71・魔王様、鬼との問答
まずはどこからどうまで話そうかと考えていたら、どうやら質問する形で説明してもらおうと考えたのか、セツキ王の方から先手を取られた。
「最初から全部説明するとなったら長くなるだろう。流石の俺様も長時間話をジッと聞くのも性に合わねぇ。こっちが質問するのをティファリス女王が答える。こういう形でどうだ?」
「……ええ、私もそんなに長々と話せないし、それでいいわ」
「ならまず最初の一つ。クルルシェンドでシュウラを見つけたっていうのは本当か?」
セツキ王の最初の質問はそこからか。
確かあの時はディアレイとの戦いで割り込んできたんだっけか。
いきなりあんなのが現れてかなり驚いた。
「そうね。鎮獣の森付近でクルルシェンド・元グロアス王国の連合軍と魔王ディアレイと相対してたときのことよ。いきなりシュウラが上から降ってくるような感じで来襲してきたわ。
その時、ディアレイがアロマンズが『死霊の宝珠』を使って操っていると言っていたわね」
「『死霊の宝珠』……なるほど」
セツキ王はどうやら『死霊の宝珠』というものがなにか知っているようだ。
私の方はシュウラのように死んだものを操る物っていうぐらいしかわからないから、その情報は是非とも欲しい。
「セツキ王はなにか知ってるの?」
「ああ、しかもこれは相当なもんだ。ティファリス女王のおかげでいきなりいい情報を掴んだぜ」
どうやらよほど重要なものだったのか相当ご機嫌な様子だ。
ちょっと悪ぶってるような顔をしてる。鬼で結構精悍な顔立ちをしているせいか、まさしく悪者って感じだ。
「ティファリス女王にはわからないだろうがな、『死霊の宝珠』ってのは相当特殊な魔道具なんだよ」
「そうなの?」
セツキ王がご機嫌そうに話してるのけど……特殊ってどう特殊なんだろうか? とか考えていると、いつの間にか頭を上げていたオウキが補足するように説明してくれる。
「『死霊の宝珠』と言われるものは闇属性と光属性の魔法を同時に質の良く透明度の高い魔石に魔力を込めたものを加工して作られるものでござります。魔法の才能があるものでないと失敗すると言われておりますな」
「魔法の才能……ねぇ」
つまり闇属性と光属性……二人の才能ある魔法使いがいて初めて作ることが出来るということか。
更に質の良い魔石と、揃えなければいけないものが多い。
「種族によっては難しいもんだ。同じくらいの魔力の持ち主じゃないと上手くいかない上、ほぼ同等の高い魔力の持ち主で……なんて中々出てこねぇ。魔法の属性には火・水・風・土・光・闇とあるわけだからな」
セツキ王の言う通りだろう。六属性の内、都合よく光と闇だけ、しかも同じくらい高い魔力を持っているなんて私の知ってる種族で考えられるとすれば……妖精族と話に上がったことのあるエルフ族くらいなんじゃないだろうか。
「ですがエルフ族なら魔石の問題さえ解決出来ればかなり敷居は低いでござりますな」
「? エルフ族だけ? 妖精族もいるじゃない」
「はっはっは! 妖精族! ぜってぇねえよ! はっははは!」
私の言葉のなにがツボに入ったのか、大笑いするセツキ王に思わずムッとしてしまう。何もそんなふうに笑うことないだろうに。アシュルの方も微妙に眉をひそめてる。
宥めるように「いやすまないな」とまだ半笑いでこちらを見ている。
「ティファリス女王があんまりおかしなことを言うもんでな。妖精族は闇属性に対する適正が一切無いんだよ。不得意とか使いにくいとかそういったことじゃない。全く使えねぇんだわ。
それにあいつら、種族同士の絆が尋常じゃないぐらい強い上に、妖精族同士でしか扱えない交信魔法もあるそうだからな」
そう言われて私も納得できた。妖精族が闇魔法が使えないのだとしたら、『死霊の宝珠』を作成することはないだろう。
妖精族はエルフ族に虐げられた歴史がある。だったら別の妖精族に頼めばいいとも思うが、セツキ王の言う通り妖精族の間で交信出来るのであれば、すでにフェアシュリーの妖精族とエルフ族間の闘争は他の妖精族にも共有されていることだろう。
必然的に妖精族はありえないということか。
「その点エルフ族だったらその問題も楽勝にクリア。元々魔道具を作るのが得意な連中だ。奴らの中には上位魔王もいるし、質の良い魔石を手に入れられるだけの力くらい持ってるだろう。……それに、だ。この俺様の国に安置されている歴代魔王を持ち出せるやつなんざ限られている」
話しているとイライラしてきたのか少し眉をひそめている。
だけど今聞き捨てならない事を聞いた。安置されてるのが……なんだって?
