それぞれの未来。
……この結末は俺達の勝利と言えるのだろうか?
俺達は、アルプトラウムが時空の狭間へ消えた直後、頭部に謎の激痛が走り意識を失った。
それは俺だけではなく同化していた全員がそうだったらしい。やはり限界だったのかもしれない。
目が覚めた時には既に同化は解除されており、軽い意識の混濁や記憶の混同はあるものの大きな障害を抱える事は無かった。
近くには俺の身体に引っ付いて泣きじゃくるチャコ。
俺達が全員意識を失ってなかなか目覚めなかったせいで相当心配させてしまったようだ。
そして、チャコの話では金毛九尾の少女は俺達に伝言を残して去ったらしい。
その内容はこうだ。
「私はこの世界が嫌いなわけじゃないしお前等の敵になりたい訳でもない。だから、私の戦いももうおしまいにするよ」
彼女はただ奴の役に立ちたかっただけなんだろう。……これは後で聞いた話だが、チャコは去ろうとする彼女を、王国へ来ないかと誘ったらしい。行く場所がないなら……と。
しかし彼女は、「あいつよりいい男がいるならそのうちな」と力なく笑うと、ヨロヨロと飛び去ったとの事だ。
それを語りながらチャコは「だーりんがいるべさ! でもこれ以上ライバルが増えるのは困るべ……」とか力説を始めて反応に困った。
きっと彼女が王国へ来る事はないだろう。
彼女はこの先何を思って生きるのだろうか。
自分が全てをかけられる程の相手を失って、支えも無く生きていく事が出来るだろうか?
心配ではあったが、俺達が居場所を突き止めて世話を焼くのも何か違うだろう。
それでは彼女の傷は広がるだけだ。なにせ彼女から大事な物を奪ったのは俺等なのだから。
奴を追い詰めた俺達を彼女は恨むだろうか?
恨まれても仕方ないとは思う。だがこちらにも戦う理由があったのだ。
戦いを終えた今、彼女の胸の内は俺達には分からない。
これは余談だが、満身創痍の俺達を迎えに来てくれたのは、アシュリーと見た事ない蛙だった。
ゲッコウが言っていた魔術師らしい。ゲッコウが呼んで魔力を消耗してしまったアシュリーの代わりに俺達の戦いを投影して見ていたのだそうだ。
なぜそいつが一緒に来たかと言えば、アシュリーを俺達の場所まで送り届ける為。
そしてアシュリーは魔力は尽きていたものの、転移アイテムを持って来てくれた。
そうして俺達は無事に王国へ戻る事ができたという訳だ。
結局アルプトラウムがあれからどうなったのか分からない。
あの時のアルプトラウムの消耗具合を考えたら逃げた先で力尽きている可能性も大いにある。
……だが、どうにもすっきりしない。
この眼で奴がどうなったのかを見る事が出来ないから。
そして、デュクシを助ける事が出来なかったから。
今この世界は一時の平穏を取り戻したが、もしアイツが生きていればまたいずれ同じような事が起きるかもしれない。
俺達はその時に備えて準備をしておかなければならない。
世界をもっともっと、今以上に一つに。
ユーフォリアと魔物フレンズ王国、エルフやドワーフ、リザード達も含め、ロンシャンやニポポン。全てが手を取り合い、困難に立ち向かえるように。
少しその後の皆の事を語ろうか。
ナーリアはステラと一緒にディレクシアへ行った。どうやら真剣に交際を始めるつもりなのだとかなんとか。
テロアがいまいちその辺の事に理解が無いというか、うまく理解出来ていないらしくきちんと納得させたら王国へ帰るとの事。
そして、リーシャに王国を見せてあげたいと言っていたが、今からステラとの修羅場が目に浮かぶようだ。リーシャ側は全くその気が無いだろうけれど。
アシュリーはあれからクワッカーとザラの三人でアーティファクトをエネルギー源とした巨大なカラクリを作ろうと息巻いている。
俺達がアルプトラウムと戦っている頃彼女は世界中を回りあちこちで戦果を挙げて来たため、以前にもまして人気の大賢者となった。
俺としても鼻が高い。
しかし俺の知らない所で何があったのだろう? 聞いてもはぐらかされてしまった。
そうそう、俺の命を繋いだのがアーティファクトではなく実は神の臓器だったと教えたら、今すぐ取り出して見せろと言われたが、残念ながらそれは出来ない相談だった。
メリーはそんなアシュリーの助手ぶってはラボに入り浸っているが、基本的にすぐ肉を食わせろと騒ぎ出すのでアシュリーからは鬱陶しがられている。
