間話・貴方の為に、この身はある
――カッフェー視点――
「はぁ……困ったことになったにゃー」
フェーシャ様がケルトシルに戻ってからも相次いで色々とトラブルに巻き込まれたように思えたこの南西地域が、やっと落ち着いたかのように思えたんですけどにゃー……。
どうやらそれは気のせいらしかったにゃー。
「カッフェー、どうしたんにゃ?」
「レディクア」
ちょうど今は家の中。仕事も終わって……いや、唐突にもたらされた一報だけ抱えて戻ってきたというわけにゃー。
本当は公私混同はしない……プライベートな時間は大切にしていきたい主義なんだけどにゃー……。
なにせ事が事だけに、そうも言っていられなくなったのにゃー。
「これを見てからにゃー。こいつを、どう思うにゃー?」
「どれどれ……。これは……!」
やっぱり驚きの表情を浮かべるのかにゃー……。
それは、もうすぐここが戦場になるかもしれないという通達。相手は上位魔王である可能性が高いこと。
そして……もしかしたらフェーシャさまには、辛い思いをさせるかもしれない、ということにゃー。
もちろん、それはレディクアも同じにゃー。
彼女と出会って、一緒になって……願わくば、そのまま幸せに過ごしていきたい――そう思って止まないのに、現実は本当に残酷だにゃー。
「……戦争になるんかにゃ。それで、フェーシャさまは何て言ってるんにゃ?」
「あの方はこの書類に書いてある忠告通り、自国の専守防衛に努めることにしたにゃー。上位魔王がどう攻めてくるかわからない以上、下手に集結したところでなんの意味もないにゃー。
ましてや、リーティアスは今ようやくまとまったばかりだにゃー。他の国との共同防衛なんて出来るわけがないのにゃー」
ぼくの言葉にレディクアは納得してくれるように頷いてくれたにゃー。
正直……リーティアス本国からこういう風に言ってくれたのはありがたく思ったのにゃー。
これはぼくたち側がそういう風なことを言ってしまえば、戦争終了後に非難轟々。下手をすれば国を取り上げられてもおかしくない自体になっていたかもしれないにゃー。
これがリーティアス側から言ってくれているのであれば、そういう心配も必要ないのにゃー。
ここの所、本当に良い采配をしてくれたと思うのにゃー。
それよりも……これから起こる可能性について話し合ったほうが良いかもしれないにゃー。
レディクアも同じ気持ちだったようで、真っ先に聞いてくれたのは、この国が現在抱える問題についてだったにゃー。
「それで……カッフェーは密偵の件、どう思うんにゃ? あれがもし上位魔王の差し向けたものだったとしたら……」
「間違いなく、ここで行動を起こすだろうにゃー」
仮にこの国に未だ他の国の密偵がいたとして、ここが戦場になるであろうという情報を受け取っていないということはまずないと思うのにゃー。
となれば彼らがすることは……妨害か脱出か……どちらかになるだろうにゃー。
「これが悪魔族の策略であるなら、取ってくるのは妨害一択だろうにゃー」
「記憶すらも再現させるという『
本当にそのとおりだと思うのにゃー。
これに対してぼくたちはなんの打つ手もないのが現状なのにゃー。
「ぼくたちはいつも通りに振る舞うしか現状手がないのにゃー。
悪魔族が潜んでいるのかいないのかわからないなら、せめて覚悟を決める。自分なりの対処法を決めておくのが一番なのにゃー」
悪魔族という存在は、あるだけで国全体を疑心暗鬼にさせるにゃー。
随分と厄介な種族がいたもんだにゃー。
下手に動いたら悪魔族側の思い通りになってしまいかねないにゃー。
「それともう一つ。いや、二つかんにゃ。
エシカとファガトのことなんにゃ」
「……まだあの二人のことを調べてたのかにゃー。
ぼく、彼らには極力触れないように言ったはずなのにゃー」
