きつねこ娘は戦慄する。
まったくカルゼの奴いったい何を考えてるんだか……。
別にあいつが何を考えていたって私は言う通りにするだけだけれど、それにしたって世界をぶっ壊そうなんて……。
いや、実際はきっとそんな事はどうでもいいんだろう。
最近のカルゼは最初に会った時とは別人のようになってしまった。
前は無気力が服着て歩いているような状態だったけれど、今は自分が楽しむ為に進んで面倒な事ばかりをしている。
あの六つの塔だってそう。
あれは結局のところ敵をおびき寄せる為の餌だったんだろうか?
でも敵っていうにはちょっと違うような気もする。
きっとあいつだ。
カルゼが世界に宣戦布告した後、同じように世界へ言葉を届けていた女。
セスティ。
古都の民とかいう奴らの所で一緒に戦ったあの女……。
あいつをおびき出す為にやった事。
……それもちょっと違う気がしてきた。
だって会いに行く、戦いに行くだけならカルゼ自身が出向けばすぐのはずだ。
なのにわざわざあんな事をする理由……多分だけどやっと分かった気がする。
あいつは遊んでるんだ。
世界を舞台に、セスティって奴と大掛かりな遊びをしてるんだ。
なんて質が悪いんだろう。
到底理解できない。
だけど、どうしてだろう……あいつがそれを心から望んでいるっていうなら私はそれを手伝ってあげたい。
本当なら六つ目の塔を見つけられなかったらそれで終わりだったみたいだけれど、今世界が無事でいるという事はセスティ達が隠された最後の塔を見つけたって事だろう。
やっぱりあの最後の塔には私が居るべきだったんだろうか?
カルゼはその必要は無いって言ってたけれど……それはきっとあの塔を見つけてほしかったんだろう。
きっと見つけてくれると信じていたんだ。
なんだか妬ける。
私がいくらカルゼの事を想っても、どれだけ好きだとアピールした所で奴の気持ちがこちらに向く事はない。
興味はセスティに、心はヒールニントとかいう聖女に向けられていて、それは私がどうあがいても変わらない。
惨めな女。
本当に私は……だけど、それでもいい。
どれだけカルゼの気持ちがここになかろうと、誰よりも一番そばにいるのは私だ。
それだけが心の支えだった。
泣きたくなる事もあるし、実際泣いちゃう事だってあるけれど、それでも一緒に居られるならそれでいい。
世界が滅んだら二人だけの世界になるかもしれない。だったらそれでもいい。
……でもきっと、万が一だけど本当に世界が滅びるような事になったら、その時カルゼはあの女だけは助けるだろう。
ヒールニント。
聖女様。
そして私はあの二人が愛し合う世界で遠巻きにカルゼを見つめ続けるだけの惨めな女になる。
その時本当の意味で、そうなってしまう。
リャナであの聖女に出会ったせいで余計な考えばかりが頭に浮かぶ。
畜生……いっそあそこで殺してしまえばよかった。
魔物にやられたって事にして、私が行った時にはもう死んでたって事にすれば良かった。
「あーしくじったぁぁぁ……」
「何をしくじったんです?」
「そりゃ当然あの聖女を殺さなかったことだよぉ……」
「へぇ、私を殺したかったんですか?」
「あん? お前じゃなくて聖女様を……って、え?」
私は今海の上を飛んでいる。
カルゼの元へ帰る真っ最中だったのだが、突然誰かに声をかけられつい普通に返事をしてしまった。
声のした方をチラリと見ると、そこには……。
「さっきはよくも私の仲間を黒焦げにしてくれましたね」
「せ、聖女ぉぉぉぉっ!?」
「はい、ヒールニントです。覚えておいてくださいね」
こ、ここは海の上だぞ!?
いや、飛行魔法くらい使えたっておかしくはないか、そうだよな? おかしくないよな?
「……お前、飛べたのか?」
「飛べるようになったんです。頑張ったんですよ?」
「私を追いかけてきた理由を聞いても?」
「だって仲間が黒焦げにされたら普通ムカつくでしょう?」
……ごもっともだ。
「じゃあどうするのさ……私はお前には手出しできないし聖女様だって戦う力なんてないだろ?」
まったく面倒な事を……。
……待てよ? さすがにこの状況はカルゼにとっても予想外だろう。
この場で殺してしまえばこいつの存在自体抹消出来るじゃないか。
もういっそ殺っちゃってもいいんじゃないか?
「私とっても怒ってます。だから少し痛い目を見てもらいますからね」
「そうかそうか。喧嘩をふっかけられたら抵抗しなきゃならないもんな。不幸な事故で死んでもしょうがないよな」
「いきますよー?」
フッと、聖女の姿が消えた。
「なっ、えっ!?」
消えた聖女は、「あわわっ」とか言いながら私の背後に現れた。
転移……?
「く、くらえーっ!」
背後に現れた聖女は、なんというかとても残念でへろへろなパンチを繰り出した。
はぁ……こいつ何しに来たんだろう。
私はその拳を、九尾化している大きな掌で受け止め、そして……。
「!? えっ、は!?」
私の大きな掌のど真ん中にぽっかりと大穴が空いて、そこから勢いよく血が噴き出した。
「な、何を……」
何をされたのか分からなかった。
こいつは危険すぎる。
九尾化している私の身体に容易く穴を開けるほどの力?
さっきのへろへろパンチが?
「言いましたよね、私怒ってるって」
「……マジかよ……本気でやらねぇと死ぬぞこれは……」
「死にませんよ。ヤバかったら私が助けますから。でも殺さない程度にボコボコにしますんで覚悟してくださいね」
そう言って聖女様はニッコリと、満面の笑みを浮かべた。
はは、その冗談は、笑えねぇよ……。
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