魔王様のもろもろな事情。


 結論から言うとメアには今魔王をやってもらっている。

 彼女は自分には務まらないだとかごちゃごちゃゴネていたが、俺はあいつが適任だと思ったから何度も頼み込んだ。最終的にはメアも折れて、不本意ではあるのだろうが納得してくれた。

 その後押しをしてくれたのがロザリアである。

 同化した時に、二人はややこしい混ざり方をしてしまった。

 アシュリーが言うには二人の波長が近すぎた為ではないか、と。


 しかし思いのほか二人は上手くやっていて、ほぼ同時にそこに存在していた。


「私が魔王なんて……『貴女が出来ないならわたくしがやってさしあげますわ』ちょっと待って、誰もできないなんて言ってないでしょ!?『じゃあやるのね?』そ、それは……」


 みたいな感じである。

 一つの身体に二人が同時に存在している事でプライベートもへったくれもないのだが、あの二人はそんな事気にしている素振りは無い。

 まるで一緒に居るのが当然のように。

 同化してしまった事についても何故か慌てていなかった。


 あの二人の関係性については俺にはいまいちわからないが、いろんな意味で他人、ではないのだろう。


 ロザリアも俺が使っているこの身体を返せ、とは言わなかった。むしろ、「大事に使ってくれないと許しませんわよ?」だそうだ。

 それは逆に言うと俺の身体は返してもらえないという事だよね?

 あまりに当たり前にそんな流れになってしまってまだそれを聞けていない。

 でも、わいわいと楽しそうにやっている二人を見ているとなんだか姉妹のように思えて、まぁこれはこれで悪くないかな、と思えてしまった。


 あの戦いが終わったあとメアは、ヒールニントが居ない事に気が付いて大騒ぎだったのだが、その辺のメンタルケアもロザリアがやってくれているようだ。

 なんだかんだと放っておくことが出来ないらしい。


 ……ちなみに、彼女を魔王に推したのには他にも理由がある。

 それは俺の問題にも関わってくるのだが、……俺が魔王として相応しくなくなってしまったからだった。


 情けない事だが、今の俺はロザリアの身体に宿る魔力はあるものの、それだけだった。

 それだけになってしまった。

 岩を殴って砕く事すらできない。その分魔法の修行をしなければいけなくなった。

 今まで以上に頭を使う戦い方を要求されるようになるので、めりにゃんにとことん鍛えてもらうつもりである。


 その為、俺とめりにゃんは一時的に王国から離れる事にした。王国の皆は納得してくれたし、今のメアなら安心だと理解を示してくれたので胸をなでおろしたものだ。


『なぁに、いざという時は我が力を貸してやるから心配は無用だ』


 意外にもオロチはそのまま俺と一緒に居る。

 幸いにも魔力は消えていないので、オロチに最低限の餌を供給する事くらいは出来る。

 勿論魔力供給が必要なのでチャコも俺達と一緒に来る事になっている。


「お前なんか使ったら今の俺はすぐに干からびるだろうが」

『ならば早く力を取り戻すのだな』

「言われなくてもそうするさ。しかし当面は戦う技術が必要だから魔法の特訓だ」


『我も居る事をお忘れなく』

「わーってるって。今までよりも魔法剣の比重は上がるかもしれないしな。細身だから今の俺にも使いやすいし」

『相棒ですからね』


 はいはい、全く……めりにゃんと二人で逃避行じみた流れなのに意外と同行者が多い。人外ばっかだけどな。


 ……めりにゃんは俺の我儘にも二つ返事で合意してくれた。


「お主の決めた事ならば儂はついていくし力になるのじゃ。その代わり儂から魔法を学ぶというのであれば厳しい修行になるのを覚悟するのじゃぞ?」


 そう言って彼女はとびっきりの笑顔を俺に向けるのだ。

 どうやら俺よりも上に立てているこの状況が嬉しいらしい。そんな所もとても可愛らしいと思う。


 問題があるとすれば、結局俺の身体は姫なままだし、本来の身体はメアが使ってるし、長時間沢山の女性と同化していたせいで頭がたまにバグったように女性化する事だ。


 アルプトラウムが死んでいればこの呪いに関しては消えるだろうとアシュリーは言っていたが、今の状況だとどっちが原因なのか判断がつかない。


 ただ、呪いに関しては確認が取れないものの……俺の身体の不死性は失われているようだ。それを考慮するのならば呪いは消えている、つまりアルプトラウムは消滅した……と考えていいのかもしれない。

