158・あっけない籠城戦
なんとか敵の軍が来る前にグルムガンドの国民を全て城の中に収容し、門を固く閉じて防御関連の魔法により城全体をより強固にすることが出来た。
やってきたのは籠城が完了して次の日。後一日でも送れていたら間違いなく国民の間にも被害が出ていただろう。
ホッと胸を撫で下ろす反面、これからが辛いことになるだろうという不安感から胸が押しつぶされそうになってしまった。
ひとまず、食料の方は全て配給制にしており、食料の管理は俺が本当に信頼を置いている連中に任せることにした。
食料庫の鍵を握ってるってことは、俺も含めた国民全ての食料を――生命を握っていると言っても過言じゃないからな。
ルブリスやティブラからは主要人物は配給制から外した方が良いという進言があったが、俺はそれを聞き入れることはなかった。
最初の方はそれでもいいだろう。だが、いつまで続くかわからない籠城戦を強いられている以上、食料がなくなる可能性を考えておくべきだ。
そりゃ一ヶ月二ヶ月程度なら保たせられる程あるし、そんなに長引くことがないとはわかっている。
しかし、何が巡って食料が尽きるかはわからない。侵入者が燃やしてしまうことも十分に考えられる。
そんな時はまず確実に俺達がやり玉に挙げられるだろう。俺達がもっと食べるのを自粛していればもたせられたかも知れない……。
そんな暴動に繋がる目は出来るだけ潰しておきたかったのだ。
そしていざ迎えた籠城戦初日。
向こうは何を思っているのかは知らないが、周囲から激しい爆発音が聞こえ、地響きがするほどだ。
恐らく……家をこわしているのだろう。こちら側の不安感を煽る作戦だろうが、そうはいかない。
「ビアティグ王……」
「不安がるな。こちら側に来るには、どうしても門を越え無くてはならない。あまり派手な魔法は魔力を消耗するだけだ。それで打ち崩せなかった時の疲労感は尋常ではない。敵の方も使っては来ないだろう。
安心しろ……とは言わないが、適度に緊張感を持って事態に備えろ」
兵士側から不安そうにこちらを見る視線を感じる。
……が、ここで兵士たちがそんな顔をしていれば国民の方にも伝染するというものだ。
ひとまず鼓舞をしてはやるが、これ以上言葉をかけても仕方ないだろう。
……本来であるならば他国からの援軍でも何でも良い。後詰めがいると信じられるからこそできる籠城戦だ。
少なくとも今回のように援軍が来ない可能性のほうが低い状態でするものではない。
結局、そういうことが兵士たちの士気の低さにも影響しているのだろう。
「王、敵がやってきたぞ」
「よし、全員配置につけ。一歩たりともこの城に踏み込ませるな!」
魔法による門の破壊に加え、何らかの手段で門を越えてくるだろう。
一部の兵士たちは門を守るために魔法を強化させ、残りの兵士たちは門を乗り越えてくる敵に対し、魔法を撃って迎撃を行うといったやり方で敵を城に入れることを徹底的防いでいく。
「「「『ファイアランス!!』」」」
出現した炎の槍が一斉に登って来ようとしている敵軍に襲いかかっている様子が確認できるが……今のところはいい感じで攻撃を抑えることが出来ている。
……そう、正直開戦直後だからとかそういう事を言い訳にしておいても上手く抑えることが出来すぎているような気がする。
いや、俺が疑いすぎているからかもしれない。
何しろ『隷属の腕輪』で操られていた期間は本当に恐ろしいものがあったからだ。
信頼していた部下に裏切られ、抗いがたい虚無感に蝕まれていくあの感覚……。
精神が、思考が鈍り、全てが曖昧になっていく……自分の全てが消えていく感覚。
あれほど恐ろしいものを、俺は知らない。
今でも身体が、心がそれを覚えている。だからなのかもしれない……最悪の事態をついつい考えてしまうようになってしまったのは。
その俺の心が叫んでいる。何かがおかしい、と。
