第4章・南西地域の騒動と平穏

94・魔王様、宴に招待される

 闘技場で決闘というか……死闘を繰り広げて三日後、ゆっくり休養をとった私達は再び王の間にてセツキと相対していた。

 セツキ・カザキリと私・アシュルといういつものメンバーだ。


「おう、疲れはすっかり癒えたようだな」

「おかげさまでね。それで、今度は何の用? 決闘の勝敗もついたことだし、ササッと同盟を結んでリーティアスに帰りたいんだけど」


 もう随分放置していたわけだし、そろそろ本腰を入れて国の運営をしなければならないと考えていたところだ。

 この世界では、敵を求めてさまよい歩く魔王を家臣たちが支えていたとかいう作り話があったりもするんだけど……このままでは私がそれに当てはめられてしまう。

 ちなみに複数話が作られていて、読み応えもある。下手をすれば一日中読みふけっていたとかいう者もいるとか。


 というわけで、そんな風に後世に語り継がれたくはない私は、一度リーティアスに帰りたい。そしてミトリ亭の料理を久しぶりに思う存分味わいたい。

 ミットラに渡したい調味料もいっぱいあるし、今彼は元気にしてるのだろうか?


 一度国の事を考え始めるとものすごく恋しく感じるものだ。


 私のそういう気配を感じ取ったようで、少々落ち着けと言うかのようにゴホン、と咳払いを一つした後に話し始めた。


「ティファリスはどうやって上位魔王になれるか知っているか?」

「確か決闘するのよね。昔は命懸けの戦いだったわね。

 今は上位魔王が提示した条件を飲む形で行うようだけど」

「その通りだ。一応限度はあるがな。

 遠く飛び地になってんのに国を貰ったりとか、到底なし得ないであろう無理難題を求められても困るからな」


 昔はありがた迷惑だった戦いも、人狼族が発端の決闘のおかげで上位魔王にも旨味が出てきたというわけだ。

 命を懸けた戦いって言っても、勝ったところで何が得られるわけでもなかったそうだし、酷い時は複数人の魔王が攻めてくることもあったとか。


 そのおかげで乱立状態の国の数が大分減った、という歴史があったな。今でも多いほうだとも私は思うが。


「ある程度上限が設けられてるのはわかってるけど……そういうのがある以上、立会人が複数必要になるわよね?」


 私がここで疑問に思ったのはそれだ。セツキが言っていることは本にも書いてあったことだ。

 だけど、それだけしか載っていないからその複数の立会人はどうやって集めるのか、誓約のときのように挑む側の魔王がそれぞれに相応の礼を渡すのだろうか? と悩んでいたわけだ。


「そうだ。立会人となるのはそれ相応の実力を持つ者……必然的に上位魔王に限られてくる。

 そんなもの早々出来るわけ無いだろう?」

「そりゃ他の国にも事情というものがあるし、離せない用事だってあるでしょう」

「だから三年に一回、『夜会』と呼ばれる上位魔王達の集まりを設けている。セントラルのとある国で開かれている」

「『夜会』……」


 初めて聞く単語だ。

 どの本にもそんな情報は載ってなかったから恐らく秘匿にされてる情報なんだろうけど、わざわざ秘密にする必要あったのか?


「上位魔王が一同に留守にする……そんな情報を持ってるのは同じ上位魔王だけだ。

 不意に領地を侵攻する輩がいるとすればそれは――」

「上位魔王の息が掛かったどこかの国、というわけね」

「そういうことだ。特定は出来なくても、目を光らせてるからな、と圧力を掛けることも出来るしな。万が一はっきりと侵略の意思を持った存在が割れた場合、対応もしやすい」

「少なくとも絞り込みはしやすいし、監視しやすいってわけね」

「他にも上位魔王になりたいアピールをする連中を抑えることも出来るしな」


 入り口も狭める事ができる上に、上位魔王同士で監視しやすいというわけだ。

 正に一石二鳥。だから秘密にしているってわけか。

 しかしなんで私の方にそれを伝えてきたん……もしかして。


「私にもそれに参加しろってこと?」

「察しが良いな。で、俺様たち上位魔王はその『夜会』に出席させる魔王を一人選んで招くことが出来る。人数を考えれば最大十人だな。

 ちなみに拒否権はないからな? 上位魔王の連中もこの『夜会』には参加が義務付けられてるからな。

 国の事情や自身が動けない状態ってことなら参加しなくてもいいが……もしそれが嘘だったら……わかるだろう?」


 ……嘘だったら恐らく、というより十中八九他の上位魔王達に制裁されるのだろう。

 下手をしたら嘘つきごと国が消される程度のことを平気でやりかねない。そういう風な意味合いも含めた笑みに見える。


「それはそれは、怖いわね」

「ああ、ちなみに他の魔王たちに『夜会』の事を話した時も同じだからな? お前が今知ったことを……例えばアールガルム辺りの魔王に話したことがバレでもしたら、秘密を守る為に知った連中は全員同じ末路を辿るだろうよ」

