魔王達の最終決戦。


「ふふふ……素晴らしい。ヒールニントが来たからには皆を回復してもらえばもう一度楽しめるかと思っていたのだが……」


 アルはそう言いながらゆっくりと降りてくる。


 ……アル?

 俺はいつからアルプトラウムの事をそんなふうに呼ぶようになった?


 意識か若干混濁している。


「まさか姫ちゃんがまだ隠し玉を用意していようとは……そんなアーティファクトもあったね。ただ一つだけ注意点を指摘しておいてあげようか」


 地面スレスレまでふわりと降り立って、奴がこのアーティファクトの危険性を語る。


「私の記憶が確かなら……それは使用者の数が多ければ多い程、そして同化時間が長ければ長い程、使用者達自体が混ざって行く。あまりのんびりしていると君らは本当にただ一人の存在になってしまうよ」


「危険は承知の上だったが……なるほどな、そんな弊害があったのじゃな」


「ほら、もう混ざり始めている。取り込んだ人数が多かったからね。急いだ方がいい」


 分からない。アルのいう事が事実だという確かな予感はあるものの、今の自分にさほど違和感を感じられない。

 むしろ最初からこうだったかのような安心感さえある。


「しかし考えたね。確かにそれならば姫ちゃんは自分の身体と精神を再び一つにする事が出来る。今ならば本来の力を振るえるのではないか? しかも君の妹まで取り込んだ事により神器礼装までをも使用可能とは……これはなかなかに楽しめそうじゃないか」


「当然。私は絶対勝つから。覚悟しろ」


「ふふ、一体私は今誰と会話しているのだろうね……」


 いまいち自覚は感じられないが早くしないとこちらに影響が出そうだ。


 皆、始めるぞ……!


「……かかってきたまえ」


「言われなくても! オロチ!」


『応!』


 再びオロチが俺と神憑りを行なう。

 前回と違って全くと言っていいほど負担が無い。ただひたすらに力だけが溢れてくる。


 俺は神器礼装を纏い、メディファスと礼装の短剣から発生する光の剣を構える。


 身体が軽い。魔力が溢れる。頭に今まで知らなかった筈の数々の魔法の知識が流れ、そしてその全てを完全に制御できる自信がある。


 俺はまず剣を構えたまま周囲に雷の槍を無数に発生させ、その全ての先端に次元に穴を開ける魔法を付与。風の魔法にて一直線に空気の道を作り銃身の代わりを作り上げ、それぞれに回転をかけながら一気に放つ。


「くっ!!」


 アルの顔色が変わる。

 これの威力がどれほどの物か一瞬で見抜いたのかもしれない。

 だけど、障壁を張って受け止めようとしている時点でそれは失策だ。


 降り注ぐ雷の槍はアルの障壁に触れた瞬間、それを時空の彼方へ吹き飛ばし、奴の身体を貫く。

 勿論アルの身体を抉り、彼方へ吹き飛ばしながら。



「ぐ、ぐぉぉぉぉっ!!」


 そしてオロチの首を全方位に発生させておき、奴が転移で逃げる方向を即座に感知。


 現れた瞬間、メディファスを肩から斜めにその身体へ振り下ろす。


「!!」


 かろうじてかわされてしまったが、後ろに飛びのいたアルへ先ほどの雷の槍を全て向かわせる。


 再び転移で逃げようとするのを感知しそちらへ礼装剣で空間を切り裂いておく。すると、転移中にその空間の切れ目から奴が飛び出してくる。


「なっ!?」


「お前が驚いてる姿は新鮮でいいな」


「これ、は……私が思っていた以上にまずい状況のようだ。しかしこれこそが私の望んでいた展開と言えよう。本気で戦って、勝てるかどうか分からないなど同族を滅ぼした時以来だよ」


『なんだと……、同族を、滅ぼした?』


 頭の中でジェミニが騒ぐ。


 しかしメアの記憶から何が起きたのかをすぐに理解したようで、『奴の方が余程異端者ではないか……!』とご立腹だ。


「しかしおかしい。仮に君が自らの身体を取り込み、神器礼装が使え、メアの知識を得てメリニャンの魔法技術を手に入れたとしてだ。だったとしてもその力は想定をはるかに超えている」


「アル、貴方もそろそろ潮時かもね」


「ふふ……いやいや。まだこれからだよ。私も本気で相手をしないといけないね」


 そう言ってアルは自分の体の周囲に三つの球体を浮かべる。それは透き通っていてまるで水で出来ているような、水晶のような感じだった。


「これはね、私がアシュリーの真似をして作った物だよ。完成度はこちらの方がよほど高いがね。念の為にと用意しておいたが……まさか実際使う事になるとは思わなかったよ」


 つまり、ただの魔力貯蔵庫ではなく、それらが全てアーティファクト級の代物だと思っていいだろう。


 それらの一つが変形し、アルの身体を不思議な形をした服が包む。


「これは神器礼装に近い物だと思ってくれていい。そして……」


 水晶の一つがアルの剣にすっぽり収まると、あの回転式の刃に禍々しいオーラが宿る。


「さらに……」


 最後の一つをアルが丸のみにし、頭から狐のような耳がぴょこんと生え、後ろから九つの尻尾が生える。


「あの女の人から力を吸い取ったんですか?」


「今のはヒールニントか? 人聞きが悪いね。私は力を貸してもらっているだけさ。君等で言う所の神憑りに似た状態だね」


 何をどうやったのかは分からないがアルは遠隔で九尾の少女から力を借り受け、礼装を纏い、力を増した剣を構える。


「さぁこちらも準備は整った。ここからが本当にファイナルラウンドだよ」





――――――――――――――――――



アルプトラウム戦もそろそろ佳境です。

そして、この物語も残り6話となりました。本日もう一話投稿し、明日9/19に残りの5話を全て更新致します。

是非とも最後までお付き合い下さいませ。

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