魔王様はいまのところ一番役に立たない。
今までとは明らかに違うアルプトラウムの対応にかつてない手ごたえを感じる。
奴を守る空間の歪みはもう俺達に通用しない。
ショコラが一度破壊してから再びアレを使用する事は無かった。
アルプトラウムはメアの剣だけでなくショコラの光る剣も避けている。
それはあの歪みさえなければある程度攻撃が通るという事なのか、或いはショコラの使っている神器も神に対し効果のある物なのか。
おそらくあの歪みが無い事で攻撃自体は通るんだろうが、ダメージがあるかどうかは別問題だ。
「とりゃぁっ!!」
めりにゃんの魔法を常にメディファスに纏わせアルプトラウムに切りかかる。
俺がやるよりもめりにゃんに任せる方が早いし確実。しかも明らかに属性を複合して上乗せしてくれている。
その上アルプトラウムからの攻撃を障壁で防ぐなどマルチタスク具合が凄い。
「……君はもう少し頑張りたまえ」
アルプトラウムはメディファスを素手で受け止め、俺達ごと振り回して放り投げた。
「畜生なんで俺の攻撃だけ普通に受け止めるんだよっ!!」
まさかとは思うが一番役に立っていないのは俺なのか!?
「おいメディファスもうちっと気合入れろ!」
『やっております!』
「セスティ、メディファスは儂の魔法を増幅してくれておるのじゃ。これで歯が立たないのであればやはり通常の攻撃は奴には届かないのであろう」
めりにゃんの冷静な分析が辛い。
だってそれは、メアとショコラに任せてサポートに回るしか無いという事だ。
そんなの悔しすぎるだろ……。
「自分が役に立たない事がそんなに苦痛かい?」
そんな俺を奴はほくそ笑みながら煽ってきやがる。
「こんにゃろう……!」
「君は自分がどれだけの可能性を秘めているのか気付いていない。……そうか、それが分割の弊害か……最初から知っていればこんな事にはしなかったのだがね」
「何を訳の分からねぇ事をごちゃごちゃと……!」
分割の弊害? 俺が俺の身体じゃ無くなった事が何か悪影響を及ぼしてるとでも言うのかこいつは……。
「おにぃちゃん邪魔」
「うおっ!?」
目の前がキラっと光ったと思ったらショコラが遠くからあの剣で斬撃を飛ばしてきたらしい。
ギリッギリでかわすが髪の毛がバサッと宙を舞う。
「むっ!?」
俺が視界を遮っていたらしくアルプトラウムが慌ててその姿を消す。転移で逃げたようだ。
「ふふ……今のは惜しかったね」
「そうでもないわよ」
どうやったのか分からないが、アルプトラウムが転移する先を先読みしていたメアが剣を振り下ろした。
「くっ……さすがだメア。転移時に発生する魔力の流れを読んだか……」
奴は片腕でメアの剣の軌道を逸らしたが、触れた場所からボロボロと肘の辺りまで崩れ落ちた。
「あら、惜しかったわね」
「ああ、少し君達に力を与えすぎてしまったかもしれないね」
まだ奴の余裕の笑みは消えていない。この状況でも一切負ける気はしないのか、或いはただこの状況を楽しんでいるだけか。
「アル……貴方弱くなったんじゃない?」
「ふむ、それはそうだろうね。私はここに至るまでにあれこれと力を大きく使う事ばかりしてきたのだから君と初めて会った頃に比べれば四分の一程度だろう」
これで四分の一かよ……ある意味こいつが道楽者で助かったというべきか。
完全な状態で世界を滅ぼそうとしてきたら俺達にどうにか出来る気がしない。
いや、弱気になってどうする。
俺はどんな手段を使ってでもこいつをぶちのめしてデュクシを連れて帰らないといけないってのに。
「しかしこのくらい拮抗していた方が楽しめるだろう? とは言えまだまだ私には余力があるがね」
「余裕かましてられるのも今のうちだぜ」
「一番やる事が無い姫ちゃんに言われてもね」
くっそこいつめちゃくちゃ馬鹿にしてくるじゃねぇか!
それならそれでやりようはあるって所見せてやるよ!
オロチを使えば戦況をひっくり返す程の力が手に入るが、こいつの底がまだ分からないうちに使う訳には行かない。
使う時はトドメをさせる確信を得てからだ。
そうじゃないと先にこっちの力が尽きてしまうかもしれない。
以前少し力を借りただけで相当消耗した上にその後動けなくなったからな……そういう意味では事前に試せたのはありがたい。
ぶっつけ本番であんな事になったら目も当てられないからな……。
俺は小声でめりにゃんとチャコに作戦を告げる。
「そ、それはいかんのじゃ」
「そうだべ! そんな事したら……」
「俺の事はいい。どうせ死にはしない。それよりチャコはかなり危険な目に合うが……」
「あだすは平気だべ!」
「そうか、ありがとう。めりにゃんも俺のわがままを聞いてくれ」
「……分かった。しかし手は離さんからな」
その言葉に黙って頷く。
めりにゃんに手を離されたら俺だって困る事になるしな。
「さて、そろそろこちらからも反撃させてもらおうか」
アルプトラウムがゆっくりと腕を広げると、空に無数の光る星が現れる。
いや、それは星などではなく、高熱の炎が球状に凝縮され輝いていた。
その無数の球体が俺達に一斉に降り注ぎ、メアやめりにゃんがは障壁を張るものの、あっさりとそれを突き破ってくる。
「いってぇぇぇっ!!」
そのうちの数発が俺の腕を貫通していき、ぽっかりと開いた小さな穴からは焦げた匂いが。
途中からめりにゃんが障壁の形を円錐状に操作し、受け流す事で直撃を避けてくれた。
こういう応用は俺には到底真似できない。
それを見たメアも途中から同じように真似をしてやり過ごす。
そして、ショコラは……ひたすらそれら全てをかわしていた。
「どうなってんだあいつ……」
ショコラはこちらをチラっと見ていつものドヤ顔を見せつけてきた。
まったく……頼もしい妹だぜ。
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