46・魔王様、新しい仲間をゲットする?

 なんとかリカルデをなだめることに成功した私は早速別行動を取ることにした。

 リカルデには出来るだけ彼だとわからないようにローブやなにやらで変装してもらってから出発してもらい、私のほうはお昼を過ぎた辺りで行動を開始したのだ。


 予想通り監視している者はリカルデを追っていかず、時間差で出てきた私の方だけについてきているようだ。

 それでも時折だけど私の近くにいるであろう従者のことを探しているかのように、時折視線が外れるような気配を感じる。


「ふふっ、探しても無駄なんだけどね」


 最初から監視の目は全て私に釘付けさせておき、本命であるリカルデには思う存分色々と調べてもらうという寸法だ。

 二人で固まって行動してしまえば、先回りされて知りたいこともわからないなんてことも十分に考えられるからね。


 私の方で適当な情報を掴まされて撹乱されたとしても、リカルデの方が上手くやってくれていればなんの問題もない。

 ま、せいぜい色々楽しみながらこの国を回るとしようか。


 ……とはいっても、このアロマンズとかいう気持ちの悪い魔王のいる首都アグリサイムを見て回るっていうのは嫌だし、まずはこの近隣にあるという貿易都市に歩いて行くことにする。

 本当はラントルオを使いたいんだけど、リカルデもいないし……なにより鳥車にどんな細工を施されてるかわからないしね。

 仮にの話だけど、爆散とかされでもしたら目も当てられない。私が、というよりラントルオが。


 そんなわけでラントルオを引き取りに向かわず、そのまま門に向かったんだけど……


「ティファリス女王! お待ちしとりました!」

「……待ってました」


 なぜか私のことを知っている狐人族の青年と少女が一人ずつ待っていた。

 うち少女の方は銀色のきれいな髪色をしている。青年はちょっと幼顔であること以外はどこにでもいそうな感じだ。

 軽装に長剣を腰に提げてるところから見ると、何かしら戦いに関連する職業に付いてるんだろうけど、私が知る限り、そんなのは傭兵か兵士くらいしかいない。傭兵と関わったこともないし、彼らがどういう人物なのか、見当がつかない。


「……誰?」

「はい! 自分、フォイル言います! アロマンズ王からティファリス女王を護衛するよう仰せつかりました!」

「同じく仰せ、つかりました。フラフ、です」


 ……なるほど、どうやらこの二人は監視の目が行き届かなくなる可能性を考えた見張り、ということだろう。

 それか人身御供として差し出されたかのどちらかか。とりあえず私の言うべきことは――


「チェンジ」

「え、ええ!? そ、それは困ります!」

「こま、る?」

「いや自分に聞かんといて!?」


 私が適当に言った言葉で青年の方のフォイルが困惑気味に、少女のフラフの方はなぜかフォイルに尋ねるという変な構図が出来上がってしまう。私を置いて二人で盛り上がってるんだけど、本当に変えたくなってきた。


「あの、自分ら、ティファリス様に断られたら行き場ないんですけど……」

「冗談よ冗談。どうせ断ってもついてくるんでしょうし、さっさと行くわよ」

「……行くよ、フォイル」

「ちょ、二人共待って!」


 二人がバカなことをしている間にさっさとアグリサイムから出ていくことにした。

 リカルデと離れたと思ったらこんな馬鹿兄妹みたいなのがついてくるとは思わなかった……。護衛と称してなんかしらの監視を着けてくるのわかってたけど、まさかこんなとぼけたのが来るとはね。

 間抜けそうに見えるから本当にアロマンズの手の者か疑問に残りそうだけど、まあしばらくの間はこっちも観察することになるか。






 ――






「あ! そうです!」


 しばらく街道をのんびりと歩いていると、不意に何かを思い出したかのような声をフォイルがあげていた。

 いきなりのその声に私とフラフはともに足を止め、何事かとフォイルの方に顔を向ける。


「急にどうしたのよ?」

「ティファリス女王はラントルオの鳥車に乗ってこられたん違いんます? なんで歩きで出てるんですか?」

「そういえば、そう」

「一々ラントルオで移動する距離じゃないし、私は今は従者とは別行動中で一人。ラントルオを操るなんて出来ないから無理」

「え、それならなんで従者の人と離れたんです?」

「こちらにも色々事情があるのよ」

「そうだよ。フォイルは、無粋」

「え? なんなんこの流れ。自分が悪いん?」


 わたわたと慌てるフォイルなんだが、さっきからこのやり取りばっかりしているような気がする。この二人、本当に兵士なんだろうか?

