魔王様は慣れるのに時間がかかる。

 

 めりにゃんの頭を優しく撫でてから、手を離す。


「大丈夫。これは一緒に居る為だ……あの時とは違う」


「分かっておるのじゃ……じゃから、しくじるなよ」


「おう! メア、ショコラ、チャコ……お前らも少し下がっててくれ」


 俺がまずこの力をきちんと扱いきれない可能性もあるから周りに味方がいるのは危険だ。


「素晴らしい……!」


 普段糸のような目を大きく見開いて感嘆しているアルプトラウムへ、まずは一直線に向かって攻撃を加えようとした……のだが。


「う、うわわわっ!」


 どごっ!!


「おっと、いきなり体当たりとはまた面白い事をするね」


「う、うるせーバカ野郎! 思ったより早すぎて感覚が掴めなかっただけだバーカ!」


 あまりにも一瞬で加速し、ヤバいと気付いた時にはもう遅かった。

 ただただ頭からアルプトラウムに頭突きをかましてしまう。そしてあまり効いてはいない。



『おい、何をふざけている』


「ふざけてねぇよ! ちょっと感覚を掴むのに時間がかかっただけだ! 次はもう平気だからな!」


 恥ずかしくて早口になってしまう。

 しかしこれは想像以上に身体能力が高められている。身体全身から力が溢れ出してくるようだ。


 一度相手から距離をとり、手足の動きを確認する。


「ふふ……実に面白い。さぁ、次こそは楽しもうじゃないか」


「言われなくてもっ!」


 再び全力突進。しかし今度はメディファスを突き出したまま。

 恐るべきスピードが出ているが、あまりに直線的すぎるのかアルプトラウムはさらりと身をかわす。


 俺は通り過ぎ様に腕を振り、オロチの首を一本発生させた。

 それは勢いよくアルプトラウムの胴へ食いつき、大きく旋回しながらこちらへ戻ってくる。

 俺はそれにタイミングを合わせてメディファスを振り抜いた。


 アルプトラウムは胴体が真っ二つになり宙に投げ出されるが、気色の悪い事に切り口から細い糸のような物が大量に噴き出し、上半身と下半身を繋ぐと勢いよく元の形にくっついた。


「ふむ……? 確かに恐ろしい力だが……その剣先ほどまでと雰囲気が違うね」


 ……? メディファスの事か?


『我に心当たりはありません』


「だそうだが?」


 アルプトラウムは勝手に何かに気付いたらしく、ケタケタと笑いだした。


「そうか、そういう事かいいぞいいぞ。これは更に楽しみが増えるという物だ」


 俺はよく分からない事をのたまっている奴に向けてもう一本オロチの首を出し、高エネルギーのブレスを吹き付ける。


「そんな事も出来るのか!」


 俺が下手な魔法を使うよりも明らかに威力のあるそれは、アルプトラウムの張った障壁をじわりじわりと溶かしていく。


「怖い怖い」


 アルプトラウムが転移してその場から消える。

 それに合わせて俺の周りに残りの首を全て出現させ、その感覚を共有しているので現れた場所に即気付きもう一度ブレス。


 だが今度は障壁ではなく攻撃魔法で打ち消されてしまった。


 あのブレスを打ち消すほどの威力があるって事かよ……!


「今度はこちらからいくよ」


 アルプトラウムは目の前の空間を指でなぞり、空間に亀裂を入れる。そこへ手を突っ込み、剣を引きずり出した。


 ギザギザの刃が沢山ついていて持ち手近くに怪しく輝く玉が嵌っている。


「これは元はにゃんこの持ち物だったのだがね、有用だったので私が使う事にした。使用者の精神に反応し威力を高める優れものだよ……人の作りし物の中では最高峰だろう」


 あれを、人間が作ったっていうのか?


「残念ながら動力は私が使ったらすぐに壊れてしまってね、今はアーティファクトを内蔵させ補強している。故に威力も、強度も上がっているよ。無論私の力を流し込んでいるのだから傷口がすぐに治るなどとは考えない事だ」


 よく分からんが要するにヤバい剣だって事だろ? くらわなきゃいいんだそんな物は。


 アーティファクトが反応し光り輝いたのを合図に、剣をぐるりと囲っているギザギザの刃が高速回転を始め、バチバチと稲光を発生させた。


「趣味の悪い剣だな……」


「面白いだろう? さぁかかってきたまえ」


 俺達の戦いがここに来て剣と剣になるとは思わなかった。

 でも、こいつがデュクシだと思えばそれも不思議じゃないか。


 トンッと空気を蹴るだけで風を切る推進力が生まれる。方向転換するにもまた空中を蹴るだけで十分だった。


 俺の攻撃をかわし、奴がその物騒な剣を振り回す。

 剣筋になんだか懐かしい物を覚え複雑な気持ちになりながらそれを紙一重でかわし、反撃。


 指を二本切り飛ばすがすぐに妙な糸が出てシュパンと元へ戻る。


「くそ、キリがねぇな」

『いや……あの修復力には生体のエネルギーを使用している。底をつけばもう元には戻れまい』


 オロチのアドバイスでやる事は決まった。


 やはりこいつを切って切って切りまくればいい。

 話しがシンプルでありがたいぜ。


 時に転移も混ぜながら猛攻を加えるがことごとくかわされてしまう。

 そして俺の転移は近場が目的地な事と、オロチの力なのかほぼ狙った場所へ移動できていた。


 そして、かわしきれなくなったアルプトラウムがメディファスをその剣で受け止める。


 その瞬間、全身にバリバリと電撃が迸る。

 筋肉が勝手にプルプルと反応してしまうがもともとこの身体に筋肉などさほどないので問題ない。


 そんな事よりもギャリギャリと回転する刃にメディファスが削られていく。


 抉れるような事はさすがに無いがガリガリガリガリとその刃が回転してメディファスを粉にしていく。


『あ、主……!』


「分かってる! 少し耐えろ!」


 剣の鍔迫り合いをしている間に、オロチの首で背後から一斉に攻撃。


 アルプトラウムはすっと地面に降り立つ事でこちらのバランスを乱す。


「まさかとは思うが……これで全力なのかい?」


 おぉ……言ってくれるじゃねぇか。

 まだまだこれからよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る