魔王様の掘削円錐は天を突く。
あの剣を正面から受け止めようとすると振動と電撃で動きが止まってしまう。電撃自体はなんとかなるがこの振動が厄介だ。
オロチとの神憑り状態でこれって事は通常でまともにくらったら脳みそクラッシュするんじゃないか……?
そんな事を考えていたら今度は剣に炎を纏わせて遠距離から炎の斬撃を飛ばしてきた。
電撃だけじゃねぇのかよ!
『笑止!』
オロチの首の一つが大口を開けてその炎を丸のみにし、自らのエネルギーに転換して別の首から熱線を吐き出す。
その熱線はナーリアの使う武器に少し似ていた。
「おっと、それをまともに受けるのはまずいね」
『ならばこちらはどうだ?』
さらに別の首が凍てつく吹雪のようなブレスを吐き出す。
さらに別の首が雷を、別の首が毒の液体を吐き出し波状攻撃となり襲い掛かる。
「むぅ……君が手に入れたその荒神は……なるほどなるほど。とてつもなく厄介な代物だね」
そう言いながらもオロチの攻撃を巧みにかわしているあたりまだ余裕があるようだ。
『こ奴……星降りの民の生き残りというだけはある。魔王よ、その身を犠牲にする覚悟はあるか?』
……おいおい恐ろしい事言い出したぞこいつ。
でも俺の言葉は決まっている。
「当然だ」
『いい返事だ』
オロチは八本の首をぐるぐるとねじっていく。
『これからやるのは八本に分散されている力の一本化だ。負担は八倍になると思え』
マジかよ……今でもかなりキツイっていうのにこれの八倍だと……?
「その代わり力も八倍を期待していいんだろうな?」
『当然だッ!!』
ぎゅごごごっ!!
「素晴らしい! 一体それはなんなのだ。荒神の中でも最高峰なのは間違いない!」
「喜んでるところ悪いが、一気に決めさせてもらうぞ……」
長くはもたない。
オロチの首が捻じれ、一つになる事で巨大な円錐形に変わる。
まるで掘削に使う道具のようだ。
『我の思考、感覚を汝に共有する。意識を持っていかれるなよ』
「それはどういう……ぐおぉっ!?」
オロチの言っている意味がどういう事なのか確認しようとした瞬間、頭にとんでもない情報量が流れ込んでくる。
オロチが今までに経験して来た事、この星の歴史、そして……力の使い方。
「……オーケー、分かった」
『頭が破裂しなくて良かったな』
そんな危険な事を無許可でやらないでほしい。
『ふっ、お前等の言葉を借りるのなら結果オーライというやつだろう』
調子の良い事言いやがって……。
しかし、これなら奴とも渡り合える。
今の俺はオロチの力を十二分に使いこなす事が出来るのだから。
巨大な円錐は俺の右腕と同化する。デカすぎて動かしにくい。
しかし、これにはこれの利点もある。純粋に
「その力、是非私に見せてくれ!」
デカいが故の打点の広さ。
アルプトラウムが剣を振りかざし向かって来たのをオロチの右腕でぶっ叩く。
転移で逃げようとしても無駄だ。このオロチの円錐は周囲の空間に常に干渉している。
アルプトラウムの思ったような転移は発動出来ない。
「ぐおぉっ!!」
巨大な円錐でモロに叩かれた奴は地面へ真っ逆さま。足場を貫いて海の中へ。
すぐに飛沫をあげて飛び出し、数多の熱球をこちらに飛ばしながら距離を詰めてくる。
俺は再びオロチの右腕を振り、熱球を全て破裂させ、その間に背後に回り込んだアルプトラウムへ振り向かずに攻撃を仕掛ける。
ヤマタノオロチの本来の姿は八つの頭、そして八つの尾を持つ。
俺の腰あたりから勢いよく尾が八本生み出され、あっという間に奴を絡め取り、締め上げ、尾がそれぞれ刃のように鋭く形状を変化させ、切り刻む。
そしてそれらがまたあの糸のような物で繋がり、急速に修復されていく……。
「その瞬間を……待っていたッ!」
俺は巨大な渦巻き状の円錐を高々と掲げ、全神経を集中。全力を込め、ありったけの魔力を流し込み……。
「くらいやがれぇぇぇっ!!」
円錐状のそれを高速で回転させる。
ジャギギギギギ!!
バチバチと火花を散らしながら最高潮までエネルギーを蓄えたその一撃を、修復完了目前のその身体へぶち込む。
確かな手応え。
先端が触れた瞬間にぎゅるりと回転に巻き込まれたアルプトラウムの身体はぐにゃりと引き延ばされて円錐に巻き込まれ、千切れ飛ぶ。
オロチの力を全力で込めた一撃だ。
そう簡単に修復などできないだろう。
その上……!
『今だ!』
「おうよっ!!」
俺はその円錐を先端から外に向かって開く。
巨大な花のようになったそれは、中央に一本突起を残しており、そこに全ての力が集約されていく。
「吹き飛べぇぇぇっ!!」
先端から今までとは比べ物にならない超高圧縮のエネルギーが放出され、細切れになったアルプトラウムを一瞬で焼き尽くす。
天を突き抜けるほどの火力に塵も残らない。
「はぁ……はぁ……オロチ、限界だ」
『よくやったぞ人間。我が悲願は成った』
一瞬、ここでオロチに裏切られたら俺はおしまいだと思ってしまった。
『馬鹿者め。お前が居なくなれば我もエネルギー供給源が無くなって死に絶えるわ』
「そ、それもそうか……」
オロチが神憑りを解除した。
「おい馬鹿! こんな上空で……っ!」
真っ逆さまに落ちていくが、もう体制を整える余力すら残っていない。
地面への激突くらいなんとか我慢しよう。
そう思った時、俺の手をめりにゃんが掴む。
「セスティ、止むを得ないとはいえ、これは……」
「おにぃちゃん……何やってるの……?」
「当初の目的完全に忘れてるじゃないの」
皆が言いたい事は分かる。俺はデュクシを助ける為にアルプトラウムを瀕死に追い込む事が目的だった筈だ。
しかしあまりの強さに、手加減なんて出来る状態じゃなかった。
それは言い訳ではあるだろう。
だけど俺はデュクシを諦めたわけじゃない。
だって、最悪な事に、悪寒が全く止まらないのだ。
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