173・格の違いを教えてあげるよ
――フレイアール視点――
あ、ああ……熱い……体が、体中が熱い。
母様の魔力が爆発的に膨らんで……寝室が真っ白に染まった時……ぼくの体にも変化が起き始めた。
まるで母様が体中に流れ込んでくるかのような、そんな感覚。
「な、なんですか……これ……」
隣を見てみると姉様も同じように苦しそうにしている。胸を抑えて膝をついてた。
――ま、まずいよこれ……今ぼくたちが倒れたら……一体誰が母様を守るっていうの……!?
意識が途切れそうなほどの熱量がぼくの体中を灼いているかのよう。
熱くて……熱くて魂が悲鳴を上げそうになる。
だけど、ぼくは決して意識を手放さない。それは姉様も同じようで、一生懸命この灼熱の地獄に耐えているようだった。
(ね、姉様……)
「フ、レイ……アール」
体中の魔力が暴れだしそうになって……耐えきれずにぼくは館の外に飛び出してしまった。
そこはとても月が綺麗で、まるでぼくたちを静かに見守っているかのように思えるほどだった。
――ああ、母様。ぼく、もっと強くなる。
もっともっと強くなって、貴女を孤独から引き上げてあげるよ。
卵の時から感じていた二色の魔力。それは暖かくて冷たくて、みんなと一緒にいるのに独りでいて、優しくて綺麗な二つの螺旋。
この人はずっと一つに交わるのを待っているんだと思った。そうしてただ独りになってしまう。
ぼくは初めてそれに触れた時、なんて悲しい人なんだろうって思った。だって、それはみんなと優しい時間を過ごす為に、敢えて高い頂きを目指して孤独を選んだ人に見えたから。
だけどね、母様。それは違うんだよ。
だからぼくが教えてあげる。一緒に高みに昇ってあげる。
だって、独りは寂しい。それは間違ってることなんだ。
常に寄り添ってくれる人がいるから――ぼくたちはどこまでも昇っていけるんだから。
「クルルルルルッッ……キャオオオオォォォォ……グルゥゥゥゥガアァァァァァァ!!」
メキメキと体中が軋む音が聞こえる。
望むと望まないと関係なく注ぎ込まれる膨大な力の本流が、ぼくを新しい段階へと導いてくれた。
(ぼくは……強くなる! どこまでも! あなたと共に!!)
――そうして、ぼくは成長を遂げた。
それはぼくが望んだ、ありのままの姿。より強く、より気高い……この世界では太古に滅んだはずの存在。世界の始まりの日。他の種族と共に
――
灼熱を通り過ぎたそこに待っていたのは、確かな実感だった。
それはぼくが持った生きているという……存在しているという実感。
頭の中が透明になっていくかのように冴えて、思考がはっきりする。
母様は本当の自分を見つけた。多分、母様を慕っているスライムは全て大なり小なり影響を受けてると思う。
ナロームとルチェイルの心はあくまでラスキュス女王のところに在るから、姉様・カヅキ・フェンルウ・ロマンの四人かな。
ぼくと姉様は母様と直接魔力を渡された側だから、特に強い影響を受けたんだと思う。
……でも、すごく熱かったけどね。何度も意識が無くなりそうになったよ。
そのおかげでぼくはここまでの力を手に入れた。母様とずっと一緒に歩いていける力。
――さあ行こう。この国に悲しみをもたらす者に終焉を。ぼくらの愛しい方の嘆きを癒やす為に。
大きく成長したぼくの体は羽のように軽く感じる。見ればいつの間にか朝日が昇っていて、ぼくたちの誕生を祝福してくれているように感じた。
――
ぼくが戦場までひとっ飛びでやってきたら、敵軍が再びぼくたちの国へと侵攻してきている様子がはっきりと見れた。
あれが、ぼくたちの敵。ぼくたちの母様を悲しませた人たち。
見てみると、二つの軍がぼくの突然の来訪に驚きの顔をして見ていた。
あー、まあそうだよね。だってぼく、大きくなりすぎて昔のフレイアールとは全く違うんだもん。
どうしよう……多分この姿なら声を出せるよね……とりあえず、あいつらに警告しておこうかな。
「聞こえるか? 脆弱なる者共よ。よくも我らが母を頂く国を穢してくれたな。その所業、決して看過することは出来ぬ。その犯した大罪に、後悔に塗れながら、死に急ぐがいい」
――あれ!? なんかすごいこと言ってる!? というかものすごく尊大ででかい態度……渋い男の人の声が響き渡るように聞こえる。
ま、まあいいや……ぼくが怒ってることが伝わってれば大丈夫大丈夫。
そう、ぼくは怒ってる。母様が一生懸命国を良くしようと渡り歩いているのに……横から大切なものを掠め盗るような真似をするなんて、許せるはずない!
「聞け! 我らが同胞よ! 知るがいい。我らが母の嘆きを。我らが母の怒りを!
我らが世界の母を簒奪すべく現れし、全ての者達に、母が受けた痛みを今こそ我が与えよう。
故に、今しばらくその身を休めよ。我が同胞よ。汝らの痛み、無念、憎しみを、我が晴らそう!」
ぼくが彼らを倒すから君たちはそこで休んでて欲しいって言いたかったんだけど……なんでこんな事言ってるんだろう?
ま、まあいいや。今は気にしてる場合じゃないよね。
ぼくは敵対してる軍の方に意識を集中させる。魔力をいくつも反射させ、増幅させ……圧縮する。
口を開けると、ぼくの魔力が口先で暴れまわって、どんどん力を増していく。
遠目に彼らが逃げるように見えるけど……そんなこと、絶対させない。ここでぼくがこいつらを倒す。
「カアアアァァァァァァ……ゴアアアァァァァァァァ!!」
容赦なく飛んでいく
周囲は赤く、中心は白いそれはあらゆる熱量を秘めた眩い炎。
それが直撃した瞬間、敵軍はほとんど焼き払われてしまった。
轟音。爆発と共に響き渡るほどの地面が震える衝撃。煙のようなものが周囲を漂って……視界がひらけたその時、敵軍がいた場所はなんだか結晶化して綺麗な様子だった。
見ると敵軍の方は武器を捨てて両手を挙げているようだけど……そんなこと、許すと思ってるのかな?
勝手にこっちに攻めてきてぼくたちの国を傷つけて……それでやられそうになったら降参? そんなこと、本当に許されると思ってるのかな?
僕は再度
何度も響き渡る轟音が辺りを支配して、大地の結晶化が辺り一面いっぱいに広がって……。
わー、すごく綺麗だなー……ぼく、絶対怒られるよね。
これ、絶対ダメなやつだよー……。
「……我が裁き、脆弱な者共には過ぎた代物であったか」
ちょ! 今ついつい言葉が出ちゃったけど、全然違う!
下の方を見てみると、呆然としてる様子だったけど、しばらくしてから歓声が響き渡った……ような気がした。
ちょっと魔力を込めただけでこの威力。ぼくも想定外の一撃が出てしまったみたいだけど……それでもみんなが喜んでくれて、本当に良かった。
……後は母様が起きてくれれば、あー、でも起きたら絶対怒られるよね。
出来ればもう少し寝ててほしいなぁ……。
なんて、そんな最低なことを思いながら、ぼくは空を見上げた。
燦々と照りつける太陽。今ならすっごく近くに見える。
ぼくの太陽……月よりもずっと傍にいて、これからも貴女のこと、守っていくね。
とりあえず帰ろう。ぼくの帰るべき場所に。
――ところで、この体、元に戻るかな?
こんな大きい体じゃ、館の中に入れないよぅ……。
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