聖女様はいい所にやってくる。
あの女の人……ハーミット様の事……。
やっぱり好きなんだろうなぁ。
でもその気持ちなら私だって負けてない。
でも私とあの人では決定的に違う所がある。
あの女の人はハーミット様が決めた事を全て受け入れ、力になろうとした。盲目的に。
だけど私は……彼の間違いを止めたい。
みんなが私に声をかけずにハーミット様のくれた水晶から記録を読み取っていた時。
私はそれを見ていた。
なんだかみんなが私に隠れてこそこそ何かをしようとしているのが分かったからこっそり後をつけた。
私がラボに入った時、既にみんなは何かを食い入るように見ていて、私にまで気が回らなかったようだった。
そこで私は全てを知る事になる。
ハーミット様に何があったのか。
私を助ける為にどれだけ傷付き、苦しんだのか。
そして私のせいで、彼は道を踏み外してしまった。
あんな神様だか悪魔だか分からない変な奴の要求を受け入れてしまった。
何もかも全て私の責任だ。
私があそこで死んだりしなければ彼をそこまで苦しめなかっただろう。
助けてくれたのに私が自ら命を絶ったという事実に関してはいまいち信じられないけれど、ハーミット様の記憶にそう残っているのだから本当なんだろう。
だから彼は私に何も知らせずに全てを自分が背負い込む事に決めた。
そのせいで人をやめる事になっても。
私がそれで喜ぶとでも思ったんですか?
勿論助けてくれたのも、そこまで私の事を考えてくれたのも、想ってくれたのも嬉しい。
嬉しいけれど……。
私にとってはハーミット様が全てだったのに。
貴方を犠牲にして手に入れた生に一体なんの意味があるって言うんですか……?
私のせいでハーミット様はアルプトなんとかいう人に変わってしまった。
アレもハーミット様だというのならぶん殴って目を覚まさせてあげなければ。
それが私の責任だと思う。
その為の力も手段も手に入れた。
みんなが気付いていないみたいだったから神術塔とかいうやつの最期の一個もぶっ壊してきた。
彼に世界を壊させる訳にはいかないもの。
この世界には、きっと彼が好きだった物だって沢山ある筈だから。
あの赤髪の女の人には、アルプトなんとか状態のハーミット様が全てだったのかもしれないけれど、私にとっては私を守るために全てを背負ってくれた彼が全てなの。
あの女の人からは大事な人を奪う事になるだろう。
それでも、私は……彼を苦しませておくわけにはいかない。
私に知らせずに全てを背負ったのに、どうしてあの水晶を私に渡したの?
使い方は任せる?
助けてほしいならちゃんとそう言いなさいよ。
本当に、そういう所は以前から変わらず素直じゃないんだから……。
なんて、きっと彼は変な物と混ざってしまったせいでどこからどこまでが自分で、どれが自分の本心かも分からなくなってしまったんだろう。
私に水晶を渡す事も、彼の精一杯のメッセージだったのか、それともアルプトなんとかの嫌がらせだったのか。
正解は分からない。
だけど私は知ってしまった。
あの時何が起きたのかを。
あれを知ったからには止まる事は出来ない。
偶然、本当に偶然運良く私は力を手に入れてしまった。
きっと私があのアルプトなんとかの子孫だからだろう。
ローゼリア生まれで、王族の血を引いている……全然ピンとこないけれど、ロザリアさんやメアさんの妹にあたるらしい。
私の持っていた不思議な力もその影響だろうし、私が手に入れた力もきっとこの身体に引き寄せられたのだろう。
『その通り。私も彼には少々怨みがあるのでね、ついでだから最後まで力を貸そう』
「ありがとうございます」
『なぁに、礼を言うのはこちらだ。あのまま朽ちる所だったのだから。それにあのままではどちらにせよ長い時を経て消えてなくなるしかなかった。君という器が現れてくれたからこそ中に入りあのにっくき牢獄から抜け出せたのだ』
「牢獄……悪い事でもしたんですか?」
『……遥か昔、私は同族に牙を剥いた。この世界に手を付けるべきでは無いと。その結果がこの有様よ。アルフェリア達に断罪され、半身と力を奪われ……今の私は半分な上に、本来の力には遠く及ばない』
同族……? よく分からないけれど、ミイラさんはこの世界を守ろうとして……?
『私と君の相性が良かったのでね、想定以上には力を与えられたが、力の源は奪われたままなのだ。……それと、君の考える事はこちらに伝わるんだぞ? ミイラさんというのはやめてくれ』
「じゃあ名前教えて下さい」
『私の名は……ジェミニ』
「じゃあよろしくジェミニさん。いっちょアルプトなんとかをぶん殴りに行きましょう♪」
『ふふ、君は本当に、変わった人間だ』
「……こんな所まで、何をしに来た?」
「ふぅ、やっと……やっとここまで来ましたよハーミット様」
彼はとても、とても冷ややかな視線でこちらを見つめてくる。
その視線に貫かれて息が止まりそうになる。
「どうやってここへ来た。死にたいのか?」
「どっちにしたって世界が崩壊したら私も死にますよ?」
「その時はお前だけは助けるつもりでいたさ」
……えっ、そうなの?
「う、嬉しい……けど、そうじゃなくて! 私は今の貴方は嫌いです! ハーミット様の中から余計な物を追い出す為に、ぶん殴りに来ました!」
「……ふ、ふはははは……! 君だけでそれが出来ると?」
私だけで出来る訳ないでしょ。
「セスティ様達と協力すれば……! 私だって力に……って、あれ……? みんな、は……?」
「そうか、そうだそうだ。ヒールニント、お前はとてもいい所に来たぞ」
……?
「どういう事ですか……?」
「さぁ、あそこで死にかけている皆を完全に回復させてやってくれ。そうすればもう一度、もう一度全力の姫ちゃんを楽しめるじゃないか!」
彼は歓喜と狂気の笑みで目を見開いた。
死にかけている……?
彼が指さす方へ視線を移すと、真っ二つになったメアさん、動かないショコラさん、血まみれのメリニャンさん……そして、倒れて何かを叫んでいるセスティ様。
まずい。
これを、彼がやったの?
早く助けなきゃ!
私が、みんな救ってみせる!
私は急いで皆の元へ降り立つ。
「ヒールニントさん参上っ! みんな待ってて下さい! すぐに治しますからね!!」
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