レディクアが鋭く目を細めるからなんだと思ったら……やっぱりあのエシカとファガトの事だったのにゃー。
彼らはぼく・レディクア・ネアの後に加入した
結構自分勝手な面も多くて、フェーシャさまに面倒を掛ける部分も多いのにゃー。
思えばフェーシャさまが戻ってこられるのにも反対していたし、あの二人はどうにもきな臭いのにゃー。
……それでも手を出せなかったのは、ぼくたちの情報部隊が壊滅させられたのが原因なんだけどにゃー。
「そうは言っても、気になるのは気になるんにゃ。
大丈夫なんにゃ。見張らせてるだけで、ほとんどなにもしてないんにゃ」
「……なら、いいけどにゃー」
出来ればレディクアには危ない橋を渡って欲しくないのにゃー。
子どももまだ小さい上に、レディクアはぼくの大切な奥さんなのにゃー。
そんな人に、ぼくは生命の賭してまでなにかをする……なんてやって欲しくはないのにゃー。
「……大丈夫なんにゃ。カッフェーが心配にしてそうなことなんてしてないんにゃ」
まるでそれは、ぼくの考えを見透かしてるかのような言葉だったのにゃー。
ついでにぼくの隣に寄り添ってくれて……本当に相変わらず可愛いのにゃー。
ま、まあそれは当然かも知れないのにゃー。それなりに連れ添った仲だからにゃー。
「それよりも、私はあなたのことの方が心配なんにゃ。だって……」
「それ以上は言ってはいけないのにゃー」
レディクアがぼくの事を心配そうに見つめながらなにか言いたそうにしていたけど、ぼくはそれを遮ってしまったのにゃー。
彼女の言いたいこと、伝えたいことはぼくの心の中にダイレクトに伝わってくるのにゃー。
それはぼくとフェーシャさまだけが関わる秘密。レディクアと……ぼくたちだけが知る秘密なのにゃー。
今は誰がどこでなにを聞いてるかわかったものじゃないのにゃー。
だったら、ぼくたちの秘密は、例え自分の家の中でも口に出すことはしちゃいけないことなのにゃー。
「……わかったんにゃ。でも、私はいつだってカッフェーのこと、大切に思ってるんにゃ。だから、危ない真似をして欲しくないっていうのは私も同じ気持ちだってこと……それだけはわかって欲しいのんにゃ」
その真摯な目に、思わずちょっと押されてしまったのにゃー。
だけど、レディクアの思い、ひしひしと伝わってくるのにゃー。
「ありがとう。ぼくも無茶はしないのにゃー」
ぼくは笑ってレディクアの艷やかな毛並みをそっと撫で付けると、彼女は嬉しそうに目を細めてくれたのにゃー。
――
レディクアも寝室に入って、ぼくは唯一人、書斎の椅子に腰掛けてたのにゃー。
のんびりとリーティアスから仕入れたお酒をちびりちびりと飲んで、静かに時間を過ごしていたのにゃー。
考えることは色々とあるのにゃー……これから起こるであろう戦争。それに関与してくるであろう上位魔王……それと、ぼくとフェーシャさまの関係……。
レディクアにはああ言ったけど、多分、そんな悠長なことは言ってられないのにゃー。
どうにも胸中の不安感が拭えないのはきっと、どこか予感がしたからかもしれないにゃー。
もしかしたら……ぼくは……。
「にゃは、不安になるのはいけないことなのにゃー。それに、ぼくはもう覚悟を決めたはずなのにゃー」
そう、ぼくは……ぼくはフェーシャさまの臣下として、なすべきことをなすだけですにゃー。
それが例え、生命を犠牲にすることになろうとも……。
あの日、リーティアスにおかしくなったフェーシャさまを引き渡すという苦渋の決断をしたあの時より、その方がもっとラクなのにゃー。
ぼくは、ケルトシルの――フェーシャさまの為にここにいるんだからにゃー。
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