魔王様達の目的は一つ。


 アルは自分の身体を確かめるように尻尾を何度か左右に振り、頭に生えた狐耳を触って「随分と可愛らしい外見になってしまったものだ」とぼやく。


 白い服、白い髪に金色の耳と尻尾がよく映える。


 心なしか全身がうっすらと光り輝いているようにも見える。


 どちらかというとオロチのせい……おかげでこちらのオーラの方が禍々しい物になっている。


『今更選り好みするつもりか?』


「そんな事ないさ。俺にはこれくらいがちょうどいい」


 そう、見てくれなんてどうでもいいんだ。

 そんな事よりも今は、目の前の阿呆を叩きのめせるだけの力を。


「さぁ、楽しもうか」


 アルがふわりと浮かび上がり、決着をつける時が来た。


 奴は自分の周りに無数の火球……それも前回よりもはるかに大きい火球を無数に発生させた。


「これは当たると痛いよ」


 アルの指の動きに合わせてそれらが一斉にこちらへ向かって飛んで来る。


 それを先程の雷の槍、ではなく水の槍を生成し全て打ち落とす。勢いよく破裂音が響き渡りあたりを水蒸気が包む。


 その間にも水の槍を放ち続けたが手応えは無い。

 靄が晴れると、どうやら俺の攻撃は全てあのもふっとした尻尾に弾き落されていたらしい。


 先端に付与していた時空に穴を開ける魔法を避ける為に全て槍の横側から叩き落とす形で。



 手に入れたばかりの割には自由自在に使いこなしている。ぴこぴこと動く耳が面に似合わず可愛くて腹が立った。


 次はアルが高速で転移を繰り返しながら例の剣を振り回す。メディファスで受けるのは危険なので礼装剣で受け止めつつ、オロチの首と尻尾をアルへ放つ。


 一度距離を取り、すかさず巨大で真っ黒な球体を二つこちらへ飛ばしてくる。


 見た事が無い魔法だったが、メアの古代魔法知識により対処法は分かった。


 アレは触れた物質を無に帰す魔法。

 黒い球体の質量分を取り込むまで消えないし受け止める事も出来ない。


 だったら質量の有る物をぶつけてやればいいだけの事だ。

 土魔法で巨大な岩の塊を生成しそれをぶつける事で相殺。


 こちらも転移で背後に回りオロチの尻尾で奴の身体を固定した上で二刀を振るう。


 転移は阻害し、逃げられないようにしていた筈だが、するりとアルは尻尾から逃れてしまう。


 どうやら体形自体を変え細長い物体になりすり抜け、すぐ元の身体に戻るという気持ち悪い手法で抜け出したようだ。


 次は、俺が使った雷の槍をそっくりそのまま再現してこちらに飛ばして来た。

 触れれば即身体を次元の彼方へ吹き飛ばされてしまう。


 転移で逃げる事も可能だったがアルが次の手を準備している気配を感じ受け止める方へチェンジ。


 障壁を目の前に七十枚展開しその全てを受け切る。と同時にこちらからオロチの全ブレス攻撃。


 アルはそれを同じように多層式の障壁で受け止め、砕けた破片を高速回転させながらこちらへ飛ばしてきた。


「アシュリーの真似事かよっ!」


「オマージュ、と言ってほしいね」


 物は言いようである。一枚一枚が相当の強度を誇る障壁の欠片が高速回転で大量に飛んでくるのだからたまらない。


 転移しようにもあらかじめ全方位にバラまかれているので逆に危険だろう。


 俺はメアの知識の中にあった重力魔法を駆使してその障壁の欠片の軌道を逸らしてやり過ごした。


「ふっ、楽しいなぁ……本当に、楽しい。こんな時間を一体何百年待ちわびた事だろうか」


 そんな事を呟きながらアルが太陽を生み出した。


「えっ、……はぁ!?」


 太陽としか言いようがない。

 勿論そこまで巨大な物体ではないのだが、その輝きも熱量も、その表現が一番しっくりくる。


「いつまでも続けていたいところだけどそちらにもタイムリミットがあるからね。早めに終わらせてヒールニントだけでも回収せねばな」


「残念ですけど私は貴方をぶん殴って追い出しますから」


「やってみたまえ!」


 アルが生み出した太陽がこちらに迫る。

 太陽ほどのサイズは無いと言ったが、それでも一国収まるほどのサイズだ。

 こんなものが地表に直撃してしまったらどれほどの被害が出るか分からない。


「こんなおおざっぱなやり方はスマートではないのだけれどね、手段を選んでいたら勝てるものも勝てなくなってしまうから悪く思わないでくれたまえ」


「くそっ、こんな物どうしたら……」


『同じような物を作ってぶつけてやればいい』


 頭の中で声が響く。


 ジェミニか……? それが出来ると?


『私とジェミニア、そして力の源、その全てがここに揃ったのだ。アルフェリア単騎などに遅れはとらんよ! ジェミニア力を貸してくれ!』


「よく分からないけれど私の力なら貸すから好きに使いなさい!」


『ならば君に、いや君達に私の全てを預けよう! 目にもの見せてやれ!』


 ぶわりと、身体に力が漲る。

 またあれだ、自分が自分ではなくなる感覚。


 俺は誰だ? プリン・セスティ。

 それともメアリー・ルーナ? ショコラ・セスティ? ヒルデガルダ・メリニャン? ロザリア・アルフェリア・ウィルテスラ・ローゼリア? ジェミニ? ジェミニア? ヒールニント・ウル・グレイシア? 


 ……分からない。


 分からないが、目的は一つだ。

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