最終通告と神の選択。


「さぁ、この力を君達はどう受け止める? 頼むから跡形も残らない程に消し飛んでしまうなんて終わりは勘弁してくれよ? ヒールニントを吸い出せなくなってしまうからね」


「ハーミット様、いやアルプトラウム。貴方の敗因はいつまでも自分が全ての頂点だと思い込んでいた事です」


 太陽に隠れてその姿は見えない。

 見えないが、きっと笑っているだろう。

 何を言ってるんだ、と。


 だけど、もう私は誰にも負ける気がしなかった。


 最強じゃなくていい。

 無敵じゃなくていい。

 ただこいつよりちょっとだけでも強ければそれでいい。


 私は先ほどアルが使った黒い球体、それを奴が放った太陽と同じサイズで作り上げ、正面からぶつける。


「なんだと……?」


「驚いた?」


 これで終わると余裕ぶっこいていたアルの背後に転移し、その首へ礼装剣を一閃。頭部を切り離す。


 白い糸のようなものが大量に噴き出しすぐに元に戻るが、その間に私はとあるアーティファクトを使用。

 儂が塔攻略の時に拾ってそのまま持っていたものじゃ。

 引力と斥力を操るアーティファクト。

 通常の状態ならばアルに通用するはずが無いが、修復に集中している時ならば話は別だろう。


 奴の頭が身体にくっついた時、既にアルは私の目の前まで引き寄せられていた。


「……ッ!?」


 その顎を思い切り蹴り上げ、それと同時に足先で魔力を爆発させる。


「ぐおあぁっ!!」


 アルの顔面が下半分ほど吹き飛ぶ。


 しかしそれを瞬時に復元し九尾の尻尾をぎゅるりと回転させて私の手首から先を吹き飛ばした。


 しかし拳が無くなった状態のままアルの身体に腕を当て、噴き出る血液に魔力を流し刃と変え、アルの身体を貫く。そして、体内に入りこんだ血液をさらに変化させ全方位へ向け刃を生み出す。


「ぐっ……!」


 アルの身体を内側から血液の刃が付き破った。これも儂の技術あってこそなのじゃ。


 そのまま一気に血液の刃を爆発させ、アルの身体がはじけ飛ぶ。

 その間に、切り離されて宙を舞っていた私の手首から先、そして握られている礼装剣を回収し繋ぎ合わせる。



「想定以上だ……。修復にも思ったより時間がかかっている……どういう事だ……?」


 アルは転移ではなく高速移動を駆使してこちらの懐に飛び込み、至近距離から複数の魔法を立て続けに放つ。自分の身体も巻き込むがそんな事は気にせず私に対しての攻撃を優先しているようだった。

