159・悪魔の謀略
「お前ら! 一体どういうつもりだ!」
俺の方に攻撃をしかけてきた獣人は何も言わず……いや、ニヤニヤと馬鹿にするかのように笑ってこっちを見ている。
幸いこっちも剣を持ってきていたとはいえ、たかだか数人……しかもこいつらは明らかに町民姿――戦いを嗜むような服装をしていない。
その姿に似合わない身のこなしに、ギラギラとした目がより一層不気味に感じる。
大剣を振りかざしてみるものの、ギリギリのところをかわしてきやがる。
その隙をついてくるかのように短剣で攻撃してくるところなど、明らかに戦い慣れしていて、こいつらは――。
「お前ら、悪魔族だな? 『
そう指摘した瞬間、含みのある笑い声が聞こえてきた。
まるでそれが正解だとでも言うかのように。
「だったらどうする?」
俺を見据えるかのように笑う男の一人からそう問をしてきた。
だったらどうするかだと? そんなもの決まってるだろうが……。
「何考えてるのか知らないが、ここでお前らをぶっ潰してやる!」
「はっ、そんなこと悠長にしてる場合かよ」
全く状況が飲み込めてないなと言わんばかりに小馬鹿にした目で俺の方を見ているが、一体何を言ってるんだ?
そういえばこいつら、二手に別れていた。ここで俺と対峙する奴らと……たしか門の方に向かう……。
まさかこいつら……!
「お前ら……門を開こうとしてるのか!?」
「今更気付いたっておせぇよ!」
くそっ! 最初からこのつもりだったのか!
だから中途半端な攻城戦しかしてこなかったし、夜は安全だというイメージを植え付けていたってわけか!
「くっ……邪魔だ! どけぇ!」
『
こうなりゃ……多少強引でも無理やり押し入って、一気に奴らのところまで踏み込むだけだ!
俺の気迫に押されたのか、若干怯んでる隙を突いて首を掴んで思いっきり爪を立ててやる。
獣人族の爪は鋭い。ちょっとした刃物のようなものだ。大剣を使ってじっくり相手をしてやる時間がない以上、奴らの攻撃を受け止め、首を掴んで締め上げた方が確実というもんだ。
「ぐぅ……あ、あがぁ……」
「『ファイアランス』!」
一人をそうやって攻略している間に、向かってきたもう一人の男には最近特訓のおかげで威力が上がった魔法をお見舞いしてやる。
昔は槍っていうより棒みたいな形状だったが、今では立派に炎の槍といった様子だ。
それがちょうど胸の部分にぶっ刺さり、その男の方は息の根を止めたようで、首を絞めあげていた方の男も、息ができなくなり、その活動を完全に停止させる。
残ったものの内、一人はこの場に留まって引き続き俺の足止め。他のは全員、城門の方に行ってしまったようだ。
「悪いがここは通さ――」
「邪魔だぁぁぁぁ! どけええぇぇぇぇぇ!!」
ここであまり魔力を消費するわけにはいかないが、それ以上に手間取って最悪の事態は避けたい。
そう判断した俺は、男と刃を合わせた瞬間、思いっきりその獲物を弾き飛ばし、『クイック』で動作を短縮。隙を与えず一刀両断にしてしまった。
なんとか手早く片付けることには成功したが、こうしてはいられないと俺は奴らを追うように城門の方に走っていくのだった――。
――
結論から言うと、全てが遅かった。
城門は開け放たれ、敵軍がなだれ込んでいるのが見えたのだ。
今は辛うじて入ってきたばかりと行った様子だが、このままでは手がつけられなくなってしまうだろう。
兵士たちがなんとか抑えようとしているみたいだが、いかんせん数と地力が違いすぎる。
万が一侵入された時の為に城門の方に土を重ねてちょっとした壁の様なものを築いていたのが功を奏したらしい。
大きな盾を持って進軍してくる兵士たちに向かい、魔法を次々と放つ光景が見える。
よくよく見てみると、向こうの軍には先程の獣人族の男達が混じっているように見えた。
やはり……奴ら全員向こうの手の者だったか。
不安はあった。疑問もあった。
しかし防ぐことが出来なかった……。その思いが俺に後悔をもたらす。
もっとこの感情に従っていれば上手くやれたはずだ。事前に門の警備を手厚くし、悪魔族の存在を注意することが出来たはずだ。
――馬鹿か俺は!? 今やることはそんなことじゃないだろう!?
激しい後悔の念に囚われながらも、なんとか現実に戻ってこれたのは、皮肉にも魔法による爆発音のおかげだった。
こんな事をしている場合ではないと俺は応戦している兵士たちと合流し、戦況を確認する。
兵士たちも俺の姿を見つけたのか、絶望しかけていたその表情から、かすかに希望の色を確認することが出来た。
「魔王様!」
「戦況は!?」
「はい! 今は死傷者が数名。重傷者が数名出ております!」
ビシッと敬礼して今の状況を報告してくれているが、すでに死人が出始めていたか……。
それでもこの程度で済んだのは何人か俺のように警戒してくれた者がいて助かったといったところか。
「よし、ここは俺が引き継ぐ! ルブリスとティブラを叩き起こしてこい!」
「し、しかし……」
「何度も言わせるな! 今状況はかなりまずい。二人には至急兵士たちを招集し、ここの守りに就くように伝えろ! 早く行け!」
「は、はい!」
今命令した男も合わせてあと二人ほど城の連中をここに呼び寄せる指示をだし、俺は一人で城門に押し寄せる兵士達の前に立ちふさがる。
「お前たちは土壁に隠れたながら支援を頼む! 魔力が尽きたものは土壁を守りながら魔法を唱えている兵士達を援護しろ! いいか? 必ずここを保たせるぞ!」
「「「はっ!」」」
……正直、ここで俺は死ぬかも知れないな。
こんな大勢を目の前に、相手をしたことなぞ、今までなかった。
身体が震えてきやがる。握りしめてる大剣がかたかたと鳴り、俺が目の前の軍勢に恐怖している事を明確に教えてくれている。
――当たり前だ。俺はティファリス女王と違う。中央の魔王たちとは違う。全てが中途半端な弱い、弱い魔王だ。
だが……だからといってここで引き下がるつもりは毛頭ない。
この城門を完全に抜けられてしまえば、残るは無防備な城……何の力も持たない民達がいる場所さえ蹂躙されかねない。
そんなことはさせない。それだけは! 絶対にさせない!
「うおおおおおおお!!」
自らに言い聞かせるように思いっきり雄叫びを上げる。
震えがなんだ。恐怖がなんだ。俺は戦える……たとえ弱くとも……戦えるんだ!!
自らを鼓舞し、可能な限り奮い立たせる。俺の後ろには
そう思えば不思議と恐怖が薄らいできた。
「行くぞ! 戦え! 俺達の背後には……この国の全てがかかっている」
「「「おーーーー!!」」」
俺の叫びが、祈りが伝染し、後ろに控えている兵士達にも力を与えてくれているような気がした。
――さあ行こう。ここからが俺達の本当の戦いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます