魔王様の反撃開始。
「……」
ゆっくりと周りを見渡せば、俺だけじゃなく一緒に来ていためりにゃんとメアもげんなりした顔をしていた。
おそらく同じ事をやられたんだろう。
だけど何故だ。
「……おい」
「なぁにおにぃちゃん」
「なんでお前だけピンピンしてるんだよ」
そう、ショコラだけは何事も無かったかのように……いや、むしろニンマリとした気色悪い笑みを浮かべてご満悦だった。
「私はとってもいい夢を見てたから」
納得いかん。
そう思ったのは俺だけじゃないらしくめりにゃんとメアもショコラに冷ややかな視線を送っていた。
「そんな事よりおにぃちゃんがおにぃちゃんに戻ってる」
「……あ、ほんとだ。アルプトラウムの嫌がらせも少しはプラスになる事もあるんだな」
「だから私は楽しかったよ」
お前には言ってねぇよ。
「ふふふ……皆いい顔になったじゃないか。どうだい? 楽しかっただろう?」
アルプトラウムはニヤケ面でショコラと同じくご満悦だ。
「お前……今までの見てたのか?」
「勿論。全員分しっかり見させてもらったよ……姫ちゃんとメアに関しては横槍が入ってしまったがね」
横槍……?
俺の場合はメディファスの事だろうか?
だとしたらメアは……ロザリアか?
「アルプトラウムよ……趣味がいいとは言えぬが、ある意味では感謝するのじゃ」
「ふむ。君は唯一自分の意思だけであの幻想から抜け出してきたね。さすが魔物の王と言ったところか」
めりにゃんは自力で抜け出してきたのか。さすが俺の嫁。今日も可愛い。
「今は魔王の妻じゃよ。……しかしあんな居心地のいい世界を見せおって……怒りたいのにそんな気になれぬわ」
「ちょっと、居心地のいい世界だったなんて妬ましいにも程があるわ……私の方は地獄のような世界だったもの」
メアが殺意のこもった眼をアルプトラウムへ向ける。
「ふふ……しかし君は自分の本質と言う物を見つめなおす事が出来ただろう? ローゼリアの姫が余計な事をしなければ完全に君の精神を掌握出来ただろうに勿体ない」
「うるさいわね……本当に最悪だった。でもあれが私だものね。いいわ、全て受け入れる。受け入れた上で私は私のやりたいようにやってやるわよ」
メアは何か吹っ切れたように、見様によっては軽く自暴自棄ともとれるように吐き捨てた。
「結局誰も脱落せずにこうやって再びお前の前に立ちふさがる訳だ。残念だったな」
そう言ってやったのだが、当のアルプトラウムは気色の悪い薄ら笑いをやめない。
「何を言うかと思えば……脱落させる事が目的ではなく君らが今まさに体験したそれを眺める事こそが目的だったのだから私のやりたかった事は完遂されているよ」
嫌味の一つも効きやしない。まったくデュクシもめんどくせぇ奴に取り込まれたもんだよ。
「……で? 次はどんなお楽しみを用意してくれるのかしら?」
殺意を隠そうともせずメアが奴へ問う。
「残念だがこれ以上の余興は用意していないのでね……そろそろ始めようか。君らはそれを楽しみにしていたのだろう?」
「別に楽しみになんかしてねぇよ。俺にとっちゃデュクシを取り返す手段でしかないさ」
「寂しい事を言うね。ではこの時を楽しみにしていたのは俺だけっすか姫ちゃん」
「その喋り方をやめろ! ぶちのめしてデュクシを吐き出させてやるからな!」
「くくっ、そんな事が出来るのならばやってみるといい。では……かかってきたまえ」
こいつはアルプトラウムであると同時にデュクシでもある。だからさっきみたいな言葉遣いになる事もあるのかもしれないが、どう考えても俺を煽る為にわざと使っていた。
アルプトラウムとデュクシが完全に一つになっていて、デュクシ自体の頭がおかしくなっているのかもしれないがどちらにせよ俺のやる事は変わらない。
分離させる方法については考えがある。
だからそれを実行に移す為に、まずはボコボコにしてある程度弱らせる必要がある。
多少無茶した所でこいつが死ぬとは思えないし、全力で行かないとこちらが負ける。
だったら……最初から全力だ……!
「チャコ、めりにゃん、行くぞ」
「了解なのじゃっ!」
「了解だべっ!」
俺はより強く、早く飛べる羽根をイメージし、チャコの力で推進力を得る。
それと同時にめりにゃんが俺達の身体を風の魔法で包み込み、後方へ向けて突風を放出する事で更に加速。
一直線にアルプトラウムへ迫り、駆け抜けざまにメディファスを一閃するが、するりと奴の身体をすり抜けてしまう。
「くそっ、またそれか!」
「懐かしいだろう?」
アルプトラウムは自分の周囲の空間を歪めて自分に攻撃が届かないようにしている。
初めてこいつと会った時も俺は一切攻撃を当てる事が出来なかった。
まったく厄介な……!
アレをどうにかする方法は何か無いだろうか?
「ばーか」
ショコラが光り輝く剣を離れた場所から軽く振ると、奴の目の前の空間にビキッとヒビが入りボロボロと崩れ去る。
「……これは驚いた。完璧にソレを使いこなしているね。思えばその神威は昔から厄介な代物だった。当時私が人間達と戦った際もそれを扱う奴が……」
「思い出に浸るのは地獄に行ってからにしなさい!」
すかさずメアが雷の矢を雨のように降らせる。
「防御が崩されたといってもこの程度の魔法で私にダメージを与えられると思っているのかい?」
「いいえ」
メアは自分に障壁を張った上でアルプトラウムの背後へ転移していた。降り注いだ矢はただの目くらましだったらしい。
「おっと危ない」
くるりとその場で身体を回転させ、メアが付き出した剣を避ける。
「ふふ……思ったよりも楽しませてもらえそうで嬉しいよ。今の今まで温めてきた甲斐があるという物だ」
俺達を今まで泳がせてきたのは奴から言わせれば楽しみを温めておいた、事になるらしい。ふざけやがって……。
「だったら大事にとっておいた事後悔させてやるわ。避けるって事はコレ、アルにも効くみたいね」
メアのあの剣は俺やメア自身の身体が修復するのを阻害する程の威力がある。
それがアルプトラウムにも効果的だというのであれば、俺達にも勝ち目があるぞ。
『……そろそろ我の出番だな』
オロチか……お前は奥の手なんだからいざって時まで温存だ。
『……ふん、力を吸われるのが怖いだけだろう? まぁいい。ならば人の身でどこまでやれるか見せてみよ』
「ああ、今までおちょくられてきた分、纏めてきっちり返してやるぜ!」
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