そう、本当ならもっと必死にならなければ対応出来ないはずだ。こっちが魔法を使ってくるのは向こうも承知しているはず。
上位魔王の軍の者であれば、こちら側の兵士を撃ち落としていくということは平気でやりかねないはずだ。
だが……。
「王、敵が後退していったぞ」
「ああ……」
そう、結果は特に何も起こらず、こちらには被害も何もなく、向こうはすごすごと引き下がっていった。
ルブリスの方もなんとかしのぎきった達成感というものを感じているような気がする。
……だめだ。考えすぎるというのもあまり良くないだろう。
5000人を半分に割って2500人ずつで攻城戦を行っていると考えれば夜も十分に有り得るだろう。
攻城戦とは籠城している兵士たちを休ませないというのが鍵だ。常に相手にプレッシャーを与え続け、身体と精神を共に疲労させ続ける――そうやって追い詰めていくのが本来のあるべき姿だ。
倍以上の数で押す……ということが出来ない以上そうやって追い詰めるのが一番のはずだ。
だが……明らかに今こちらに来ている全軍で事にあたっているように見えるのだと報告も上がってきている。
逆にそれが余計に不安を煽るのだ。俺は何かを見過ごしている……そんな気がしてならないのだ。
こういう時、ティファリス女王ならどうしていただろう?
……いや、彼女なら間違いなくどんな策を講じられてもなんとかしてきただろう。あの方にはそれだけの力があるし、行動力もある。
なら、それがない俺には……一体どうしたらいいのだろうか?
――
それから三日。何事もなく過ぎていったことに対し、俺はなおさら不信感を募らせていった。
まるでお決まりのように昼ほどから夕方まで攻めてきて、夜は一切なにもない。静かすぎて一層不気味さが際立つほどだ。
そして初日から夜は何もなかったということもあってか、この時間になると兵士たちに妙な安心感が生まれつつ有る。
緊張感がほぐれてきているというか……後は配給を受けて見回りするだけ、という空気になりつつあることに危惧しているのは……恐らく今は俺だけだろう。
「ビアティグさまー、どうしたのー?」
「ティブラか……どうも向こうの攻めが甘いと思ってな」
「んー……考えすぎなんじゃないかなー?
ここはあちら側にとってもさして重要な場所じゃないと思うしねー」
くああ……とあくびをしながらのんびり歩いていっているティブラは全然気にしていない風だったが、確かにティブラの言うことも一理ある。
補給路として選ぶとしても、メリットの薄いここを抑えることに意味を見いだせないだろう。
フェアシュリーを抑えるか……本隊がすでに南西地域内に入り込んでいるとすれば拠点もすでに作られているはずだ。
なおさらここを攻める理由は薄いだろう。
頭の中ではわかっているのに、どうしてもそれを拭うことができない。
結局悶々とした状態でどうにも寝付けなかった俺は、ふと門のところに足を向けることにした。
門の周辺では兵士たちが見回っており、何処にも異常がないように感じた。
……のだが、ふと入口付近の闇の中で何かがうごめくのが見えた気がしたのだ。
「……そこに誰かいるのか?」
俺の言葉に何の反応をみせない。
まるでひっそりと息を潜め、こちらが去っていくのを待っているようにも感じる。
不審に思い、門の方に近づいていくと……観念したのか、暗闇から、数人の男が姿を見せた。
皆一様に獣人族のようなのだが、俺を見る目がはっきりと殺気立っているのが見て取れる。
「お前ら……一体そこで何をしている!」
俺のその言葉を全く無視して、俺に突如攻撃を仕掛けてきた。
――なにがなんだかわからんが、やるというのなら容赦はしない。
グッと体に力を込め、彼ら襲撃者の方に意識を集中させるのであった。
――それが悪手であったことに気付いたのは、その後すぐのことだった。
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