 さっきからふざけてるようにしか見えない。


「ま、まあいいです。それでティファリス女王が向かいますのは貿易都市のトーレンに行くつもりですか?」

「そうね。私、鎮獣の森って場所の位置すら知らないし、霊獣の特徴・行動そんなものも一切教えてもらってないのよ? 戦うにしてもなんにしても情報は必要でしょう」


 本当は霊獣と戦うのに情報なんてものは全く必要ないし、私は言葉で理解するよりも実戦で経験したほうが感覚的にわかりやすい。

 そういうわけで必要なのはもっと別のものだけど、それはリカルデに集めてもらう予定になってる。

 こっちは気楽に構えて、いつもどおりに振る舞っておけばいい。


「あたし、ちょっと知ってる。霊獣、幻見せる」

「幻?」

「うん、幻。魔物とか、霊獣本体とか、色々」

「へー、なんで知ってるの?」

「昔、聞いた。見たことはないから、これ以上はわからない」


 実像と虚像を交えた戦い方をするわけか……もちろんそれだけじゃないんだろうけど。

 それにしても意外なところから情報がでてきた。他のことは出てこなかったのは残念だけど、最初から期待してなかったところから出てきた、ということだけでも収穫だろう。


「ありがとう。フラフのおかげで少し霊獣のことを知ることが出来たわ」

「えへへ……」


 フラフの頭を優しく撫でてあげると、顔がふにゃふにゃと崩れていってるのがわかる。それをフォイルがどこか羨ましそうな目で私達の様子を見つめている。

 なんて欲望に忠実そうな顔してるんだろうかこの男は。


「ティファリスさま。ぽかぽかして、気持ちがいい」

「そう? なら良かった」

「フ、フラフ、そんなに気持ちいいのか?」

「ふっ……フォイルも、頑張れ」

「くっ……」


 ぐむむ、とか本当に口に出して物欲しそうに見ているけど、あんまりかわいくないからやめて欲しい。

 ちなみにその間も勝ち誇ったような様子のフラフは、素晴らしいご褒美をもらってるかのように心地よさそうにしていた。


 道中はこんな感じでバカなことやってた私達だったけど、さすがに昼も遅くに出発したせいもあって、今日はこの街道で野宿することになった。

 一夜を明かす、ということでフォイルは早速と言わんばかりに見張り当番を決めようと言い出してくるけど、どうやら彼の頭の中で私は候補として外れているらしい。最初からフラフと二人で話し合うようにしている。