 その一撃一撃が、直撃すれば全身消滅してしまいそうなほどの威力。


 私はその全てを瞬時に判断し相殺していく。

 実にその数二十四回。


 オロチの感知力、メアの知識とめりにゃんの技術をフル稼働させその場に一番必要な反属性を合わせていく。

 次第にアルの顔に焦りの色が浮かんでいった。


 こちらはただ反属性で相殺するだけではなく、それらに干渉しないように練った魔力を付属させ、相殺しつつこちらからはダメージを与える。



「なんだ、何が起きているんだ……!?」


「無駄ですよ。もう勝てないのなんとなく気付いてるんじゃないですか?」


「どうしてそこまでの力が……!」


 アルがあのギザギザの剣に複数の属性を纏わせ、今まで以上に轟音で激しく刃が回転した。



「これならばどうだ!」


 稲妻が走り、豪風が吹き荒れ、幾つもの水の刃が同時にこちらへ襲い掛かり、刀身は炎を纏った状態で私へ振り下ろされる。


「うるさいわね」


 オロチの首から全てのブレスを吐き相殺しながら、メディファスと礼装剣に複合属性を上乗せして、剣をクロスさせる形で受け止め、そのまま押し返す。


「二刀オーロラサイジェフォリオ!!」


 右上から左下へ、左上から右下へ、同時に繰り出された全力の魔法剣により、アルのギザ刃剣がバラバラに砕け散る。


 そして……無防備になったアルの胸元へ思い切りメディファスを突き立てた。



「……ふ、ふはは……! その剣でいくら刺された所で致命傷にはなり得ない!」


「ばーか」


 転移で逃げようとするのでメディファス越しに儂の反魔法を流し込み転移をキャンセルさせる。


「ぐはっ、なんという反応速度……素晴らしい……!」


『アルフェリア、もういいでしょう?』


 その声は、メディファスから聞こえてくる。


『なんとファウストまで居たのか!?』


 頭の中でジェミニが騒ぐが今は少し黙っててくれ。


 ジェミニの言葉を無視してファウストはアルへ告げる。


『動かないで下さい。私はすぐにでも貴方の臓器を破壊する事が出来る状態にあります』


「く、くく……途中からその剣の威力が上がっていたので君が何かしているのだろうとは思っていたが……この時まで力を取っておいたのかい?」


『勿論最低限は強化しました。でも私の目的は今この瞬間、貴方が臓器を得てからでしたからね。用心深い貴方の事ですからどうせこうなると思っていました』


「……そう、か……あっけない幕切れではあるが、君に殺されるのであれば悪くない」


『勘違いしないで下さい。あくまでも貴方は私ではなく私達、に敗北するのです』


 アルはこんな状況でも愉快そうに笑う。


「そうだね。思えばこうなる事を夢見て君を私の身体から追い出したような物だ」


『何を全てが自分の思い通りに進んでるみたいな空気を出してるんですか。貴方の思い通りにはなりません。私が臓器を破壊しても存在は消えない、また時間をかけて力を蓄えて楽しもうとか考えているのでしょう?』


「さすが、君は鋭いね……今回は私の負けだ。しかし次世代、次々世代はどうかな? いつか私は復活しまたこの世界を舞台にパーティーを始めるのさ」


『呆れました。貴方もそう思うでしょう? ジェミニ』


「なん……だと? ジェミニが居るのか!?」


『久しぶりだなアルフェリアよ』


 ジェミニの声もメディファス……ファウストが媒介してアルに届いているようだった。


「何という事だ……ファウストだけでなく、その体の中にはジェミニ、ジェミニア、そしてその臓器、すべてが揃ってしまっていたのか……完全に想定外だ。ふふ、それは勝てないはずだ。ははは……」


 アルの声が力ない物に変わる。しかしその笑みは消えない。


「アル、貴方……私がジェミニアだと知っていたの?」


「確信は持っていなかった、とだけ言っておこう。ジェミニから切り離されたジェミニアはほぼ力を失い、存在を砕かれた。……おそらくその中で一番大きく残った欠片が、長い年月をかけ私の血が混じったローゼリア王家へと引き寄せられたのか……その血の中で回復を待ったんだろうね。そして……一族の中でも強力な魔力を持ったロザリアが生まれ……」


「私は彼女の中に宿った……?」


「まさに、そういう事だろうね。しかし……ふはは……、良かったじゃないかメア。君は自分が何者でもない事を恨み、世界へ復讐しようとしていた。実に面白い……君の半身が守ろうとした世界を、半身である君が蹂躙しようとしていたなんてこんな愉快な話があるかね? あまりにも滑稽! あまりにも皮肉! あの時君と出会ったのはまさに運命……今思い出すだけで君のしてきた事は全て自己を否定するものだったのだ。自分を認めさせるために自己否定を繰り返すとは愚かで愉快で醜く素晴らしいじゃあないか!」


「違う、私……わたし、は……」


「お前はメアリー・ルーナだ。お前が何者だったとしても、メアとして積み重ねてきた時間は嘘じゃないだろ。下らない揺さぶりに動揺してんじゃねぇ!」


「……そう、ね。もう私は迷わないって決めたんだもの」


 今誰が誰に向かって喋っているのか。

 同じ口をついて出る言葉。意識の混濁が進んでいる。


「しかし……ジェミニ、ジェミニア、そしてファウスト……これだけ揃ってしまってはこちらに勝ち目はないかもしれないね」


 そんな状況ですら奴は笑っていた。


『残念だけれど……もう遊びの時間は終わりなのよアルフェリア。私達は過去の亡霊。そろそろ退場しましょう?』


『私はまだ消える気は無いがな。しかしアルフェリアよ。貴様には怨みもあるが……ヒールニントへの恩返しもしなければならん。その身体からハーミットとやらを返すというのであれば……』


「命だけは助けてやる、かね? そんなつまらない言葉は聞きたくないよ。私も既に覚悟を決めている。仕切り直しが出来ない状況である事は理解した。だが、なればこそ私の命を終わらせる方法は私自分で選ばせてもらおう」






――――――――――――――――――――


本日残り4話を投稿させて頂き、この物語は完結となります。

どうか最後までお付き合いくださいませ。

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