「……そこまで徹底する必要あるの? 正直、知ったところで動かない者も中にはいるでしょうに」


 と言ったところでセツキにはやれやれ、全くわかってないなと言いたげに左右に頭を振ってため息ついてきたのが若干イラッときた。


「上位魔王が一斉に国を留守にするんだぞ? これぐらい厳重にでもしないとバカどもが何をしでかすかわかったもんじゃない。

 ……ま、それだけ徹底したって外部に漏れたのが発覚しない限りわからない……。だからそれを知ってる上位魔王達にバレたら覚悟しとけよ? って意味合いもあった……んだが実際それでもやらかしたバカがいてな。

 そいつらみたいな良い例があってか、これについてはフェリベルですら必ず守ってるルールだ」


 だからお前も言うなよ? と笑って言うんだけど、そんな厄介な秘密を私に打ち明けないで欲しい。

 鉄の掟みたいなものを掲げてる組織の一員に入ったような気分にでもさせられてきためまいがしてくる。


「ま、まあわかったわ……喋らなければ良いんでしょう」

「ああ、それ以外にもう二つあるんだが……その一つが『夜会』終了後30日の間は奴隷を他国に持ち込まず、侵略をしないってのが最近できたルールだな」

「……一応聞いておくけど、わざわざそれは決める必要会ったの?」

「ああ、セツオウカに安置されている魔王の死体が強奪されたのは『夜会』直後。正に最初のルール適用外のときに起こったからな。フェリベルの野郎、問い詰めた時は『僕がそれを指示した、という明確な根拠や証拠はあって言ってるの?』だとよ。思い出しただけでイライラしてくる」


 腹立たしげに顔を怒りの表情に歪ませてるセツキを宥めるカザキリ。

 しばらくしてため息をついて落ち着いたところで話を再開させる。


「そういうのが必要っていうのはわかったわ。私がその『夜会』とやらに参加するのは決定事項だということもね。

 それを踏まえていくつか聞きたいんだけど、それはアシュルが知ってもいい話だったの?」


 そこまで厳重に情報規制している割にカザキリも知ってるみたいだし、私が聖黒族の話をしたときのように席を外させるってことはしなかった。

 それはその通りだと一度深く頷いた後、私の疑問について答えてくれた。


「『夜会』ってのは力を誇示する場でもある。必ず契約スライムを連れて行くのがもう一つのルールだ。

 言わば護衛兼ってやつだな」


 護衛をしてもらう必要のある魔王共なのかともツッコミたいところだけど、あくまで建前ってことだろう。

 あまり深く考えてもバカらしくなるだけだ。


「上位魔王の中にはスライムも一人いるそうだけど……その場合はどうなるの?」

「あいつの場合は人型のスライムを連れてくることになっている。戦闘能力の高くて大きくないのがいいらしいからな。

 ちなみに、毎度可愛らしい姿をしたのを連れてきてるからティファリスは気に入られるかもな!」

「な……っ!」


 セツキははっはっはっ、とか笑ってるけど、私にとっては全然笑い事ではない。

 なんでこの男はそういう大事そうなことを笑顔で言うかなぁ……。


 ただでさえアシュルはそういう事に敏感なんだから少し気をつけて欲しい。

 現に驚きの声をあげながら「これは注意しないと……」とか言って気合を入れちゃってるんだからなぁ……。


「はぁ……まあいいわ。それで、いつ頃に開催されるのよ?」

「来年の4の月・クォドラだ。しばらくは身体を休めておけ」


 今が9の月・ファオラだから……まだ大分余裕があるかな。

 それならゆっくり内政をして国の状態を整えられそうだ。


 ……なんて余裕そうに色々考えてたら、今度はカザキリが思い出したかのように声をあげた。


「我が主よ、『夜会』の料理について忘れているでござるよ」

「おお、そうだったな。すっかり忘れてたぜ!」

「……料理?」


 なんだか非常に嫌な予感がする。こう、面倒事が更に増える雰囲気。

 むしろもう確信のようにすら思っていたら、案の定次の言葉にため息が漏れそうになった。


「そうだ。アイテム袋の中は時間が止まってるだろう?

 それを利用して『夜会』の料理を魔王達で持ち寄ってるってわけだ。極普通の料理から珍しい料理だったりな。

 好みなんかが分かれたりするからな。酒だけはその国が揃えてくれるから、安心しろよ!」

「そんなので安心できるわけがないでしょう」


 各国の料理というのは確かに気になるけど、私の方もなにか持ち込まないといけないとは思っても見なかった。

 料理か……一体何を揃えれば良いんだろう?


「適当に揃えたらダメ?」

「別にそれでも構わないが……嫌な奴らにバカにされるのがオチだぞ? その国にしかない特産物なんかと一緒に持ち込むならまた別だがな」

「面倒くさいわねぇ……」


 私の国の……ということはシードーラの肉を使ったなにかだろう。

 他に何も浮かばない。ソウユとかはクルルシェンドの特産物だったし……そこのところはミットラの方に相談してみよう。というかこういう事を相談できる人物を私は他に知らない。


「そう言うな……俺様も面倒くさい。だから適当にセツオウカの国料理で済ませることが多いな!」

「拙者達の国の料理は、他では珍しいそうでござるからな」


 はっはっはっ、とか笑うセツキの姿は本当に気楽そうだ。

 ……呼ばれてしまったものは仕方ない。どうやら『夜会』が始まるまでのしばらくの間も色々と忙しいことになりそうだ。

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