魔王様は覚悟を決める。
「だいだらぼっち! 出番よ!」
メアが杓子の玉を掲げ、目の前に巨大なだいだらぼっちが姿を現す。
ズゴゴゴ……。
あまりに巨大なその姿にアルプトラウムも驚愕していた。
「なんだと……まだこのような者が生存していたのか!?」
そのリアクションが見れただけで満足だぜ。
だいだらぼっちはその重量からかアルプトラウムが作った足場を踏み抜き海に腰くらいまで浸かる。
アルプトラウムの熱球によって地面が脆くなっていたからかもしれない。
だいだらぼっちが完全に沈んでしまう程深くなくて良かった。
巨大な手がアルプトラウムに迫り、がっちりと掴むと、剣が突き立てられたままぽっかり空いた大きな口の前まで連れていかれ、一瞬のうちにヒュゴッ!! と吸い込まれていく。
だいだらぼっちはメアの命令で剣を二本吐き出す。
俺は手が迫って来た時にめりにゃんが剣から引き抜いてくれたので無事だった。今は彼女が必死に回復魔法をかけてくれている。
最初は全く効果が無かったが、恐ろしい事に彼女は俺の傷口をもう一回り大きく抉り取って、その上から回復魔法をかけてくれた事によりすぐ修復した。
有難いし賢いと思うんだけどまったく躊躇せず俺の身体を抉るのはちょっと怖かった。
「おにぃちゃん大丈夫?」
「無茶しすぎなのよ」
メアとショコラが各々の剣を回収して俺の様子を見に来た。
「これで分離できるかしら?」
「あの時と同じなら……アルプトラウムの力を吸い尽くし、デュクシだけを吐き出してくれれば……」
めりにゃんとショコラには分からないだろうが、俺とメアはこの目で見ている。
ニポポンでだいだらぼっちに吸い込まれたショウグンからキャメリオが吸い取られ、正気を取り戻した事を。
俺達はアルプトラウムを飲み込んだだいだらぼっちを見上げ、その結果を待った。
これでアルプトラウムが吸い尽くされていれば一番いい。全て解決だ。
もしそれが叶わなくても分離さえできれば余計な事を考えず戦う事が出来る。
『呑気なものだな』
ゾワリとした寒気とともにオロチの言葉が脳内に響く。
「どういう意味だ」
『よく見ていろ。すぐに分かる』
オロチのその言葉が終わる前に、異変が起きた。
「ぐ、ぐおぉぉぉぉぉぉん!!」
「ど、どうしたの!? だいだらぼっち!」
だいだらぼっちが咆哮をあげ、ビキビキと……その腹部に亀裂が入っていく。
「せ、セスティ……これはまずいのじゃ!」
亀裂から猛烈な光が漏れ出し、大爆発。
「ふふ……今のはなかなか驚いたぞ」
「ぐおぉぉぉぉぉん!!」
「メア! だいだらぼっちをすぐに戻せ!」
「わ、分かったわ!」
だいだらぼっちの腹部には大きな風穴があき、中から平然とアルプトラウムが現れた。
だいだらぼっちのダメージはかなり大きいだろうが、玉の中で眠っていればなんとか回復できるかもしれない。
「メリニャンの技術にも驚いたがこんな荒神を用意していたとはね……でも残念だったね、私の力を吸い尽くすには器が小さすぎたようだよ」
最悪だ。
アルプトラウムを無力化する事も出来ていないし分離する事もできなかった。
『諦めろ。もはや淡い希望は捨て、奴を滅ぼす事だけに集中した方がいい』
「うるせぇぞオロチ! 俺はまだ、まだ諦めちゃいない」
『ならばこれ以上どうすると?』
「まだ吸い尽くすには余力があり過ぎただけだろ! だいだらぼっちをメアの中で回復しつつアルプトラウムを瀕死まで追い込む! それからもう一回やり直しだ!」
もう俺達に残された方法はそれしかない。
『なるほど……しかしお前らだけの力でそれが可能とは思えんが』
「分かってる……こうなったらもうやるしかない。オロチ……お待ちかねだ」
『……都合のいい奴め。しかし、いいだろう。ここで星降りの民に我の怒りと怨みを叩き込んでやろうぞ』
「さて、君達の奥の手は功を成さず終わった訳だけれど……どうする?」
アルプトラウムはゆっくりと俺達の目の前まで降りてくる。あのムカつくニヤケ面のまま。
「奥の手だぁ? 今のが奥の手だって誰が言ったよ」
俺の言葉にアルプトラウムは目を丸くし、そのニヤケ面がさらに酷くなった。
「そうか、そうかそうかそうかそうか! まだまだ私を楽しませてくれるのか! 一体次は何を見せてくれる!?」
「このスリルジャンキーめ……だいだらぼっちにある程度力吸われたんだろ? その割には余裕あるじゃねぇか」
「それはそうだろう……確かに多少は吸われてしまったがね、余裕があるのは……まだ十二分に余裕があるからだよ」
ぶわりとアルプトラウムの周囲が歪む。
空間を歪ませている訳ではなく、純粋に奴からあふれ出る力で歪んで見えている。
「アル……貴方今まで手を抜いていたの?」
「当然だろう? すぐに殺してしまっては楽しみも何もないじゃないか。それでもさっきのは本当に焦ったよ。逆に言うとアレで私をどうにか出来なかった時点で君らに勝ち目など……」
減らず口もそこまでだ。
「オロチ!」
『応!』
解放されたオロチが一瞬その姿を現し、すぐに俺と神憑りを発動させる。
「なんと……! それも荒神か!? しかも先ほどのとは比べ物にならない力を感じる……。面白い、やはり姫ちゃん……君を信じてよかった!」
オロチの数ある首が俺の身体中に纏わりつき、身体中に蛇に締め付けられたような模様を残して体に吸い込まれていく。
「ぐっ……」
『苦しいか? あいつを滅ぼすまで魔力を供給し続けよ。さもなくば……』
「余計な心配は無用だ。最初から全力で行くぞ!」
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