とはいえ、毎日昼食は二人一緒に食堂で大騒ぎしながら食べているし、ラボから毎日一緒に城の自室に帰ってくる様子を見る限りとても仲が良さそうだ。
ある意味親子のような関係にも見える。
ライゴスは力不足を実感したとかなんとか言ってどこかへ旅に出た。
ライノラスと訓練に励むとか言っていたように思うが、事情を知っている奴等が言うには何か他に別の目的があるらしい。
そっとしておいてやれ、と言われた。
まぁ、大体の察しはついているのだが、相手の年齢は考えろよ? といろいろ心配になる。
ショコラは今一時的に王国から離れ、シリルと、魔族の蜂っぽいのを引き連れて出かけている。どうやら神器を守っていた部族のところに顔を出しに行くとかなんとか。
蜂の人が常に絶望したような目をしていたのが哀れでならなかったが、ショコラに口を出す気にもなれないので申し訳ないがそっとしておいた。
目的地へは何をしに行くのだろうと気になるものの、悪い顔をしていたのできっとろくな事を考えていないだろう。
サクラコは未だニポポンには帰らず、英雄の一人ともてはやされるようになったのを良い事にあちこちで女性を引っかけては遊び回っているらしい。ショコラの師匠らしいクズっぷりである。
しかしあの人は異常なほど女にモテる。めちゃくちゃな性格してる癖に、ショコラみたいな問答無用じゃなくてきちんと順序、段階を踏む事が出来る。その辺がポイント高いのかもしれない。どうでもいいけれど。
ろぴねぇは魔物フレンズ王国にとって欠かせない存在になっている。
人間達とも気軽に接し、窓口的な役割を持つと共に、彼女を嫌う幹部は居ないので大体揉め事が起きてもろぴねぇが居れば解決してくれる。たまに俺の部屋に忍び込むのが問題と言えば問題だが、とても頼りになる幹部だ。
外交関連は彼女に主導してもらっている。プルットとの流通関連に関しても彼女に引き継いでもらった。
面倒をかけてしまうが、他の幹部たちもろぴねぇに協力的な為、むしろ団結力が高まったようにも思う。
ゲッコウは……言うまでもないがニポポンのベアモトでゲコ美達と頑張っているらしい。ゲコゲコランドをテーマパークとして復活させ、完成したら俺達を招待するとかなんとか。
楽しいのかそれ……?
親父は、おふくろと再婚……とはいかなかったらしいが、おふくろの店で雑用係兼用心棒としてこき使われているらしい。所属している女性に絡んではおふくろにボコボコにされているらしい。よくもまぁあれだけ学習しないものだ。我が父親ながらどうしようもない。……まぁあの二人にはそのくらいの関係が似合っているのかもしれないけれど。
ロンザは本当に聖騎士を目指すと言って王都の騎士団へ入団したそうだ。騎士団内ではそれなりに強いらしく、アレクに目を付けられて毎日しごかれているらしい。
コーべニアは王国にとどまり、アシュリーに弟子入りして日々無茶苦茶な修行をしている。
アシュリーが研究にかかりっきりなのであまり手ほどきはしてもらえず、特訓メニューをこなすだけの日々に若干不満げだった。
そしてヒールニント。
彼女は……あの戦いの後、行方が分からない。
プルットはゴギスタ達と大きな事業を始めるらしく、王国へ度々顔を出してはろぴねぇ達と打ち合わせをしている。なんでも、リノとかいう海鮮系の食材を大量生産して流通させたいとかなんとか。
メアに頼み込んでだいだらぼっちをその生産に協力させたいとか言ってたがあのデカいのを何に使う気なのか謎である。
エルフとドワーフは、あの戦いの際リザードに協力してもらったらしく、それを機に亜人同盟とかいうのを作り、一つの大きな街を作ろうとしているらしい。
亜人同盟とは言えど、人間達も広く受け入れるとの事だ。
そうそう、ナランで本格的に代表者を立てて街の運営等をきちんとしようという話になったらしいが、イムライは大勢の支持があったにも関わらず辞退したそうだ。
その話を聞いた時、むしろ私は安心した。
だってなんでもかんでも一人で背負って苦しい思いをするタイプの人間だから。
みんなの勇者である事を辞めた彼は、家庭を守る為の、家族だけの勇者になったんだろう。
風の噂では結婚したらしい。彼なら幸せな家庭を築くことが出来るだろう。
そしてメア。
彼女は……なんというか、とてもややこしい事になっていた。
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