165・還ってきたのは殺意の花
――リカルデ視点――
「リカルデさん、大変っす! こちら側の味方が一斉に裏切ってこっちを襲い始めたっす!」
「裏切り……?」
そんなバカな……。
私は一人一人に密接に接した覚えはありませんが、少なくとも裏切るような兵士達がいるとは思えません。
……これは、何かの謀略の予感がしますね。
「はいっす。現在軍は大混乱。先行したカヅキさんは戦場の中央で釘付けにされてしまい、こちらに戻ってくるのは今は無理っす」
初手で敵に痛手を負わせつつ、こちら側は防御しながら被害を少なくする作戦でしたが、こうなってしまってはもはやどうしようもありません。
「裏切ったと思しき兵士達は?」
「オークを中心にゴブリン、獣人族の兵士達がいるっすね。特にオークは魔人・ゴブリン達に執拗に攻撃を加えており、互いに相当睨み合っているっす」
オーク族……エルガルムとの戦争の一件で、ゴブリン族や魔人族と溝が深かった種族でしたね。
こうなってしまって連携をしろ、協力しろとは言えません。
こちらの弱みを突いたかのような作戦。
そういえばお嬢様から悪魔族の『
「仕方ありません。こちら側に攻撃を加えている兵士たちは悪魔族の可能性が高いです。それを伝達し、数人で無効化することに尽力してください。
最悪……殺してしまわなければならないでしょう」
「……大丈夫っすか? それはかなりリスクが高いと思うんっすけど」
大丈夫なわけがないでしょう。
こちらを襲っている彼らは、『
であるならば、武器を取り上げ、締め上げる。それが出来なければ……殺すしかないでしょう。
例えそれが後々不信感を募らせる結果になったとしても。
「私が全責任を負います。今一番大切なのは被害を少なくすることです。損失を抑え、お嬢様のお帰りを待つ……その一点でしょう」
カヅキさんがセントラルの覚醒魔王級の強さを持っているとはいえ、あの方は対軍戦では常時本気で戦わなければ無理だと私に忠告されていました。
彼女の持つ『
一度手に取り、じっくりと愛でてみたいものですが……それはこの場を乗り切ってからです。
何万といる軍隊に、常に本気で当たっていれば、やがて消耗しすぎて動けなくなることは明白。
完全に敵軍を押し込むにはこちら側に手が少なすぎます。
私・ケットシー・フェンルウ・ウルフェン・フラフはあくまで兵士たちよりも強いだけであり、覚醒魔王並の強さのものとやり合えるほど強くありませんし、殲滅力もさほど高くありません。
「やはりそれしか手はないっすか……」
「悪魔族の可能性もありますが、わからない以上、現在こちら側に攻勢を仕掛けている兵士たちには全員同じ対応を取るしかないでしょう」
「かしこまりましたっす」
フェンルウとそのように話していると、急に戦場の中央で激しい爆音が轟き、風(雷)が吹き荒れているように見えます。
どうやら事態に気付いたカヅキさんがこちら側に帰還すべく全力で戦いに転じたのでしょう。
少しの間フェンルウはぽかんとした表情で向こうを見ていましたが、気付いた彼は慌てて私の命令通り、襲撃している味方兵を捕縛するために向かってくれました。
未だに騒動は続くでしょうが、ひとまず私がすべきことは……種族混成部隊の解消しかありません。
この状況で異種族と協力する……なんていうことはまず不可能。
裏切り者を抑えたとしてもまた裏切るのではないか? という疑念がつきまとうでしょう。
となれば……オーク族は彼らだけで。ゴブリン族は彼らだけでまとまった方がいいというものです。
今は一人一人に状況を説明している場合ではないのですから。
悪魔族というものはつくづく厄介な種族です。
このように記憶毎姿形を変えてしまえるのでしたら、どんな策略もし放題。こうやって場を混乱させることも、人知れず国の情報が敵国に渡っているといった状況にもなっているというわけです。
「な……あな――がああぁぁぁぁ――!」
……恐らくこちらの方でも同胞からの襲撃を受けたのでしょう。
仕方ありません。こちらは私が対処するほうが良いでしょう。少なくとも彼らよりは私の方が戦えるでしょうから。
いざとなればフェンルウに戦いを引き継ぐことも出来ますし、私はどうしても指揮官としては頼りない部分がありますから……。
そう判断した私は、騒ぎが起きている方に向かったのですが……やけに騒ぎ声が気になります。
近づいていくごとに「信じられない」や「なぜ貴方様がここに」という言葉と共に悲鳴が上がるのが聞こえてきます。
一体なにが起こっているのでしょうか……。とてもではないですが、ただの仲間が裏切っただけではまず聞けない声です。
徐々に近づいていくと、段々と異様な光景が見えて来ました。
そう――この時はっきりとわかったのです。
私がなぜ、今日の空の事が気になったのか……。
あんなに晴れ渡っていたはずの空が、今や雨が溢れてきそうなほどの暗雲に。
――それはあの時の再現。深く黒く覆った雲。まるで世界全体がその出来事に泣いているかのように、涙が零れ落ちるように降り注ぐ雨。
悪魔族。エルガルムとの戦い。『
――ああ、全て繋がりました。彼らの狙いも。そして……この戦いの
目の前のお方は私に背を向け、今また一人の魔人族を斬り殺してしまい、続けざまにゴブリン族の兵士を始末してしまいました。
……やがてこちらの方に身体が向いて、彼の方は私を見つけ、あの時のように微笑みかけてくださいました。
遠い昔に見た。懐かしい思い出とともに残された笑顔を。
……それが私にはとても辛い。どうしようもなく胸を締め付け、呼吸を苦しくしてしまいます。
それほどまでに私――いや、お嬢様にとってかけがえのない人物。
「久しぶりだな。リカルデ」
「……お久しゅうございます。クレリス様」
そこにいらっしゃったのは、かつて私が主と崇めた我らが魔王。
ティファリスお嬢様のお父上にしてリーティアスの先代魔王……クレリス・リーティアス様御本人の姿でした。
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