魔王様の一発逆転作戦。


「二人とも、俺らも行くぞ」


 めりにゃんには障壁を張り続けてもらい、俺が出来るだけ広範囲に広がる水魔法をぶちまける。


 降り注ぐ高熱の球体に触れた瞬間爆発したかのように辺りを水蒸気が包んだ。


「いくぞっ!」


 俺はアルプトラウムの方向へ。


「こんな物で目くらましのつもりかな? 舐められた物だ」


 振り下ろすメディファスをあっさりと掴まれてしまう。


 が、それを振り下ろしているのは俺じゃあない。


「……む、お前は……?」


「だ、だーりん! 今だべさ!」


 メディファスを持ってアルプトラウムに振り下ろしたのは俺の姿に化けたチャコだ。


 その間に俺はめりにゃんの魔法で透明化。そして飛行能力を失っているのでめりにゃんに補佐してもらい、背後に回り込んでがっちりとその身体を拘束。


「少し驚いたが……結局やる事はあの時のメアと同じか」


 あの時、ってのがどの時か知らねぇが本当に同じかどうかその身で味わえ!


「メア! ショコラ! 構わん、俺ごと貫け!」



「なっ、……ふむ、そうきたか……しかし残念ながら貫かれるのは君だけだよ」


「めりにゃん!」


 俺はあらかじめめりにゃんに頼んでいた。

 絶対にアルプトラウムは転移でその場から逃げようとする。


 だから……。


 これはめりにゃんにしかできない。

 誰よりも精密に魔法を操る事が出来るめりにゃんだからこそ出来る。

 本人は不安そうだったが、俺は彼女なら出来ると信じていた。


「……ッ!? 何をした!?」


「お主が転移すると分かっていれば……なんとでもなるのじゃっ!」


 めりにゃんは俺が羽交い絞めにしているアルプトラウムに直接自分の魔力を流し込んだ。


 以前めりにゃんに魔法講義をしてもらった事があるのだが、その時に聞いた事を利用したものだった。




「よいかセスティ。複数の属性を混ぜ合わせるというのは相性と魔力の練り方が重要になってくるのじゃ」


「相性って……炎と水は無理とかそういう事か?」


「ふむ、普通に考えれば無理そうであろう? 魔法にはそれぞれ必要になる構成があるのじゃ。その構成が相反する属性じゃと真逆になってしまうのじゃよ」


「違いすぎて混ぜるのが難しい……?」


「そうじゃな。ある意味それは当たっているのじゃ。しかし……これを見てみよ」


 めりにゃんが掌の上にポッと小さな炎を灯し、もう片方の手には水の球体が生まれる。


「本来こうやって別の属性を同時に練り上げるのだけでも大変なんじゃぞ?」


 それは分かる気がする。俺もやって出来ない事は無いけれど、相反する属性を同時にっていうのは無理だろう。


「それで、じゃ。この二つを普通に混ぜようとすると……」


 炎と水が触れた瞬間に水蒸気が発生し両方とも消えてしまった。


「無論こうなる。……じゃが……こうやって複雑な構成にし、遠回りをして炎魔法と同じ方向性な構成の水魔法を練り上げると……」


 再びめりにゃんが掌に炎と水を発生させ、触れさせる。


 その瞬間、燃え滾る溶岩のような燃える液体が、ゴポゴポと音をたてていた。


「この構成のやり方については上手く説明は出来ぬのう……魔法の構成自体を完全に理解し、よく考えて練らなければならぬ。ちなみに水魔法を炎に似た構成にするだけではダメじゃ。炎魔法の方も同じように水に近い構成を練っておくことで……」


「待て待て、それ以上難しい事を言われても俺にはできねぇよ」


「なんじゃ複合魔法をもっと上手く使いたいというから講義してやっとるのいうのに」


「俺は大人しく混ぜ合わせやすい物をメインに使う事にするわ」




 ……そんな事があり、そこから発想を得た。


 めりにゃんにはアルプトラウムが使う転移魔法の構成を読み、瞬時に真逆の構成を奴の身体に流し込んでもらった。


「……ッ!? 何をした!?」


「お主が転移すると分かっていれば……なんとでもなるのじゃっ!」


 慌てたアルプトラウムが俺を無理矢理引きはがそうとするが、その一瞬の反応遅れがあれば十分だった。


 こういう時に迷わず俺ごと貫こうとしてくれる二人に感謝だ。あと後で文句言ってやらないとな。


 二人は既に水蒸気の中を突き進み、アルプトラウムの目の前でこちらに剣を突き出していた。


 その瞬間は不思議とスローモーションのように感じる。


 二人の突き出した剣がアルプトラウムの胸元に触れ、ゆっくりとその皮膚をプツッと破り、奴の顔が苦悶に歪む。


 いいぜ、その顔が見たかったんだよ。

 長い事待った甲斐があったのはこっちのセリフだったな!


 そして奴の身体を突き破り、二人の剣は俺に届く。

 予めマリスには剣を避けるように言っておいたので、今は胸元がぱっかりと空いたまるで痴女のような服装だった。

 マリスの反応は的確で、その空いた空間へ二人の剣はするりと入り込む。


 未だかつて感じた事が無い程の激痛。

 頭の芯からつま先までが一気に痺れたあげくに体内に爆弾を仕掛けられてそれが爆発したみたいなそんな感覚。


 だけど、俺はまだ意識を失う訳にはいかない。

 この傷自体は治る。だから、動け、言葉を発しろ。


「メア! だいだらぼっちを出してこいつを吸い込め!」

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