 ともかく、今の俺は大怪我をすれば死んでしまう普通の人間だ。



 だからこそ、ある程度魔法技術が身につくまでは山奥にでも引きこもって人目につかないようにしようと思っている。



 平和というのは時におかしな奴等を生んでしまうようで、不思議な事に世の中には破滅思考というか、滅びこそ救いだ、なんてのたまうアルプトラウム信者が生まれてしまった。


 そいつらからしたらアルプトラウムを撃退した俺は許されざる敵なのだ。


 どの程度の戦力を保有しているかなどは未知数だが、今までの調子で相手をしたら思わぬ痛手を負うかもしれない。

 力が激減している事を悟られてはならない。

 ディレクシアからも呼び出しを受けていたりするのだが、当分応じるつもりは無かった。

 どうせ英雄として祭り上げられて国民の前で演説とかさせられるんだ。

 今の俺は前以上に目立つわけにはいかない。

 少なくとも今の状況下での戦いに慣れるまでは。


 奇しくも、俺がリュミアを探して旅を始めた頃のように、目立つわけにはいかない状態になってしまった。その意味合いは大分変ってしまったが……。


 しかし今の俺は当時のような焦燥感は無い。

 あの時パーティーが解散してしまい、ぼっちな姫になってしまった俺だが、今は違う。


 いざという時には世界中に俺の頼れる仲間がいて、何より、すぐ隣には……。


「ん? どうしたのじゃ? ……さては儂の魅力に心を奪われておったな?」


 めりにゃんが小悪魔的な笑みで俺をからかってくる。そういえば以前にもこんな事があった。


 そう、俺達の関係性も当時とは変わった。

 だからぼっち姫だった頃とは違う。

 俺のすぐ隣にはこんな可愛らしく頼りになる妻がいるのだから。


「その通りだよ」


 自分からからかって来たくせに顔を真っ赤にさせて「ばっ、ばかっ!」と両手で顔を覆い恥ずかしがっている彼女を見て、出発を一日くらい遅らせるのも有りかな、なんて思った。



 いつまで続くか分からないし、完璧な形では無かったのだけれど、それでも今、この世界は平和だ。

 妙な新興宗教が現れたりもしているが、まだ表向き問題行動を起こしているわけではないし。



 どちらにせよ俺達みんなで掴み取ったこの平和な世界を、俺達はこれからも生きていく。


 この平和を謳歌して、噛みしめながら一日一日を大事に生きて行こう。


 俺は、隣でまだ恥ずかしがっている妻の手を取り、ぐっと引き寄せた。


「な、なんじゃぁっ!?」


 彼女の額に俺の額をくっつける。


「めりにゃん、きっとこの先も、俺と一緒にいるといろいろ面倒な事に巻き込まれると思うし、迷惑かけると思う」


「……かもしれんのう」


「それを承知の上で、改めてお願いしてもいいかな?」


 おでこからめりにゃんの体温が伝わってくる。少しずつ温かみが増しているような気がした。


「なんじゃ、言いたい事があるならはっきり言うのじゃ」


「好きだよ」


「~~っ!!」


 ボッ! という音が聞こえてきそうなくらい分かりやすく彼女の顔が赤くなり、おでこから伝わる熱量が増す。


「だから、どんな事があっても俺と一緒に居てほしい……お願い出来るかな?」


「ば、ばかものめっ! ……言ったじゃろ? もうこの手を離す気はないのじゃ」


 至近距離でお互いの瞳を見つめあう。

 ほぼ同時に、ほんの少しだけ下に、ちらりと視線が動いた。


 考える事は同じだったみたいでお互いクスリと笑い、そして……。


 俺達はゆっくりと更に距離を縮め、やがてゼロになる。


 触れた場所は微かに震えていて……そこから伝わる体温は、おでこよりももっと、熱く感じられた。





――――――――――――――――――――――



ぼっち姫は目立ちたくない、ここまでお読み頂きありがとうございます。

次が最終話。最後までお付き合いください。

最終話後にあれこれ書くのも嫌だったのでここで先に作品の後書きとさせていただきます。


この作品は2019/09/21から毎日投稿を始めまして、それを継続しつつここまで来る事が出来ました。

ほぼ日課になっており、とても思い入れの強い作品となりました。

ぼっち姫の更新という日課が無くなってしまったらどうなってしまうのか不安ですが、次回作もプロットを考えていますので長く間が空かないように次を投稿できたらと考えています。

現在連載中のカオスラブコメ【おさころ】も出来るだけ更新ペースを上げていければと考えています。


では次が最終話。この物語も本当に終りを迎えます。繰り返しになりますが最後まで、お付き合い下さいますようよろしくお願いします。

可能ならば思った通り、感じた通りで構いませんので感想や評価など頂けるとありがたいです。

少し気が早いですが、この物語をお読み頂きありがとうございました。

                                   monaka.

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