「今、歴代魔王って言った?」
「ああ、俺様の国では歴代魔王が眠る霊廟が存在する。誇りある鬼族の支配する魔王として君臨した魔王達の唯一安らげる墓所だ。それを一部の小賢しい連中が……ちっ」
「……荒したということ? この防御にも攻撃にも優れた国の魔王たちの墓所を?」
「ああそうだ。思い出しただけでもイライラする!」
「我が主、どうか落ち着きください」
その時の事を思い出したのか段々と激昂しだしたセツキ王を宥めるカザキリとオウキ。
だけどこれは思いもがけず重要なことを聞けた。
セツキ王は
恐らく複数……それもかなりの人数を持ち出されたんじゃないかと考えられる。
「……ちっ、悪いな。俺様もカザキリとオウキを含めた主要な連中を連れて行った時を狙いすましやがってきたから尚更に腹立たしくてな」
「少々この都市の防衛機構を過信しすぎた結果でござりますね」
「ちなみになんでそんなことになったのよ? こういってはなんだけどこの街に攻め入るなんて中々出来ないでしょうに」
主要な者もいなくなって……ってなんでそんな状況になったのかがそもそも疑問だ。
思わずそう尋ねざるを得なくなるほどだった。
「主は他の上位魔王様のところに訪問。拙者と数人が付き添った形でござるな」
「その時拙者はティファリス女王のところに滞在しておりましたな」
なるほど、事が起こったのはちょうどエルガルムと戦争準備を進めている最中だったか。また面倒な時期を狙ったものだ。
おまけにセツキ王は他国に訪問……ちょうど色んな出来事が重なった結果、隙ができたというわけか。
「更に大通り・キョウレイへと続く洞窟の街で暴動が起こったそうで……更にそのまま首都でも暴れまわる者たちまで出てしまい……恐らくその時に狙われたのかと」
「はぁ……あの後責任者はしこたま鍛えてやったからいいが……そのせいで数人の魔王の遺体が行方不明。騒動を起こした種族は魔人に獣人、ドワーフ、リザードマンと多種族な上、全員死にやがってまともに事情も聞けない始末だ。しかも色んな国から集めた奴隷の連中を使ってるからか足も掴めやしない」
はぁーっとため息一つついて、今度は微妙に疲れたような顔をしている。足取りを終えないように徹底されているようだ。
計画的すぎるというか、人をなんだと思っているのか言いたくなる。
「拙者たちも追ってたのでござるが、結局ティファリス様がシュウラ様と出会うまで……具体的には戦争にシュウラ様が投入されるまでどこの手のものがここまで大掛かりなことをしたかわからなかったのでござる」
「なるほどね。また随分厄介な小細工してくれるわね」
私はその時、カッフェーやオーガルを裏で操ってた連中のことを思い出していた。カッフェーのときも確かエルフ族がわざわざやってきたらしいしな。これらが全部キョウレイで騒ぎを起こした国と同一かはわからないけど。
「こんな事すんのはエルフぐらいしかいねぇ。闇属性には隠密系の魔法もある。確定だ」
「だけど具体的な証拠もないのに疑うことは出来ないんじゃ?」
「その通りだ。襲撃者からは何も聞けねぇ、魔王たちの遺体を持ち帰ったという証拠もねぇ。これじゃ何を言っても押し切られるのがオチってことだ」
本当に厄介なことだ。
こっちはある程度確信しているというのに、状況証拠すらないのだから直接訴え出ることも出来ない。
「だが今回の情報のおかげで多少は牽制できるだろう。クルルシェンドの兵士たちも大多数がシュウラの姿を目撃しているだろう。動いてる上にティファリス女王と戦ってる姿を見れば印象も深い。
更にディアレイは闇属性に適正がなかったことも大体の連中ならわかってるだろ。そのアロマンズとかいう南西の魔王に力があるんだったら別だが、死体を操れるほどの能力があったら多少なりとも俺様の耳に入る。考えられる可能性は『死霊の宝珠』ぐらいのもんだ。そしてその肝心の『死霊の宝珠』を作れる種族といえばエルフぐらいしかいねえ。
真っ向から否定されたらそれまでだが、揺さぶりをかけることもできる。そこからボロを出す可能性もあるし、他の死体が回収されればより疑いも濃くなるってな。
少なくともしばらくは奴らも動きづらくなるだろう」
「はぁー……」
正直よくそこまでわかるもんだと感心するほどだ。色々知ってるからこそたどり着けた答えなのかもしれないけど。
「で、これが一番聞きたいことなんだけど……そのエルフ族の国っていうのは?」
私が一番したかった質問はそれだ。
以前も同じような話になったけど、あの時は獣人族を迫害していたエルフ族の国だった。
私にも多少なりとも関わり合いのある種族だし、暗躍している国が多いならなるべく全部知っておきたい。
「ん? あー……まずパンデラってのは知ってるか?」
「ええ、確か獣人族をセントラルから追い出した国よね」
「そうだ。で、その国を実質支配しているのがパーラスタだ。ここは上位魔王のフェリベルが治めてる所だな」
あれ? 私が知ってる情報と微妙に違うような気がする。
確か上位魔王が住んでるセントラルで魔王を――あ。
「……パンデラのクアルは上位魔王じゃないの?」
「あいつはセントラルじゃ普通の魔王だ。大体エルフってのは他種族を見下す傾向が強い奴らが多い。もちろんそういう奴らばっかりじゃねぇけどな」
「パンデラとパーラスタはそうだということ?」
「根本的にはその通りだ。パンデラはエルフ至上主義だが、パーラスタは……あそこはなんつうか、エルフ以外の種族は劣等種族だと思い込んでる連中が多い」
「? それってエルフ至上主義となにか違うの?」
「パーラスタの連中はエルフ以外の種族に『愛』を与えてやるのが当たり前だと思ってる連中が多い。優良種族たるエルフが劣等種共に恵みを与えてやる、といった感覚だ。俺様からしたらヘドがでるような連中だがな」
なるほど……そういえば魔王の遺体を盗まれた時、色んな種族の奴隷を使っていたってさっき言ってたな。
要は彼らは特攻させるという役目を――愛を与えられた奴隷ってことか。
「自分たちの役に立つこと、後は欲のはけ口として使ってるってわけね」
「その通りだ。で、パンデラの方でもティファリス女王みたいな見目麗しい少女なんかは捕まえてパーラスタに売りさばいてやがるな」
「それはまた恐ろしいことね」
……そう言えば私も誘拐されかかったり嫁にされかかったりと色々な目にあったけど、もしやそういう理由でか?
パーラスタってのは想像以上に質の悪い国のみたいだ。
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