽世の門』を防げるほどの魔力量を持っていたらしいし、『斬桜血華』の射程はギリギリワイバーンがいる空域を外していた。
結果、ワイバーンは兵士達を振り落とした挙げ句、彼らの食料やらなにやら諸々、私に献上してくれる形になったのだ。
ラントルオは……兵士と同じく、壊滅状態。いや、これは仕方のないことだろう。数匹生き残ってはいるようだったが、兵士達と違って体が大きい分、結構ひどい状態だった。
……本当であれば『リ・バース』で回復して、こちら側の戦力に組み込みたいのだけれど……ナロームが間違いなく反対するだろう。
『我が母よ。何か悩んでいるようだが……如何した?』
相変わらず大きくなった時の口調がまるで違うフレイアールが、私を心配するような顔でこっちの様子を伺っていた。
……ふむ、フレイアールに頼るのも良いかも知れない。
彼はまだ光・闇の両属性とも、使ってる様子はなかった。私が確認している限りでも炎属性の魔法……というか
「フレイアールは光属性の魔法は使える?」
『我は基本的に闇属性しか使えませぬが……それが?』
「ラントルオの傷を癒やして貰えれば戦力として有効活用出来るかも知れないと思って、ね」
ふむ……とフレイアールはうんうん頷きながら悩んでいたようだ……が、それからすぐに私に質問してくる。
『我が母よ、傷を癒せれば何でも良いのですな?』
「……そうね。動けるようになってくれれば」
『ならば、なにも光属性に頼らずとも良いでしょう。我が水属性の魔法で癒やせば問題ないでしょう』
なるほど。
それなら確かに光属性じゃない。ていうかそれなら私が使っても問題ない。
「なら――」
『……』
ああ、すごくキラキラした目で私の方を見ている。
まるでお役に立ちたいという心の声が聞こえてきそうなほどだ。
「――フレイアールにはラントルオの治療と、ワイバーンのまとめ役をお願いするわ。
私とナロームは兵士たちの方の生き残りを探して見るから」
『うむ! 心得ましたぞ! 我におまかせを!』
私から仕事を任せられた事がよほど嬉しかったのか、ぱたぱたと――いや、もうぶおんぶおんと翼をはためかせている。
風圧がすごくて、生き残ってる兵士達が地面にしがみつくように握りしめていた。
「フレイアール、その姿の時は羽ばたきで喜びを表すのは止めなさい」
『う、うむ……済みませぬ。つい癖でやってしまいました』
さっきのあんなに元気良さそうな姿から一点、頭も尻尾もしゅーんと下がってしまっていた。心なしか顔色も暗い。
「ほら、早く行く行く」
『う、うむ……』
どうにも暗い顔のまま、フレイアールはラントルオたちの方に近寄っていった。
そしてタイミングを見計らったかのようにナロームが戻ってきてこちら側に報告してくる。
「ティファリスの女王さん。あらかた生き残りの兵士たちはかき集めてきたぜ。
今点呼を取って確認しているけどよ、ざっと見積もって……約二万から三万といったところだな」
「そう。それで『
「いるかどうかはわからん……が、今悪魔族の姿してる奴らは全員使えないそうだ。
そもそもそういう奴らは全員諜報部隊に配属されているらしい」
なるほど。ここにいるようなのは人を欺く事ができない方の悪魔族ってことか。
それならそっちのほうが都合がいい。正直、『
なら……。
「悪魔族の兵士達は全員武装解除した状態で待機。他の種族は全員まとまって動かないように指示を出しておいて。
逆らうなら私の魔導を思う存分味あわせてあげるってね」
「ははは、りょーかい。あんなえげつない威力の魔法を見た後で、喰らいたいやつなんていねぇだろうけどな」
そのまま笑いながら手を振って持ち場に戻るナロームの姿を見送りながら……私の方も行動に移すことにした。
ナロームばかりにさせておく訳にはいかないしね。
――
それから彼らをまとめるのに数日かかったが、なんとか体勢を整えることに成功した。
ナロームと私は彼らと共に進むことになり、フレイアールは私達の代わりを連れてきてもらいに一度リーティアスに引き返してもらうことに。
イルデルの国に引き返すのも良いのだけれど、何があるかわからない……というのよりももうここまで来てしまった以上、南西地域に入ったほうが早い。
とは言っても彼らだけで進軍させると間違いなく揉め事が発生するだろう。
なら、こっちが監視しながら進んでいくのがベストと言えるだろう。
ちなみに、ワイバーンは全匹このまま。どうやらフレイアールのことを上位種だとはっきり認識しているようで、よく言うことを聞いていた。
これなら……前にマヒュム王と話し合っていたワイバーンによる物の流通を行うことが出来るかも知れない。
イルデルのおかげ……と言ったらおかしいだろうが、彼のおかげでワイバーンが一気に入手できた。食料事情もだいぶマシになってきたし、この数を世話することくらい……。
「しまった……」
「ん? 女王さん、どうしたんだ?」
私が重要な事に気づき、頭を抱えるような仕草をしていると、ナロームが不審そうにこっちを見ているようだった。
「ワイバーンやラントルオがこんなに住めるような小屋、ないわ……」
そう、ラントルオもそうなんだが、私のところにいるワイバーンは基本的に野ざらしだ。
これは私の国にワイバーンがいないということが大きい。だって、大体借りてるんだもの。
今いる二匹はラスキュス女王から借り受けてる子達だし、戦後処理が終わってしまえば返さなければならない。
だからか、私の館の近くで好きなようにさせておけばなんとかなったのだ。
だけど、これからずっと住む、ということになったらそれではいられないだろう。少なくともワイバーンがそれなりに寛げるスペースが必要だ。
「女王さん……気にする所、そこなんだな……」
私が真剣に悩んでいるのに、なぜか苦笑してこっちを見ているナローム。
全く、随分と失礼なやつだ。私はこんなに真面目に考えてるのに。
「重要なことでしょ」
「そうむくれないでくれ。普通、ワイバーンのことより今後のこととか……後ろの兵士達のこととか考えるもんだろう」
ナロームの言うことも確かなんだけど、それはもう時間が解決してくれるというか……。
私の力を見たここの兵士達はすっかり萎縮してしまっていて……私に逆らうことすら考えることが出来ないような状態の連中が多い。
以前のオークとゴブリン・魔人族と同じだ。時間が経たなければ解決しない。
「そういうのはね、問題になった時に解決すればいいのよ。
どうせ今悩んでも仕方のないことだし、それより有益な事を考えてたほうがいいわ」
「……本当に大物だな。あんた」
苦笑しながらだが、心底そういう風に思っているようだ。
尊敬するような視線をナロームの方から向けられると少しくすぐったいというか……照れる。
――それからフレイアールが戻ってくるまでの間、ゆっくりと進み、交代に来たカヅキ・フェンルウと数人の兵士達の言うことを聞くようにしっかりと言い含めて、私はリーティアスの方に先に帰還することにした。
「いい? カヅキの言うことをよく聞いてリーティアスまで来るように。
少しでも逆らったり逃げようとしたら……ふふっ」
みたいな事を言ったせいか、若干兵士達が怯えていたようだけど……まあ、問題が起こらなければそれでいい。
ナロームの方は引き続き軍を率いてくれるみたいだし、カヅキの方には問題を起こしたらきつく叱っていいと伝えている。
……こうして、私はカヅキ達と交代して、戦後処理の為にリーティアスに戻るのであった――。
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