「野宿、当番どうする?」

「自分とフラフで交互に見張ればいいでしょ。自分先するからフラフは休んどいて大丈夫よ」

「わかった。それじゃ、フォイルが朝までよろしく。

 あたしは、寝る」

「任せー……って自分一人で朝まで見張りとか出来るわけ無いやろ!」

「……賑やかなのはいいけど、食事はどうするのよ?」


 最初から私は除外するつもりで話を進めてくれたのは良いけど、見張りなんぞより私にとって死活問題なのはそこだ。

 私のアイテム袋には常に新鮮な食料、調理器具が揃っている。一応携帯食も準備しているけど、出来るだけ使いたくない。


 ……以前、アシュルと一緒にアールガルムに行った時は、村が近くにあったりした。リカルデが同行してくれてた時は、彼が料理やらなにやらこなしてくれていた。

 そして問題は今。ここの二人が料理を出来るのかどうか私は知らないということ。


「食事、簡単なの」


 そう言ってフラフが懐から取り出したのは保存に長けた乾パンと干し肉。水は魔法で出せるということを仮定してのことだろう。

 乾パンは一応見たことはあるけど、あまり常用されていない。南西地域の方では小麦を使うなら別のことに使ったほうがいいからね。あれは恐らくセントラル産だろう。


「食べ物ならほら、これがありますよ」


 対してフォイルが取り出したのは黒パンと干し肉。パンの方は歯で噛み切れるようにそれなりの厚さで切られている。

 どっちも大量生産を目的として作られているのはひと目で分かるし、味の予想も大体つく……というか黒パンの方は私のアイテム袋にも普通に入ってる。

 以前必要だろうと思って入れておいたものがそのまま入っていたのだ。

 もっとも、私のは丁寧に作られていて小麦の味わいがなんとも言えない一品に仕上がってるんだけど。


「……料理は作れないの?」

「「作れないです」」

「……はぁ、これはちょっと失敗したわね」


 私一人であれば最悪適当に自分で作ったものを食べればいいだろう。正直自分で作ったものはあまり美味しくはないけど、それでも保存食よりはいくらかマシだ。

 だけどこの二人がいては勝手に料理を作るなんてことをするわけにはいかない。


 そもそも女王が料理するなんて考えが間違えていると言えるだろうし、自分が美味しくないと思うのと相手が思うのとではまた別だ。

 会って間もないこの子たちに言われてしまったら、と思うとなぁー……。


「あの、そもそも街道付近で行う野宿で、料理なんて中々しない思うんですけど」

「この辺りじゃ、魔物も見かけない。新鮮な肉、取れないしね。

 出るのは、盗賊くらい」


 フォイルが言うことも――というかそれが一般常識なのだろう。アイテム袋を持ち歩いていればまた違うんだろうけど。

 あ、でも人によって容量が変わるそうだし、一概にも言えないかも知れない。


「食材と調理用の器具くらいはアイテム袋にいつも備えてるし、従者のリカルデは料理くらい出来るから」

「アイテム袋に……」

「さすが魔王。あたしたちでは、出来ないこと、平然とやってのける」


 フォイルが大げさに驚いてるけど、この程度で一々騒いでたらきりがないと思うんだが。

 落ち着いたフォイルがどことなく安心したような顔をしてるみたいだけど、大体考えは読める。


「それでしたら、こんな干し肉じゃなくて普通に肉焼いて食べましょうよ」

「却下」

「え、ええ!? なんでですの? 焼くぐらいなら自分たちでも出来ますよ!」

「二人共自分の分を持参してるじゃない。長期保存の効く食べ物って言っても、ずっと持っておくわけにもいかないでしょう? アイテム袋の食材は腐らないんだから先にそっちを食べなさい」

「……持ってこなければ、良かった」


 悔しそうに私を見られても困る。確かに干し肉も黒パンたちも固いし塩辛いしでお世辞にも美味しいとはいい難い。

 自分たちがそんな貧しい食事をしている横で、それなりのものを普通に口に入れてる様子は……うん、いい気分じゃないな。

 というかフォイルめ……アイテム袋の中身のせいで私も料理しないってことが頭の中から抜け落ちてるようだ。


「はぁ……私も持ってきてる黒パン食べるから、そんな顔しないでちょうだい」

「? アイテム袋の食材は使わないんですか?」

「あのね、誰も料理できないのにどうやって使うのよ。

 それに二人がそれ食べてるのに、私だけっていうのもおかしいでしょうが」

「そう思うんは嬉しいですけど、そんな事言うの女王さまだけですよ……」

「でも、そういうの、好き」


 そんなやり取りをしながら食事を済ませ、アイテム袋から人数分の毛布を取り出して配っておく。

 ……リーティアスを出る時にテントも入れてくればよかったと少し後悔した。鳥車の中で休んでたから今まで不要だったし、まさかこんなことになるとは思ってなかったからね。


 まあいいか。見張りは二人が勤めてくれるって言ってたし、私の方はのんびり休ませてもらうとしよう。


「それじゃ、私は寝るわ。あ、でも絶対近くに来たらダメだからね? 下手したら死ぬから」

「……じょ、冗談ですよね?」

「私のこの目が冗談を言ってるとでも?」

「……」


 別に何かしようというわけではないんだけど、一応釘を刺すことも大事だ。

 明日は貿易都市トーレンに着くだろうし、まずは宿の確保。その後は観光しつつ、色々聞いて回ることになるでしょうね。

 とりあえず今は警戒しつつ、明日に向けて休むとしようか。

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